褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

文字の大きさ
116 / 152

地下へ続く階段

しおりを挟む

夕食も終わり、今はリーストファー様と一緒に先生と呼ばれていた男性の部屋にいる。


「クスッ」

「どうした?」

「懐かしい事を思い出しました。まだ子供の頃、お父様は夜遅くまで執務室にこもっていたんです。今思えば昼間はリックを鍛えていたり王宮へ行ったりしていたので、夜遅くまで執務におわれていたと分かります。

ですが当時読んでいた本の内容が隠し部屋が出てくるお話だったんです。本棚の本を引けば本棚が動き隠し部屋が現れました。私はお父様が執務室にこもるのは隠し部屋があるからだとそう思いました。その部屋で一人だけ何かをしていると。お父様は私やライアンが執務室に入るのを良く思っていなかったので」


執務室には陛下からの密書だったり、まだ子供の私やライアンが読んではいけない内容の書類だったり、きっとお父様にとって執務室は当主の砦だった。

公爵家を公爵領を、そこに関わる全ての人を守る場所。

部屋の外から見た執務室は、本棚にはぎっしりと分厚い本が並び、机の上には書類の束が置いてあった。主のいない執務室でも足を踏み入れてはいけない聖域のような、そんな空気があった。


「エーネ国にそんな仕掛けを作る細工職人もいないのに、そもそも隠し部屋を作って何を隠すというのか。執務室には小部屋もあります。その小部屋にはお父様と筆頭執事しか入れません。わざわざ隠し部屋を作る意味がないと。

ですが年季の入った本棚をこうして見ると思い出してしまって」

「その本では何を隠していたんだ?」

「奥様の姿絵や肖像画、それから下手な刺繍のハンカチや手紙、それから石も置いてありました。奥様から貰った大切な物。その旦那様にとって奥様と出会ってから頂いた宝物が飾ってありました。それを隠していたんです。

リーストファー様なら何を隠します?」

「俺か…、俺ならミシェルの絵かな」

「隠さず捨てて下さい」


リーストファー様は『ククッ』と笑っている。


「でも誰かに見せたくないもの、見られたくないもの、見られては困るもの、隠し部屋なんてそんなものだろ」


リーストファー様は本棚から本を一冊手に取りペラペラと本のページをめくる。


「まあでもこの本棚は動かしてはいないようだぞ?こんな重い本棚を動かせば床に傷がつく。見た所動かした形跡はない。だが隠し部屋か…」


リーストファー様は本をペラペラとめくり、最後のページをめくり終わった。


「うん、隠し部屋があるのかもしれないな」


本を本棚に戻しながらリーストファー様は言った。


「どうしてそう思うのです?」

「孤児院の周りには小屋や家はなかった。戦闘の訓練は裏の森の中で人目を盗んでできる。だが恐怖を与える部屋は必ずこの孤児院の中に作ったはずだ。俺なら自分の部屋の身近に作る」

「拷問部屋ですか?」

「ああ。誰も近づかず、声を出しても聞こえない。そして闇の世界…」


リーストファー様は私を見つめた。


「この下だ」


リーストファー様はコンコンと足で床を鳴らした。


「地下?」

「地下牢と言うだろ?辺境でも地下に牢屋がある。光も入らず閉塞された空間では恐怖が勝つ。精神から追い込み早く出たいと、この閉ざされた闇から抜け出したいと罪を認める」


リーストファー様は机を動かし絨毯をめくった。

床には窪みがあり床の一部を持ち上げれるようになっていた。


「ミシェル、リックを呼んできてくれ」


リーストファー様の真剣な顔に私は頷きリックを呼びに行った。

リックと部屋に戻り、リックはリーストファー様の足元を見た。


「きっとこの床を持ち上げたら地下へ続く階段がある」


リックは頷いた。


「俺とリックが中に入ったらこの床を戻しミシェルはこの部屋から出てくれ」

「危険です」

「それが分かっているならこの部屋に居るのも危険だと分かるな?」


リーストファー様とリック二人の真剣な顔に私は頷いた。


「俺達が中に入ったらベーン副隊長かカイン小隊長を呼んで来てくれ」

「分かりました」


リーストファー様はランプを持ち、リックが床を持ち上げた。床の下には思った通り地下へ続く階段があり、リーストファー様とリックは階段を下りて行った。


「では閉めます」


二人に声が届いたのかは分からない。それでも私は床を下ろしベーン副隊長かカイン小隊長を探した。

辺りをキョロキョロと見渡し探していても二人の姿は見当たらない。


「おい、何をそんなに焦ってるんだ」


突然肩を叩かれ体がビクっと震える。


「ルイス様…」


ルイス様の顔を見て、知らず知らず入っていた力が抜けた。

ルイス様に事情を話し、ルイス様はベーン副隊長とカイン小隊長のもとに走って行った。

部屋の外で待っているとベーン副隊長とカイン小隊長、それからルイス様がこちらに走って向かってきた。


「この部屋か?」

「はい」


ベーン副隊長とカイン小隊長は部屋の中に入った。


「カインは俺と待機。ルイスは夫人を安全な部屋に連れて行け」


ベーン副隊長はそう言うと扉を閉めた。


「行くぞ」

「ですが、」

「ここでは足手まといになる、それくらい分かるだろ?」

「はい…」


もし誰かがまだ地下に潜んでいて、リーストファー様とリックが取り押さえたとしても、その誰かは暗殺者の可能性が高い。

地下から出てきた時、もし私がこの場に居たら真っ先に私を人質に取るだろう。この中で一番弱く、安全な場所まで連れて歩くには女性の方が都合がいい。私が誰か分からなくても。


「心配なのは分かるけどな、信じろ。リーストファーをお前の護衛を。あいつ等にとってお前が傷つくのが一番耐え難い。だから今は安全な場所に行くぞ。リーストファーの代わりに必ず護ってやるから」

「はい、お願いします」


私はルイス様の後ろを付いて行った。

離れ難い、それでも今は我儘を言う時ではない。

だから二人共、無事でいて…。



しおりを挟む
感想 130

あなたにおすすめの小説

誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる

吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」 ――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。 最初の三年間は幸せだった。 けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり―― 気づけば七年の歳月が流れていた。 二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。 未来を選ぶ年齢。 だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。 結婚式を目前にした夜。 失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。 「……リリアナ。迎えに来た」 七年の沈黙を破って現れた騎士。 赦せるのか、それとも拒むのか。 揺れる心が最後に選ぶのは―― かつての誓いか、それとも新しい愛か。 お知らせ ※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。 直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

愛され妻と嫌われ夫 〜「君を愛することはない」をサクッとお断りした件について〜

榊どら
恋愛
 長年片思いしていた幼馴染のレイモンドに大失恋したアデレード・バルモア。  自暴自棄になった末、自分が不幸な結婚をすればレイモンドが罪悪感を抱くかもしれない、と非常に歪んだ認識のもと、女嫌いで有名なペイトン・フォワードと白い結婚をする。  しかし、初顔合わせにて「君を愛することはない」と言われてしまい、イラッときたアデレードは「嫌です。私は愛されて大切にされたい」と返した。  あまりにナチュラルに自分の宣言を否定されたペイトンが「え?」と呆けている間に、アデレードは「この結婚は政略結婚で私達は対等な関係なのだから、私だけが我慢するのはおかしい」と説き伏せ「私は貴方を愛さないので、貴方は私を愛することでお互い妥協することにしましょう」と提案する。ペイトンは、断ればよいのに何故かこの申し出を承諾してしまう。  かくして、愛され妻と嫌われ夫契約が締結された。  出鼻を挫かれたことでアデレードが気になって気になって仕方ないペイトンと、ペイトンに全く興味がないアデレード。温度差の激しい二人だったが、その関係は少しずつ変化していく。  そんな中アデレードを散々蔑ろにして傷つけたレイモンドが復縁を要請してきて……!? *小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

処理中です...