私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ

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9 私 ②

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高級な宿に一週間滞在している。その間ワンスさんと色々な所に出かけた。劇を観たり踊り子さんのお店へ行ったり食事をしながら楽器演奏を聴いたり、驚いたのは芸をする動物達の見世物小屋へ行った事。

異文化の娯楽が楽しめるこの街の素晴らしさに感銘を受けた。

5歳まで住んでいた王都の街並みがここほど活気づいた街だったのか覚えていないけど、貴族が暮らし地方から人が集まる王都も活気づいていたのかもしれない。

フェインもきっと今の私と同じ気持ちだったのかも。帰りたくない、まだこの街にいたい、そう思うもの。それにここでなら何でも成功するような気になる。

でも私には帰る家があり羊と暮らす領地がやっぱり落ち着く場所だと思った。

泡沫の夢を見させてもらった、そう思う。

貴族のような振る舞いも、非日常のこの街も、今の私には分不相応だもの。



8日目の朝、


「ハンナ、今日は友人に会ってもらいたいんだ。どうしてもハンナに会いたいってうるさくて」

「分かりました。お会いできるのが楽しみです」


ワンスさんの友人がどんな人か気になっていた。ワンスさんは宿泊中も友人に会いに行くと夜に出かけ朝まで帰ってこない日があった。

それに初めて友人を紹介してもらえるのが嬉しかった。『ここには友人と呼べる奴はいない』と領地には友人がいないとワンスさんは言っていた。だから少し心配だった。人当たりも別に悪くないし真面目に働く良い人なのにどうして友人がいないのか。平民の中でも格差があると妬みを買いやすいのかもしれない。


ワンスさんに連れられて向かった先。一軒の店に入り個室に通された。


「ここは?」

「食事をする所だよ」


個室で食事をするという事は高級な店なのかもしれない。

暫くすると一人の男性が入って来た。一瞬鋭い眼光に怖い人だと思ったけど朗らかに笑って私達の向かいの席に座った。

ワンスさんよりも年上の男性…

友人と呼ぶには年上過ぎるような…

勝手に同じ年くらいだと想像していた。


「ワンス、この子か?」

「あっ、はい。妻のハンナです」

「可愛いじゃないか」

「ありがとうございます」


ワンスさんの話し方で友人とは少し違うのかも、と思った。ワンスさんが緊張しているように思えたから。


「で、話は済んでるのか?」

「それが……まだ…でして……」

「お前!」

「ヒッ、すみません、すみません…」

「まぁいい。奥さん」


男性が私を見た視線。その視線に背筋が寒くなった。


「はい……」

「あんたの旦那、俺に借金があるんだよ」

「借金、ですか?」

「この男は賭博で大損してね。まぁ賭け事の才能がないのに賭けるわ賭けるわ。負けが続けば普通なら止めるのにこの男は止められない。正当な賭博場ではもう出入り禁止になって闇の賭博場でしか出来なくなったんだ。闇っていうからには賭け金も跳ね上がる。勝てばそれなりに遊べるけど、残念な事にこの男は負け続けた。そうなると借金が増える、それは分かるだろ?」


言ってる事は分かる、分かるけど…。


「ワンスさん?」


私はワンスさんの顔を見た。


「仕方がないだろ?毎日働いて俺にだって息抜きが必要なんだ」

「だからって」

「もう父さんには頼めない。今度借金作ったら俺は殺される。ハンナだって俺に死んでほしくないだろ?

もう誰も俺に金を貸してくれないんだ。父さんも友達も、皆が俺を見捨てた…」


確かに帳簿付けは私やワンスさんがしていてもお金の管理だけはお義父さんだった。そういう意味では自由に使えるお金を貰った事がない。必要性を感じなかったから気にしていなかったけど…。


「俺だってもう止めようって思った。それでも止められないんだ…。初めは少ない額だった。でも勝てば、勝てるんだ、信じてくれ。実際初めのうちは勝ててた。だから大金を賭けるようになったんだ。俺は悪くない、悪いのはこいつ等なんだ。俺の足元を見て…」

「言い掛かりは止めてくれ。俺達は何度も声をかけただろ?もう止めた方がいいんじゃないか、本当に良いのかってな。それでも止めなかったのはお前の意思だ」


男性の朗らかな笑顔が怖い。


「ワンスさん…」

「ハンナ、お前は俺の妻だよな?夫婦は助け合うものだよな?ハンナは俺を見捨てたりしないよな?」

「ですが私に借金を返すお金はありません。お義父さんに私も一緒に頭を下げますからお願いしましょう」

「ハンナ、どうして俺がハンナを嫁に選んだと思う。母親に捨てられて恋人にも捨てられたお前だからだ。俺はハンナの事を聞いた時この子だと思った。お前ならもし突然居なくなっても誰も心配しない。それにお前を探す人もいない。だってお前は天涯孤独の女だからだ。お前はこの国で死んだ、そう言っても誰もお前の死を疑う人なんていない、そうだろ?

お前は俺が見つけた。俺が好きに使える駒を俺は手に入れたんだ」


そう言ったワンスさんの笑った顔があの馬車で見た笑った顔だった。


「俺の代わりに借金を返してくれ」

「ワンスさん!」

「俺が居なくなったら家業は立ち行かなくなる。でもお前が居なくなってもお前の代わりはいくらでも居る。また使用人を雇えばいいだけだしな。今まで金がかからなかったけどまぁそれは仕方がない」



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