私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ

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10 私 ③

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ワンスさんはどこか人が変わったように見えた。


「ハンナは何も心配しなくていい。ハンナはただ借金を返せばいいだけなんだ。それくらいハンナでも出来るだろ?」

「どうして私が…」

「どうして?それは俺の妻だからだ。妻は夫の言う事だけを聞いていればいい。夫の俺が頼んでいるんだ、分かるよな?」


私は嫌だと首を横に振った。


「おいおい待て待て、奥さんあんたも俺に借金をしてるんだぞ?」


私は男性の顔を見た。

私は目の前の男性にお金を借りていない。なのにどうして借金が?


「奥さん、あんたここに来て高級な宿に泊まったよな?それに街で服や宝石を買っただろ?後、色々出かけ観て遊んだだろ?」


確かにこの街で買い物も娯楽も楽しだ。平民が泊まるには高い宿にも泊まった。でもそれはワンスさんが…。


「これがその時の領収書だ」


男性が私の目の前に紙を置いた。


「ここにお前さんのサインがあるよな?」


確かにサインは私の名前。でもサインをしたのはワンスさん。

領地でお母様と暮していた時も一人になって暮していた時も何か購入する時はお金を支払っていた。平民はお金を払わないと売ってもらえないから。

貴族はお店やお抱え商人から物を買う時はサインをすればいい。お父様が生きていた時、お母様も侯爵家に商人を呼び何点か購入しサインをしていた。私はお母様の真似をして色々な紙にサインをしていたのを覚えてる。

平民でも裕福なワンスさん家も商人を呼びお義母さんがサインをしていたのを見た事があった。だから今回ワンスさんがサインで買い物をしていても何も気にならなかった。

平民でもお金が払えるか払えないか分からない私とワンスさん家は違うから。


「私は、サインを、してません……」

「あのな、俺達はサインをしたかしてないかは関係ないんだ。誰の名前でサインが書いてあるかないかだ。

そしてこのサインの名前は全部奥さんあんたの名前だ」

「そんな……」

「恨むなら旦那を恨むんだな。確かに入れ知恵をしたのは俺だがそれを実行したのはあんたの旦那だ」

「そん……」


私は頭が真っ白になった。

何も考えられない。これは現実なのか夢なのか、それさえもよく分からない。


「ハンナ」


私の肩に置かれた手。私は私を呼ぶ声の方を見た。


「ワ、ワンス、さん……」

「ハンナ、いいか?お前は借金を返さないといけない。借金の返し方はこの男に任せてある。お前はこの男の言うようにするんだぞ、いいな?」

「い、や…、嫌です……」

「ハンナを嫁に貰って俺は本当に良かったよ」


爽やかな笑顔を私に向けるワンスさん。

何も考えられなくてぼうっとしている私を無視してワンスさんは男性と話をしている。


「ハンナはあまり手垢が付いていない。初めてではないが俺も極力手を付けなかった。だから高い値を付けてくれ」

「まぁお前も商品の値を下げる真似はしないわな」

「ああ、数える程度だ、初めてに近いと言ってもいい」

「分かった分かった、それなりに顔も良いしな。体付きも、少し胸が無いが大丈夫だろ」

「助かるよ」

「これに懲りてお前も賭け事は止めるんだな。嫁を娼婦に落とすなんて夫のする事じゃない」

「俺が好きに使える駒だって言っただろ?」

「俺は忠告したからな」

「まぁ覚えていたら覚えておくよ。後はよろしく頼む」


ワンスさんは私の手を握った。


「ハンナごめんな。俺にはハンナしかいないんだ。ハンナはいつも裏切られてきただろ?母親に恋人に裏切られて悲しかっただろ?俺は裏切らない。だからお前も、

お前だけは俺を裏切らないでくれ」


そう言うとワンスさんは無情にも手を離し部屋を出て行った。

部屋に残された私。


「おい」


男性の声に屈強な男性が二人入って来た。私の両脇を抱え逃げようにも逃げられない。


「上に連れていけ。マダムには話がついてる」


私は部屋から無理矢理連れて行かれた。

どれだけ泣いて叫んでも、助けを呼んでも、ワンスさんの名前を何度呼んでも、私を助けてくれる人はいない。


抱えられるように階段を上がり、その先にいたのは一人の女性。


「この子かい?」


男性二人に抱えられている私の顎を上に向けられ女性と目が合った。


「あんたは今から娼婦だ」

「娼、婦…?」

「娼婦が何かそれくらいは知ってるだろ?」


私は嫌だと顔を横に振る。

娼婦が何か、それくらいは私でも知ってる。女性が男性に媚を売って体を売る所。


「ここでは泣いても叫んでも誰も助けてはくれないよ。

ここは自分の体が金になる。だけどねここは泡沫の恋を売る所だ。自分の体を使い客を楽しませ快楽を与える夢の館だ。

金で夢を売る、娼婦は劇の役者や踊り子達と同じだ。客を楽しませその時間を金で買ってもらう。

娼婦だからって下を向くな、胸を張な。娼婦にだって矜持があるんだ」


私は女性を見つめる。


「あんた達離しな、この子は逃げない」


男性達の手が離れ私はその場に崩れ落ちた。


「今は思いっきり泣きな」


女性が私の頭を撫でた。

次から次へと流れ出る涙。声を出して泣いた。泣いて叫んでもどうにもならない事くらい分かってる。でも今の私に出来る事は泣いて叫ぶ事だけ。

ようやく夫婦になれると思った矢先だった。俺は裏切らないから私も裏切るな?ワンスさんは初めから私を裏切っていたじゃない。何が嫁で良かったよ。初めから私を借金の形にしようと思って結婚したんじゃない。



泣くだけ泣いたら

自分の内で何かが沈んでいくのが分かった……




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