俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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 石堂紅蓮《せきどうぐれん》の人生は平凡よりも質の悪い人生だったと言わざるを得ない。

 まるで俳優にいそうな名前を持ちながらも、顔立ちは中の下くらいで身長も男子平均よりも十センチメートル低く、学業成績も可も不可もないといった感じで、常に何かに怯えているような様子の男だった。

 いつも名前負けした雑魚と言われ、学校ではイジメの対象として存在している。誇れるものがあるとするなら、幼馴染にアイドルがいたことか。
 アイドルといっても学校のアイドルというような意味ではなく、本当に芸能界で活躍するような煌びやかな存在――聖川光一《ひじりかわこういち》。

 大手の事務所に所属する男性アイドルであり、幼い頃から一緒に育ってきた程度には近しかった。それはひとえに親同士の繋がりがあったからだが。
 ただそのお蔭で、イジメられた時は常に彼が庇ってくれたり宥めてくれたりして助けてくれていた。

 そんな幼馴染の存在に憧れを抱くのは当然の流れだった。
 彼みたいに堂々と胸を張って外を歩きたい。皆に注目されたい。必要とされたい。自分も彼のような物語の主人公の如く生き方をしてみたい。

 そう思って何か行動に移すも、やればやるだけ幼馴染との差を感じさせた。努力をしてもそれ以上の才能を持つ彼には届かない。
 彼の周りにはいつも人が集まり、テレビ界のスターとして君臨している。まさに勝ち組と言われる人生を送っていた。

 そしていつの日か言われ始める。彼の傍にいる紅蓮は、そこにいる資格などないと。
 絶対的に相応しくない。むしろ彼の評価を貶めている、と。

 だから紅蓮は次第に彼から距離を取るようになる。彼はそんなこと気にするなと、優しい声をかけてくれるが、これ以上自分のせいで彼が不利になる状況を良しとできなかった。

 それだけ紅蓮にとって幼馴染の彼は、尊敬や憧憬の対象であり、いつまでも眩く輝いていてほしい星そのものだったのだ。傍にいれなくても、心で繋がっているという自負があったし、それだけが自慢で強くいられた。

 しかしある日、紅蓮は信じられないものを目にしてしまう。
 高校二年生の冬だ。急に腹が痛くなり用を足していた時、いつも自分をイジメてくる連中がトイレへと入ってきた。
 バレないようにと息を殺していると、連中がとんでもない会話をし始める。

「それにしても聖川の奴、またドラマ決まったってよ。しかも主演」
「おおマジか。さすがはウチの学校のアイドルだぜ」

 連中が幼馴染の噂をしている。しかも自分が褒められているわけではないのに嬉しくなってくる。しかし次の瞬間、紅蓮の思考は停止してしまう。

「まあアイツの評判が高いのは俺たちのお蔭だけどな」
「まあな。俺らが悪役になってアイツを引き立ててやってんだし」
「そうそう。石堂を使ってな」

 …………え?

 一体彼らは何を言っているのか分からなかった。

「けどアイツも考えたもんだよな。自分の幼馴染をイジメから救ってヒーローになる話を持ち掛けられた時はコイツバカじゃねって思ったけどよ」
「だよな! まあでも上手くいってるからいいじゃんか!」
「ハハ、そうそう。こっちだって聖川に金もらってるしウィンウィンな関係ってやつ?」

 止まった思考が動き出しても、脳内では溢れ返った感情がグルグルと高速回転していて考えが定まらない。徐々に気持ちが悪くなってくる。

(う、嘘……だろ? だってそんな…………光一がそんなことするわけがねえし!)

 自分が尊敬する幼馴染が、自分の評価を上げるために、紅蓮を貶めてそれを助け出すなんて真似をするわけがない。
 だからこれは何かの間違いだと自分に言い聞かせていると……。

「……お、聖川じゃねえか」

 連中の言葉にビクッとする。どうやら件の彼が入ってきたようだ。

「何だ、お前らかよ。さっさと出ていってくれ。一緒にいると変に思われるからな」

 いつもその他大勢といる時の喋り方ではない。その爽やかさは鳴りを潜め、どこか乱暴な口調だ。

「何だよつれねえな。ところで次の仕事の話だけどよぉ」

 馴れ馴れしい声音を出す連中の一人。

「次? ああ、紅蓮のことか」
「そうそう、そのだ~いじな幼馴染を使っての評価稼ぎ」
「おい、人に聞かれたらどうする……ったく。そうだなぁ、じゃあ次は女を使うか」
「女ぁ?」
「ああ。ハニートラップ的なヤツ? 公衆の面前で紅蓮に痴漢されたって言わせて、それを僕が見事に解決するって物語ってのはどうよ?」
「ギャハハハ! それさいっこう!」

 ――ドクンッ! ――ドクンッ!

 光一の言葉が聞こえる度に心臓が痛いほどに高鳴る。気づけば全身から嫌な汗が噴き出ていた。

「ということで使えそうな女を用意してくれ。なぁに、ちゃんと女にも金はやるし、アフターフォローもする」
「オーケーオーケー。これでお前はまた幼馴染を救った英雄譚を作ることができるってわけだ。面白そうだな、おい」
「けど、その見返りもちゃんとくれよ、なあ?」
「わーってるよ。CMも三本決まったし、ちょっと奮発してやるぜ」
「「「よっしゃあ!」」」
「だから大声を出すなよ。ってか、僕はもう行く。ちゃんと仕事をしろよ」

 そう言うと、その場から光一は去って行った。そして上機嫌な連中もまた同じようにいなくなっていく。

 一人残された紅蓮は――。

「――おげぇぇぇっ!?」

 便器に向かって嘔吐していた。
 自分の信じていた世界が、こんなにも醜いものだったなんて……。 

 その時、紅蓮は思ったのだ。
 しょせんこの世は強者だけが生き残り、強者だけが自由を謳歌することができる。

 すべてを手に入れ、すべてを思うがまま。

 自分のような弱者など、ただ強者にとっての都合の良い駒でしかないと。
 それでも紅蓮は望みを最後まで捨てず、今度は自分から光一に問い質したのだ。本当にイジメを演出していたのかと。

 するとまるで手の平を返したかのように態度が一変し、彼はまるでこちらをゴミクズでも見るかのような目つきで、つらつらと真実を語った。
 自分は選ばれた人間で、紅蓮はただの踏み台。踏み台は大人しくそういう人生を受け入れていればいいのだと言ったのである。

 そこからは記憶がない。気づけば目の前には光一が倒れていた。その顔は血に塗れ大きく腫れている。そして紅蓮の手には、ネットで購入し隠し持っていた警棒が握られていた。
 底辺レベルの人生を送る自分が今見下ろしているのは、雲の上の存在だった光一。その事実に怖くなったのではない。むしろ胸中には快感が渦巻いていた。

 そしてこのあと、光一は当然芸能活動は休止となり、紅蓮を見る度に怯えるようになったのである。
 そんな彼を見る度に紅蓮は強烈な優越感を覚えた。

 たとえ相手が勝ち組だろうと、こうして叩き潰すことができる。この状況はまさに下克上であり、最早自分こそが勝ち組だと。
 何のことはない。怯えることなどなかった。尊敬する必要も、憧憬を抱くこともない。

 ただ圧倒的な暴力があれば、人を制圧できるのである。

 新たに生まれ変わったと同義である紅蓮は、そこから人生をやり直すことにした。しかしまるで罰が下ったかのように紅蓮に不幸が訪れてしまう。
 乗っていたバスがジャックされてしまい、暴走した犯人が銃を乱射し、その弾が紅蓮の額を貫いたのである。

 ようやく本当の生き方というものを見つけた矢先の出来事だ。自分は何故こんなにも不幸なのかと思った……が、神は紅蓮を見捨てはしなかった。
 紅蓮が死んだのは神の手違いであったらしく、代償に転生させてくれるということになったのである。

 これは紅蓮が好んで読んでいたライトノベルによくある設定であり、自分にもそんな物語の主人公になれないかと何度も夢想したものだ。
 紅蓮は死んだことなどどうでも良かった。それよりもチート特典をもらって転生さえできればそれだけで十分だったのである。

 そうして神は告げる。自分が転生する世界について。
 その言葉を聞いた時に紅蓮は胸が躍った。

 何せ、そこは――――あのアニメの世界だったからだ。

 大好きな物語。そこに自分がいたらどう生きるかと、二次小説まで書いたものだ。
 降って湧いたような幸運に紅蓮は飛びつき、神にチート特典を要求した。
 殺したのは神だ。ならばこちらが望むすべてを与えるべきだと、次々と出てくる欲望を口にした……が、神はあろうことか適当に特典を授けて転生させたのである。

 そうして〝この世界〟に生まれ落ちた紅蓮は、当初は言うことをすべて聞かなかった神を憎んだが、それでも自分の身に宿っている〝力〟を実感しほくそ笑んだ。
 この力と原作知識さえあれば、自分が思い描いた〝物語〟を作ることができる。

 しかし原作に存在しない自分がいることで、本来の物語から少しばかりズレたことが起きていた。原作には登場しないイレギュラーなクソガキどもがいるのがその例だ。
 ただそれでも紅蓮は焦っていない。何故ならこの世界の行く末を、彼女たちの未来を知っているのだ。上手く立ち回ればすべてを手にすることができる。
 紅蓮はこの身に宿った力とともに決意した。

 必ずすべてを手に入れてやる、と。

 そのためにまずは彼女――日ノ部ナクルと親しくなる必要がある。これから同じ小学校に通い、毎日会いに行って親密度を稼ぐ。そして並行して他のヒロインたちにも接触を図ろう。

 そう――――原作が始まるまでのこの四年間で。

 これからやることが多いぞと意気込みながら家で寛いでいると、今世の母と父から信じられない言葉が放たれた。

「紅蓮、悪いが近々引っ越しすることになったからな」
「………………………………は?」


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