私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ

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25 伯父様

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「ハンナ!」


その声に私は手を止めた。

食事処に入って来たお客さんを見た。


「伯父様どうして…」


伯父様は少しやつれたような…。


「ハンナ、生きていたのか…」

「……はい」

「良かった…良かった……」


伯父様は涙を流した。

マダムが『ゆっくり話しておいで』と伯父様を部屋に案内した。


「ハンナ、本当にハンナなんだな」

「はい伯父様」

「どうして死んだなんて…。それにここは娼館なんだろ?」

「はい…」


伯父様が言うにはワンスさんから私が隣国、この国で賊に襲われ死んだと連絡がありボルトさんは急いで伯父様に知らせたと。ワンスさんと結婚したのを知っていた伯父様はワンスさんの家まで行った。そこでワンスさんに『ハンナの亡骸は見るも無残だったので向こうで埋葬した』と言われたらしい。

ワンスさんにも殴られた跡や痣が残っていたから伯父様は本当の話だと信じた。


「そもそも彼と結婚させるべきではなかった。ボルトの話だと誠実な男性だと聞いていた。それに女性との浮いた話もないと。

だから彼がハンナに一目惚れして結婚したいと言っていると聞いて俺も許したんだ。妹のように夫に裏切られる事はないと思ったからだ。ハンナにはハンナを愛してくれる人と幸せになってほしいと願っていた。

ハンナは父親にも母親にも裏切られた。だからこそ夫とは幸せになってほしかった。己の愛する思いが強いと妹のようになってしまう。だから愛される喜びを知ってほしかったんだ。

やはりあの時無理矢理にでも王都に連れて来るべきだった…」


伯父様の誘いを断ったのは私。今更貴族令嬢として暮らす事は出来ないと自分でも分かっていたから。


「伯父様は悪くないです。伯父様には感謝しています。それにワンスさんと結婚を決めたのは私です」

「それは断われなかったからだ。ハンナは侯爵家と領地の犠牲になった。俺はそれを分かっていて…、

ハンナすまなかった。幸せになってほしいと願っておいて結局不幸にしてしまった。本当に申し訳なかった…」


伯父様は私に頭を下げた。

犠牲、そう思った。領地の皆の生活を守れるならそれでいいと。以前の私はそれが定めと思って諦めていた。

自分の犠牲で皆が助かるならと。

だけど私は以前の私ではない。


「伯父様、確かに私は犠牲になりました。今後も領地が侯爵家が羊毛を得るには必要な結婚だと思ったのも事実です。

でも、ワンスさんと結婚すると決めたのは私です。それに領地で暮らしたいと伯父様の誘いを断ったのも私です。今思えばその時判断する力が無かったのも事実です。私は流されるまま逆らわず流れていました。それが普通なのだとそう思っていました。

家の為に犠牲になるのは子の役目。

それは貴族でも平民でもあまり変わりません。好きな人と結婚できるのは奇跡です。そうでしょ?」

「そうだな…。家と家との繋がりを強固にする為に親に決められた結婚を受け入れる。婚約し結婚し一緒に過ごす間で相手を好きになり愛しいと思う人になる。でも初めから好きな人と婚約できる人は少数だ」

「はい、だから私もそれでいいと思っていました。ワンスさんとの結婚も、お母様との生活も、それが私の定めとして受け入れました。

実際お母様には私しかいなかったし私にもお母様しかいなかった。お母様が何もしないなら私がするしかなかった。お母様を捨てる事はどうしてもできなかったんです。心で何を思おうとお母様は私のお母様ですから…。

それにワンスさんとの結婚で私も幸せになれると思いました。これで愛してもらえるとそう思いました。

でもここで働く人達はもがき抗い娼婦として生きる事を受け入れ強く生きています。一人で立って逞しく生きています。寄りかかる事しか出来なかった私とは全く違う。

伯父様、今は私ここに来て良かったと思っているんです。ここに流れ着いて良かったと思っているんです。ようやく自分の定めも自分自身も愛せそうです」

「ハンナ…」


ここには強く生きている人達しかいない。姉さん達を見ていて、それにガラン様を見ていて、私も一人で立てるようになりたいと思った。

時には誰かに寄りかかる事も必要。でも一人で立てるようになるのも必要。

お母様や過去との決別はその一歩。


「それよりよくここに居ると分かりましたね」

「ああそれは、」

「俺だ」


扉を開け入って来たのは、


「ガラン様」

「こちらのお方に全て聞いてハンナが生きているならと慌てて迎えに来たんだ。

ハンナ、俺と帰ろう。借金は元々夫の借金だ、ハンナが返す必要はない。そうでしたよね?」


伯父様はガラン様を見た。


「ああ、その通りだ」

「身請け金は心配しなくていい。後でボルトが持ってくる。だから俺と帰ろう」

「もしかして、領地を売るんですか?」

「全部を売る訳じゃない。例え売ったとしても残った領地で全員が暮らせる」

「そんな事私は望みません」

「ハンナが望まないのは分かってる。俺は何度もハンナの手を放した。助けを求めてやって来たあの時から何度も…。だからもう手を放したくないんだ。領地が少し無くなろうがまた地道にやり直せばいいだけだ。

伯父として姪を助けさせてはくれないか」


伯父様の気持ちは有り難いけど…、



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