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50 幸せは続く
しおりを挟むフランキーの婚約者になってもさほど変わらない。王子妃教育は終わっているし、苦手なダンスはフランキーが練習相手をする事に決まった。
今は王宮のダンス室でその練習中。
「グレース足を踏んでもいいから俺を見ろ」
見上げればすぐそこにフランキーの顔。
ドキンと胸が鳴った。
耳元でフランキーの声。私の腰に添えられているフランキーの手。
前に一度フランキーに練習相手になってもらった時、どうしてフランキーと踊るダンスが疲れたのか、あんなに頭が真っ白になったのか、自分には分からない感情が何が何だか分からなかった。
ふふっ、あの時私はフランキーを男性だと思ったのね。家族ではない男性だと。
あの時鼓動が早くなったのも今なら分かる。男性として意識したから。
それに家族の枠を取り外し幼い頃から思い起こせばフランキーを男性として好きだったの。手を繋いで安心するのも、ウルーラお姉様との婚約騒動の時にフランキーを取られた気分だと思ったのも、フランキーの隣は私の居場所だと思っていたから。ずっと側にいたくて、でも異性だから側にはいられなくて、だから感傷的になった。幼い男の子から男性になるフランキーをずっと見てきた。近くにいすぎて気付かなかっただけ。
それは前の記憶の家族への拘りが強過ぎて招いた結果でもあるけど、きっと『家族』という重い枷を付けないと今度も私はフランキーを男性として好きになるから。唯一の女児の立場で心に好きな人がいて誰かに嫁ぐ事が出来ないって、それは私が一番知ってるから。だから自ら枷を付けたの。
家族という重い枷を外し私の心に残った気持ちはフランキーを愛しいと思うこの気持ち。前の時みたいに秘し隠さなくても伝えられる気持ち。
ねぇレーナ、人を好きになるのは罪じゃないわ。人を好きになるのは幸せな事よ。
こんなに心が満たされる
綺麗だと思っていた花はより綺麗に見えるし、フランキーに渡すお菓子を作っている時間は幸せだもの。
会えば自然と手を繋ぎ、見つめ合って笑い合う。時にはやきもちを焼いて喧嘩したり、呆れてものが言えなくてもそれもまた幸せだと思う。楽しい事も悲しい事も共有できるって素敵な事よね。
「グレース?どうした?」
「幸せだなって思ったの」
「俺はいつも幸せだ。グレースが俺の側にいてくれるだけで俺は幸せだ。グレースに好きだと気持ちを伝えれる、それが何よりも幸福だと思える」
フランキーはダンスをやめそのまま私を抱き寄せた。そして片手は私の腰に片手は私の頬を優しく包む。
「グレース好きだ。俺にはグレースしかいない。グレースが側に居てくれたら俺はこれからも生きていける。これからも俺に愛させてくれないか。一生死ぬまで、死んでも俺にグレースを愛させてほしい」
「死んでからも?」
「悪いな、死んでからもお前を離せそうにない。もし俺に来世があるのなら、俺は来世もグレースを見つけ出して愛す」
「そう、なら死んでからもフランキーと一緒なら怖くないわね。それに来世もフランキー会えて愛せるならそれも楽しみだわ。
ねぇフランキー、私を愛すだけじゃなくて私の愛も受け取ってね?
愛は愛するだけが愛じゃないわ。愛される事も愛なの。お互い愛を注ぎ愛を受け取りそれを繰り返して愛は育つのよ?」
「ああ、分かってる」
「私もフランキーを一生死ぬまで、死んでからも来世でもフランキーを愛すわ」
「ありがとうグレース。
グレース愛してる」
「私もフランキーを愛してるわ」
重なる視線。
お互い熱を帯びたその視線で目の前の愛する人を見つめる。
「もうダンスの練習は終わりにしてお茶にしないか?」
視線を外したフランキー。
「どうして口付けしないの?」
自然と出た言葉だった。
レーナが言っていたわ。
『女性だって口付けしてほしいと思うものなの。手を繋いで抱きしめ合ってもそれだけじゃ足りないって思う時があるわ。口付けは唇を合わせるだけかもしれない。それでもルイが好きだから愛してるから口付けをしたいと思うの。口付けは婚約者の間に許された愛を伝える行為よ?好きよ、ルイを愛してるわ、その思いが溢れて触れたいと思うの。
それに唇は手や頬とは違うわ、特別な場所なの。心から愛する人だけが触れられる唯一の場所だわ。
なのにルイはあの婚約しようって言った時以来全く口付けをしてくれないのよ。良い雰囲気でもよ?だから聞いたの『口付けしないの?』って。そしたら『本来は婚姻式で初めてするものだ』だって。婚約者なら皆してるわよ。
きっと殿下も同じよ。騎士としての変な拘り?きっとそれよ』
レーナの言っていた意味が分かる。良い雰囲気になれば女性だってそれくらい分かる。それにフランキーだから口付けしたいと思うの。
言葉で伝える愛よりもっと先の…、愛を伝える方法。
手を繋ぐや抱きしめるとは違う、愛しい人しか触れさせない場所。
「俺だって口付けしたい。でもやっぱり初めての口付けは婚姻式でしたい。だから我慢してるんだ」
「我慢は必要かもしれないけど、それは必要な我慢なの?」
フランキーは口説くと言って手の甲に口付けした以来、唇はおろか手や額や頬にも口付けしないの。
「必要な我慢だ。自分の事は自分が一番良く分かってる。お前の唇を奪えば俺は歯止めが利かなくなる。それはお前を傷つける行為だ。だから俺は婚姻式まで我慢する」
「なら額や頬は?それに口説くって言った時に手に口付けして、それっきり……」
私は言っていて恥ずかしくなった。
だって一度もしていない口付けをしたいって言ってるのよ?
「それは、グレースが嫌がったからだろ?口付けを嫌がる女性はいるらしい。唇だけじゃなくて額や頬でもだ。俺はお前が嫌がる事はしない」
「誰が言ってたの?」
「騎士達がそう話していた」
「それはその騎士が嫌われていたからよ。それにあの時は嫌だったんじゃなくて驚いただけ。
別に、嫌じゃ…なかったわ…」
「そうなのか?」
私は頷いた。
「グレース愛してる」
フランキーの唇が私の額にあたった。
それだけで私は嬉しさと幸せと、それとちょっとだけ残念な気持ちになった。
唇じゃないのね…って。
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