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24 マダム
しおりを挟む後日、お礼を兼ねてガラン様に手料理を振る舞った。少し良いお肉を焼き、少し高いお酒を用意した。
「酒か…」
「お嫌いでした?」
「いや、昔酒に細工をされてな。飲み慣れていないから細工をされてもこんな味かとしか思わないからな」
「私が何か細工をすると思います?」
「それもそうだな」
確かにガラン様はここではお水ばかり。お酒を用意しても飲んだ事はない。私も前にお客さんに勧められてお酒を飲んだ事があるけど味がついていて何か細工されていても分からないかもしれない。
私はお酒が弱いからほとんど飲まないし、お酒の味も分からない。もし私が飲むお酒に何か細工をされても私もこんな味なのねと気付かないかもしれない。
それが毒でも媚薬でも…。
毒なら死ぬかもしれない。媚薬なら醜態をさらす事になるかもしれない。私は醜態をさらそうが別に傷は付かない。でもガラン様なら将軍の地位が揺らぐ事になるかもしれない。
将軍はガラン様自身が努力で得た地位。ガラン様はいらないと言うかもしれないけど、でもそれは国王がガラン様の強さを認めた証。この国一番の剣士だと認めた証。
お酒が進み、
「俺はさ、別に強くない。国王の目に止まったのは事実だけどな」
「酔ってます?」
「いや、ただ今なら酔っ払いの戯言になるだろ?戯言なら本音を言っても本音とは取らない」
確かにお酒の席で何かを言っても酔っ払いの戯言、そう思うかもしれない。お客さんにも『そんな事言ったか?』と言った事を忘れる人もいる。
でもガラン様を失脚させたい人からは言質を与える事になる。ガラン様はそんな失態をしないと思うけど。
「将軍だ、国一番強い騎士だともてはやされているが、俺より強い騎士は他にもいる。その人達ではなく俺が将軍と呼ばれ今の地位にはいるが…、だからこそ俺は強くなければならない。この地位を授けた国王の為にも、俺を育てた爺さんの為にも、俺は強くなり力をつけないといけなかった。
守られてばかりでは駄目なんだ。
だから俺は誰も俺に手出しができないように実力をつけた。戦だろうと賊だろうと、この国を守る為に、俺の名を轟かせた。ようやく将軍の身分に見合うようになったんだ」
ガラン様は何か考え事をしているのか目を瞑った。
目を開けた時、私と目が合った。
「うん、よし。ハンナ、少し留守にする。当分ここには来れないだろう」
「分かりました」
「一度王都に行ってくる」
「王都ですか?分かりました、お気をつけて」
それからガラン様はここには顔を出さなくなった。
それからマダムにだけはクラリス商会の奥様が私のお母様だと伝えた。マダムはとても驚いていた。『そんな人には見えなかった』と。
「ハンナ、私達娼婦はほとんどが親に売られ捨てられた。女に産まれたばかりに売られたんだ。誰も女に産んでくれなんて頼んでないのにね。男を知らない14歳の時に私はここに売られたよ。その時幼い妹だけは売らないでくれと親に頼み毎月お金も送った。お金を稼ぐ為なら嫌な男にでも体を差し出したさ。それに娼婦は買ってもらってなんぼだからね、どんな客でも相手したよ。妹を守る為なら何でも出来た。
でも私の親はまだ女の体に出来上がっていない妹まで売ったんだ。まだ妹は8歳だったよ。子供の体が好きな若造に妹は殺されたんだ。
私の父親は騙されやすい人だった。儲け話なんて大抵がお金を奪われさよならだ。それでもまだ土地があった時は良かった。売れる物が無くなり今度は子供を売った。普通なら一度騙されれば分かるだろうにあの男は今度こそはとまた騙された。馬鹿なくせに、いや、馬鹿だからいいカモにされたんだ。母親は父親に逆らえない人だったからね、それからは子を産めば売れる。それに私からも金を巻き上げられる。あの人達は私に寄生する蛆虫だ。自分で蒔いた種は自分で返せって言うんだよ。
私はね、どんな理由だろうと子を捨てる親が大嫌いなんだよ。子は親の道具じゃない。自分の子供だからといいように扱っていい訳がない。
今がどんなに良い人でも子を捨てた人を私は許さない。クラリス商会とはもう取引はしないよ。商会は何もクラリス商会だけじゃないしね。
あんたも辛かっただろ。気付いてあげられなくて悪かったね」
「マダムが謝る必要はありません。私も早く伝えれば良かったんですが…」
「言えないさ」
マダムは私を抱きしめた。
「ハンナもここにいる子達も私の娘だ。先代のマダムも私達娼婦を大切にしてくれた。私達をいつも守ってくれた。私はマダムが母親だと思ってるよ。だからマダムの跡を受け継いだ。ここを守る為に、娼婦を守る為に。
乱暴に娼婦を扱う客はここの客にはなれない。そういう情報は他の娼館と共有するからね。お互いが納得し楽しむなら別だよ。そういう趣向の客はいるからね。まあその分落とす金も跳ね上がるからね。私はそういう客で稼がせてもらったしね。
ただ、ガランだけはすまないね。あの子は特別なんだ。あの子は私にとって赤子の時から知ってる息子のようで弟のようなんだ。爺さんが死んで帰る場所がないあの子の帰る家にしたいんだ」
それは何となく分かっていた。マダムがガラン様を見つめる目はいつも優しいから。
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