俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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 大悟から発せられた言葉を聞き、修一郎の反応も見て確信する。この人たちがダンジョンについて知っていることと、自分たちがつい先ほどまでその場所にいたことを。

(ああいや、入ったのかって聞いたんだから、俺たちがその中にいたことは知らないのか?)

 疑問に思案していると、大悟が「おい、聞いてんのか?」と追及してきたのでハッとして答える。

「あ、はい! その……ダンジョンって呼ばれる謎の空間にいたことは事実です」

 その回答を聞いて、二人が大きな溜息を吐く。何か困らせたのかと「もしかしてダメでしたか?」と問う。
 すると修一郎がやはり困ったような表情で口を開く。

「そうだね……少し難儀なことになったかな」
「難儀……ですか? やっぱり普通じゃない体験だったってことなんですね」
「ったりめえだろ。まああとで全員集めて説明するだろうけどよぉ、まさか三人揃ってなんてなぁ。お前やユキナの一族はどうなっちまってんだよ、ったく。だから『渦巻き一族』なんて呼ばれんだよ」

 じと~っと修一郎を睨みつける大悟。

(渦巻き一族? 初めて聞いたな)

 長門からはそんな異名など聞いていない。

「そう言われても、お前もその一族の旦那なんだけどな」
「ちっ、そういやそうだった。俺も引き込まれた側だったわ……」

 遠い目をして物思いに耽る大悟を放置し、『渦巻き一族』とは何か修一郎に聞いてみた。

「別に大した意味はないよ。ただほら……渦巻きというのはこう周囲を引き込むような感じで描かれたりするだろう?」

 確かに渦というのは回転する流れが中央に向かっている。

「渦に近づくと自分の意思関係なく中央へ引き込んでいく。つまり他人を問答無用に巻き込んでいくから『渦巻き一族』って言われてるんだよ、はは」

 乾いた笑い。どうやら修一郎は、その評価をよく思っていない様子。

(主人公とかには巻き込まれ体質なんてものがあったりするけど、こっちは逆で巻き込むのかぁ……迷惑な体質だなそりゃ)

 そしてその体質を持っているのが日ノ部や籠屋の一族だという。

「いーや、もしかしたらこの小僧もそっち側なのかもなぁ」

 そう言いながら乱暴に頭を撫でてくる。頭がグルングルンするから止めてほしいのだが。

(てか、どちらかっていうと俺は巻き込まれてる感じのような気もするけど……)

 もしそうなら、ナクルの体質がしっかり作用しているということになる。
 そう考えれば、四年前に彼女と偶然遭遇したことも、その体質によるものなのかもしれない。

「まあけど、一度巻き込まれちまった以上、生半可なことじゃ逃げ出せねえぜぇ?」
「そ、そうなんですか?」
「巻き込まれた俺が言うんだから間違いねえよ」
「なるほど。……けど俺はナクルから離れるつもりはないですから」
「! ……だとよ、お父様?」

 若干からかうような色が見える声を修一郎に飛ばした。

「ははは、それは心強いけれど、申し訳ない気持ちもあるかな。君のご両親ともお話する必要があるだろうしね」

 そういえばその問題もあった。
 両親は日ノ部や籠屋のような特殊な一族の生まれというわけではないだろうし、自分の息子が危険な世界に足を突っ込むとなれば黙っていることなんてできないはず。

 最悪なのはナクルとの距離を取らされることだ。転校とかになったら目も当てられない。

(説得しないといけないよなぁ)

 ただ自分はまだ小学生だ。大人顔負けの知識や行動力があっても、親にとっては守るべき子供でしかない。最悪の流れになる可能性はハッキリ言って大きい。
 そんな今後の不安を抱えながら三人一緒に風呂を出た。

 少しして女性たちも風呂から出てきたので、皆が話し合える場所である広間へと通されたのである。
 ナクルもどこか不安気な様子で沖長の隣に座っていた。
 大人たちも真剣な表情で、特に蔦絵はそこに険しさも宿っているように見える。

「――さて」

 やはりここは家長である修一郎から話は始まるようだ。

「とりあえずまずは確かめておこうか。ナクル、蔦絵くん、そして……沖長くん」

 それぞれに視線をやり、全員が軽く返事をした。

「三人とも、こことは違う別世界に行ったのは事実だね?」

 沖長たちがほぼ同時に首肯する。

「うん。蔦絵くんには説明は必要がないだろうけど、ナクルと沖長くんにはしっかり説明しないとね。まず、その場所はダンジョンと呼ばれている」

 もう知っているが、改めて確認するためにも黙って耳を傾ける。ナクルも同様のようだ。

「ダンジョンというのは、この世界……地球とは位相がズレた空間なんだ」
「いそう……ってなんスか?」

 まだ小学生であるナクルには位相の意味は分からない様子。確かに様々な意味で使われることもあるし、正直完全に沖長も理解できているわけではない。ただ漫画などの知識で何となく知っているだけ。

 修一郎が「あーどう説明したもんかな」と考えを巡らせているので、少し助け舟を出すことにする。

「ナクル、たとえばコインの裏表があるだろ?」
「うん、それがどうしたッスか?」
「俺たちがいる世界がコインの表側にあるとしたら、ダンジョンっていうのは裏側にある世界ってことだ。すぐ近くにはあるけど、完全に重なってはいない世界ってところかな。まあ難しく考える必要はないよ。すぐ隣には見えないけどダンジョンっていう世界があるって思っておけば」
「おぉ、なるほどッス! ……ん? 完全に重なったらどうなるんスか?」
「さあ、ハッキリしたところは分からないけど、融合してより大きな世界になったり、世界のあちこちでそれぞれの環境などが表出したり……って、あ」

 ナクルが理解できるように説明していたつもりが、大人たちが不思議なものを見るような視線を沖長へと向けていた。特にトキナと大悟からの視線が痛い。

(や、やっちまったぁ……)

 振り返ってみれば、とても小学生ができる話ではなかったかもしれない。

「はは、相変わらず君は大人顔負けの知識を持っているな」

 またも乾いた笑いを見せる修一郎に、沖長は若干頬を引き攣らせる。どうやらそういうことで納得してくれて何よりだ。普段から知識をひけらかしていることが功を奏したのかもしれない。いや別に好んでひけらかしているわけではないが。

 ちなみにトキナは「最近の子って物知りなのねぇ」と唸っていたり、大悟は「年齢誤魔化してんじゃねえのか」と疑わしそうに見つめてきていた。

「おほん。では続きを話していこうか」

 修一郎が改めて語り始めた。


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