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ばれてしまいました
しおりを挟む「こっちだ、まあ座れよ」
私は用意した酒杯を目の前に置いた。
私がいた席には辺境隊の騎士達と王宮軍の騎士達が座り大所帯になった。王宮軍の騎士達の席にいたお姉様も加わった。
「乾杯しよう」
私の隣にまた座った騎士がそう言った。
「いや、初めに献杯しないか」
王宮軍の騎士がそう言った。
「そうだな…、同士達の為に献杯しよう」
皆が酒杯を持ち『献杯』と言い、一口で飲み干した。
私とお姉様は皆の酒杯にお酒を注いだ。
「では改めて乾杯」
『乾杯』と皆が言い飲み干した。
「同じ酒を飲んだんだ、もう俺達に蟠りはない、そうだろ?」
『ああ』と皆が口にする。
お姉様がにこっと笑い、私もお姉様に返すように小さく手を振った。
騎士同士、蟠りがなくなれば仲良くなるのは早い。力自慢をしたり、稽古の内容を話したり、お互い情報交換をしている。専ら剣の話ばかり。
楽しそうにしていれば気になるのが人の性。次から次へと周りに人が集まった。隣の敷物を移動させ合わせる。そうなると私達はお邪魔みたい。お姉様に手招きされ私はお姉様の隣に座った。
耳を澄ませば『そっちの稽古はどう?』『俺等はさ…』と見習い達が話している。
それでもやっぱり蟠りが消えない人達もいる。
「重い腰を上げさせてくれてありがとな」
さっきまで隣に座っていた騎士が私の前に座った。
「いいえ、私はただ憧れの騎士様の姿を見たかっただけです。見て下さい、皆が笑っています。私はその姿を見たかっただけです。やっぱり騎士様は憧れの存在です」
「ほれ」
と酒杯を差し出された。
受け取った方がいい、でも、お酒弱いのよね…。断るのは失礼にあたるし。
「では私がお相手するわ」
隣に座るお姉様が酒杯を手にし一口で飲み干した。空になった酒杯にお酒を注ぎ騎士に差し出した。
「お相手願えます?」
「待て待て、おい誰か、今なら姉ちゃんを独り占めできるぞ」
私は隣のお姉様に『大丈夫ですか?』『私、娼館一の酒豪なの、任せて』とお姉様は片目をつぶった。そしてお姉様は私を後ろに隠した。
お姉様の前には酔い潰れた騎士が山のようになっていった。
ポンと肩を叩かれ『面白いことになってるな、どれどれ』と私の隣に座ったのはおじさま。
「俺はこの可愛い娘に酌をしてもらおうかな」
目の前に転がる酒杯を差し出され私はお酒を注いだ。
「可愛い娘に注いでもらった酒はまた一段と上手いな、なあ?」
にこにこと笑っているようで『お前何してるんだ』と目が訴えてくる。
「まあまあ、どうぞどうぞ」
私はにっこり笑って酒杯にお酒を注いだ。
おじさまはクイッと一口で飲み干し立ち上がり、私の手を持って私を立たせた。
「隊長、どうしました」
「俺の席に連れて行くだけだ。お前達、羽目を外すなよ、これは隊長命令だ。もし羽目を外すなら自己責任だからな、羽目を外さないように楽しめ」
『行くぞ』と手を引かれ、席には戻らず宴の席から遠ざかった。
「何をしてるんだ、お前はまったく…」
「よく気づきましたね」
「一人だけ何か浮いてるな、って見てたらどんどんお前の席に集まりだしたからな。もしかして、まさかと思いずっと観察していた。それに顔を隠すってことは顔をみれば気づかれるという事だ。だからピンときた。使者としてお前は辺境に居たしな。で、声を聞いて確信した。
それとな、俺はどれだけ酒を飲んでも飲まれたことはない。お前も知ってるはずだ。なのにお前、羽目を外さないでって言ったよな?酌の相手を用意してたからだな」
「娼館のお姉様方の色香に惑わされないようにと思いまして、一応?ご忠告をと」
「まあ雰囲気が悪かったから助かったが、気が気じゃなかったぞ。酔い潰れても男は男だ、何かあってからじゃあ遅いんだからな」
「ご心配をおかけしました。それでも王宮軍と辺境隊の蟠りが拭えないと、それこそ大惨事になりかねませんもの。その為の下準備だとお思い下さい。
恕し、その心の準備がなくては。身近な、同じ志を目指す者同士、心の下準備には最適だと思いませんか?」
「だからってお前がそんな格好する必要ないだろ」
「私がこのような格好だから彼等は話を聞いてくれるんです。私がこのような格好だからあちらも心を開いてくれるんです。だから場が和んだんです。
かしこまったドレスでリーストファー様の妻だと名乗れば、場が和みますか?私の声が届きますか?」
『分かったから』と私の頭を撫でるおじさま。
「リーストファー様はずっと険しい顔を?」
「まあな」
「隣の騎士が言ってました。裏切り者と」
「仲間に剣を向ければそう言われることぐらいあいつも分かってる。それでもあいつは王宮軍の騎士だ、辺境の騎士ではない」
「はい」
王宮軍の騎士、陛下に忠誠を誓い、国の安寧の為に剣を振る。
かつての辺境隊もそうだった。
今の辺境隊は陛下への忠誠が薄れてる。己の為に、己の信念の為に剣を振る。
そしてそれは謀反という名になり、国を脅かす存在になった。
リーストファー様はそれを正そうと剣を振った。それでも仲間に家族に裏切り者と言われたリーストファー様を思うと、リーストファー様の心を思うと、胸が張り裂けそうに痛んだ。
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