褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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幸せな時間から一転

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「今日の風は気持ちいいですね」

「そう、か?」

「自然の息吹を感じませんか?」

「まあ自然だな…」


今私達は領主の邸から領民達が暮らす家に歩いて向かっている。

あれは今朝の話。

『リーストファー様、今日は歩いて向かいましょう』

歩いて向かいませんか?と聞けば『今日も馬で向かおう』そう言われると思って『向かいましょう』と私は主張した。

『フィンの足でも歩いてこちらに来る事ができるのか検証した方がいいと思うんです』

子供の足でも歩いてここに来れるか、まずは私達が歩いて確かめないといけないと。

距離は?危険な所は?かかる時間は?

実際に歩いてみないと分からない。

決して馬に乗りたくないからじゃないのよ?

リーストファー様は私の意見を無視する人ではない。

『確かめるのはいいが、それはリックだけでいいんじゃないのか?』

『リックのような体力のあり余ってる人と子供を一緒にしてはいけません。私のように女性の方がより子供に近いと思います』

『ならニーナとリックに頼むか』

リーストファー様がそう言うのも想定内。

『そうするとニーナは早く行かないとと急いでしまいます。子供は道草をしながら時に立ち止まり、虫を観察したり、木が落ちていたらそれを拾い騎士ごっこをしたり、急いで歩いては検証にもなりません。

やっぱりここは4人で歩いて向かいましょう』

私は有無を言わせないように言い切り、まるで良い案だわと微笑んだ。


「あぁ、気持ちいい風」

「ミシェル、今日は無風だ」

「リーストファー様は感じませんか?風に靡くスカート、それに、」

「歩いているんだからスカートは靡くだろ」

「それにそれに、顔に当たる気持ちいい風」

「無風でも歩いているんだから汗が空気に触れてそう思えるだけだ」

「もう!」

「ミシェル、風を感じたいなら馬に乗るか?馬で駆ければ風を感じられるぞ?なんなら今から風を感じようか」


リーストファー様はニィと笑って手綱を持ち馬を連れて歩くリックを見つめた。


「結構です!」


『ククッ』と笑っているリーストファー様。


「なら俺もミシェルの言う風を感じるか」


そう言うとリーストファー様は私の手を繋いだ。『まあ』と喜んだのも束の間。


「リ、リーストファー様、早い、早いです」


リーストファー様は私の手を引き、リーストファー様は決して早歩きをしている訳ではない。歩幅が大きいだけ。私の倍以上ある歩幅でただ歩いているだけ。私は自然と早歩きになってしまう。


「ミシェル、風を感じるだろ?」

「わ、分かりましたから、も、もう少し、ゆっくり…はぁ、はぁ…」

「気持ちいいな」

「そ、そう、ですね…、はぁ…、はぁ…」


風を感じるどころか付いて行くのに精一杯で風なんて感じられないわよ!何だったら暑いくらいだわ。

さっきまで感じていた風はどこ?迷子になってしまったの?

リーストファー様が止まり自然と私も止まった。立ち止まると暑さが歩いている時より倍以上に感じられた。

疲れた……


「リック達、遅いな」


涼しい顔でリーストファー様は遠くにいるリックとニーナを見ている。


「ミシェル、今日の風は気持ちいいな?」

「……無風、です」


『ククッ』と悪戯が成功した少年のようにリーストファー様は笑った。

立ち止まれば風が吹いていないのは分かる。じわじわと汗が出てきて暑さだけが私を包む。

私はその場に座りこんだ。疲れて立っていられない。

リーストファー様もしゃがみこみ懐からハンカチを取り出し私の汗を拭いた。


「明日からは馬で行くぞ」

「……はい」


リーストファー様の有無を言わせない言葉に私は頷くしかなかった…。


「競争でもしていたんですか?」


私達に追いついたリックは笑いながら言った。


「まぁ、ある意味勝負だな」

「で、姫さんは負けたと」


えぇえぇ、リーストファー様には敵いませんよ。

リーストファー様とリックは笑っている。ニーナはスッと私から視線を外した。


「馬に乗りますか?」

「いや、すぐそこだ、このまま歩いて向かおう」


先に立ち上がっていたリーストファー様の手を借りて私も立ち上がり、このまま歩いて今日の目的地へ向かった。

今から向かう家には母親と女の子が住んでいる。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん」


元気に手を振るフィンとその隣にはお爺さんの姿。フィンとお爺さんと合流しそのまま親子の家に向かう。

リックとニーナは昨日行った2軒を回りパンや食料を届けている。朝早くリックには辺境の街へ行ってもらいパンを買ってきてもらった。

今日はそのパンに具を挟んだ昼食も持参した。

私達はパンと野菜を持って3軒目の家に着いた。お爺さんの様子も気になる。お婆さんにお爺さんの様子を聞き『また帰りに寄ります』と伝え、ちょうど戻ってきたリックとニーナと共に親子の家に向かう。

お婆さんと別れ少し歩けば女性と女の子が暮らす家の前に着いた。

私は戸を叩いた。


「おはようございます。今度こちらの領地を治める者です。ご挨拶に伺いました」


『はーい』と家の中から聞こえ、私は戸の前で待っている。

戸が開き女性と目が合った。


「ミシェル!」
「姫さん!」


リーストファー様とリックは同時に私の名を叫び、私は目の前が真っ暗になった。



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