褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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素敵な夫婦

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リーストファー様が畑を耕している間、私とニーナはお爺さんに頼まれ畑の収穫をしている。


「これは?」

「まだ少し早いと思います」


『これは?』と私は毎度ニーナに聞いた。ニーナも詳しい訳ではない。二人で悩み、収穫した物と見比べていた。


「こっちはもう大丈夫。こっちはまだ駄目よ」


いつの間にか後ろにお爺さんの奥さんが立っていた。ニーナが言った通り足が少し不自由なのか木の棒を杖代わりについている。


「お断りもいれずに畑に入り申し訳ありません」

「どうせあの人が無理を言ったんでしょう?」


優しい顔でお婆さんは笑った。


「これも持って行ってくれる?」


お婆さんは大きなバスケットを持っていた。


「これは、」

「お昼ご飯よ。貴女達の分も入っているから食べて?お口に合えばいいんだけど…」

「ありがとうございます」


私はお婆さんに頭を下げバスケットを受け取った。お婆さんの優しさに心が温かくなった。本当に感謝しかない。


「私ね、元はエーネ国の国民だったの」


私は驚きお婆さんを見つめた。


「もう何十年も前の話よ?エーネ国よりもバーチェル国で過ごした時間の方が長いくらい。

国も親も兄妹も、仲が良かった親友も、私は全部捨ててあの人と結婚したの。結婚した事を後悔した事はないわ。でも、年を取ると駄目ね、捨てたはずの家族や親友の顔を思い出すの。今どうしているのかそればかり考えちゃうのよ。会いたいなんて言えないのにね。そうでしょう?どの面下げて会えると言うの?

父さんも母さんももうすでに亡くなっていると思う。兄さんだって妹だって分からないわ。親友だってよ?でも、皆元気にしてるかしらって、元気にしていたらいいなって思うの。ここがエーネ国になったかしらね?懐かしい思い出を毎日夢で見るのよ」


悲しげな顔で笑ったお婆さん。


「お会いしてはどうですか?」


お婆さんは悲しげな顔で顔を横に振った。

私はお婆さんの心が少しでも軽くなればと思った。


「エーネ国とバーチェル国は昔から争いが絶えませんでした。それでも隣国なのでバーチェル国の物が何一つこの国に入ってこなかった訳ではありません。なかには移り住んだ人もいるでしょう。ですが時代が時代でした。今では考えられませんが、人の行き来は今のように頻繁ではありませんでした。バーチェル国へ行きたいのなら国を捨て親を捨て、もう戻らないとそう覚悟してバーチェル国へ行った人もいます。そのような時代があったのも事実です」


きっとお婆さんもその覚悟でお爺さんに嫁いだ。反対もあっただろう。それでもお爺さんに付いていきたい、その心を優先した。


「ですが私は思うのです。確かに人の心は簡単ではありません。自分達を捨て、愛する人の手を取った貴女を憎らしく思ったり恨んだりした事もあるのかもしれません。それでも月日が経てば貴女と同様に思うのではないでしょうか。

元気にしているだろうか。貧しい生活はしていないだろうか。知り合いが誰もいない土地で苦労はしていないだろうか。今も幸せだろうか。

亡くなってしまったかもしれないお母様は特にそう思っていたのではないでしょうか。会えるなら会いたい。会って抱きしめたい。幸せならそれでいい。

それでもそれが許されない国の情勢でした。でも今は同じエーネ国の民です。許されない壁はありません。ただ、先程も言ったように心は簡単ではありません。それは貴女もご家族も…。

でも思いませんか?空はエーネ国でもバーチェル国でも同じ空です。太陽も月も同じものを見ています。国境と言う国と国の境がありますが、大地は繋がっています。馳せる思いは同じなのではと、同じであってほしいと、私は思います」


それが人の情だと私は思う。昔は憎しみが強かったとしても月日が流れ、思い出すのは楽しかった幸せだった昔の思い出。兄と妹と共に遊んだり喧嘩したり、家族には言えない恋の話を親友に話したり、そんな誰にでもある日常の光景。

ふとした時に思い出す。あの時味方になっていたら、あの時違う言葉をかけていたら、と。

空を見上げ幸せを願ったのかもしれない。『あの子は今幸せ?』と太陽に聞いていたのかもしれない。『幸せに暮らしていますように』と月に願ったのかもしれない。

繋がる大地の間にある壁が、まるで拒絶のように思えて心を痛めたのかもしれない。この壁さえなければいつでも顔を見れるのにと。声が聞こえるのにと。話が出来るのにと。


「家族に会うつもりは今後もないの。だから3人だけの秘密ね?」

「ですが」

「私だけ家族に会えないわ。あの人も私と結婚して家族を捨てたの」


エーネ国の国民のお婆さんを娶るというのは、勿論お爺さんも家族に反対された。隣国とは言え敵国。その敵国の嫁を娶る事は国への裏切り行為。そう捉えられた時代だった。

働く場所も制限されただろう。同じ国の人達から酷い扱いを受けただろう。エーネ国と戦う為に兵士を集めた時、お爺さんは真っ先に志願したのだろう。自分はバーチェル国の人間だとそう示す為に。妻の祖国に刃を向ける、そう分かっていてもバーチェル国で暮らす以上バーチェル国の人間だと。

お爺さんは言っていた。この家と畑は財産だと。本当にそう。汗水垂らし一生懸命働いてようやく築けた自分の城。

人付き合いをしなかったのもお婆さんを守る為かもしれない。自分が非難を受けるのはいい。国を捨てさせ家族を捨てさせ自分に付いてきてくれたお婆さんが非難を受けるのは耐え難かった。エーネ国の人間だと知られれば凌辱されたかもしれない。

だからこっそり静かに隠れて暮らしてきた。

リーストファー様は貴族らしくはない。それにバーチェル国の人間だからと暴行する訳でも暴言を吐く訳でもない。

お爺さんはリーストファー様を試してみようと思った?

信じるに値するか。

そして信じてもいいのかもしれないと思った?

だからお婆さんを一人家に置いて家から離れた。

そして今私を試している?

お婆さんが一人でも外に出られるか。


「私はあの人と結婚できて幸せ」


そう言ったお婆さんは本当に幸せそうに笑った。


「はい、お二人はとても素敵な夫婦です」



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