俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
161 / 258

160

しおりを挟む
 ナルクの自宅を訪ねてきたのは水月だった。
 実はサプライズというわけではなく、予めこの時間帯に訪ねてくるように伝えておいたのである。

 一応彼女の安全を確保するための監視として、このえが能力で創った鳥がここ数日は傍で見守ってくれていた。何か異常があればすぐに連絡が入ることになっているが、先も言ったようにあのダンジョン発生時からは本当に何も起きていない。

(ユンダの奴……九馬さんを取り込むことを諦めたのか?)

 もしくは護衛に十鞍千疋がいることが分かっているから手を出し辛くなっているのか。しかしそれにしては何も動きが無さ過ぎる。本当に諦めたかのように思えてしまう。

 ここでこのえの監視を解くべきか否か迷うところ。このえは大して力も使わないから続けても構わないと言ってくれてはいるが、それでも多少なりとも負担をかけることになるので、やはり申し訳ないという気持ちもやはりあるのだ。

 それに何かあったら真っ先に千疋を出動させていることもだ。本当に彼女たちに頼り切ってしまっている。ただ現状それがベストなので、もう少し様子を見守ることにした。
 ナクルが動けないので、沖長が代表して水月を玄関まで迎えに行く。

「あ、札月くん、おっはー」
「はは、もうこんにちはだけど。よく来たね、九馬さん。上がってよ」
「ほうほう、勝手知ったる我が家な感じですかな?」
「まあ、ね。門下生としてよくしてもらってるよ」

 そうして水月をナクルの部屋まで案内する。部屋に入ると、ナクルは枕に顔を埋めたまま「ん~」と言って軽く手を振って出迎えていた。

「ありゃま、ナクルってばどしたん?」
「修練での後遺症かな」
「ほぇ~、古武術ってそんなに厳しいの?」
「最近はまあ……特別メニューをしててさ」
「ふぅん……ところでナクルの家って初めて来たけどおっきいよねぇ。何か歴史ありって感じもしたし」

 確かに今では麻痺していたが、ナクルの家は一般家庭と比べると裕福ではあるだろう。もっとも昔から国を支える占術師や忍者の血筋の人たちが集まっているから蓄えは相当なものではあるはずだが。
 沖長が座布団を用意して、その上に水月を座らせる。今回彼女がここへ来た理由は、雑談を楽しむわけではない。

 先日起こったダンジョン発生の件含めて、これからのことについて話し合うためだ。
 まずは水月が初めてダンジョンの発生を目にした時のことから情報を共有していく。

「あん時はいきなりでマジビックリしたし。札月くんが急に現れるし、ダンジョンとか勇者の話を聞かされるしでさぁ」
「ああ……オキくんがボクに内緒で、一人だけで水月ちゃんを助けに行った時っスね」

 少し不機嫌そうな声音だが、沖長が浮かべた苦笑を見てナクルは「冗談ッスよ」と笑ってくれたのでホッと息を吐いた。

「でもナクルがその……勇者っていうのはホントなの? 何かそういう特別な力とかあったら見たいなぁって思うんだけど」
「あー……実は勇者の力をまだ上手く扱えないんだよ、コイツ」
「そうなん?」
「そ、そんなことないッスよ! ダンジョン内じゃちゃんとクロスも身に着けられるし!」
「クロス? クロスって何?」
「そういや説明してなかったっけか? オーラについては説明したっけ?」
「えっと、いわゆる気とか生命エネルギーみたいなやつでしょ?」
「そうそう。誰もが必ず持っているのがコモンオーラって呼ばれるもので、勇者だけが持つオーラのことをブレイヴオーラっていうんだよ」

 沖長の説明をウンウンと相槌を打ちながら水月は聞いている。

「そしてそのブレイヴオーラを鎧状に物質化させて纏うことができるんだ。それがブレイヴクロス。これを纏ったナクル……勇者だけがダンジョンを攻略することができる」
「確かダンジョンには主ってのがいるんよね? それを倒せるのが勇者だっけ?」
「その通り。だから残念ながら俺には攻略ができないってこと」
「それはまだ分からないッスよね、オキくん。オキくんだっていつか勇者として覚醒する可能性があるって話だし」

 確かにそういう話は出てきている……が、長門曰く男の勇者は原作では出てきていないという観点からも、女性の身に許された力であると推測している。
 もっとも沖長だって主を倒そうと思えばできないこともない。何せ以前ナクルのブレイヴオーラを回収しておいたから、それを行使することで主を討伐することも可能かもしれない。ただ試したことがないので確証はないが。

「そっかぁ……じゃあ今ナクルにそのブレイヴオーラってもんを見せてもらえないんだ。ちょっと残念かも」

 ナクルも申し訳なさそうに「ごめんなさいッス」と項垂れていた。

(ここがダンジョンなら問題ないんだけどな……さすがに妖魔がウヨウヨいるような危険地帯に九馬さんを連れていくわけには…………あ)

 そこで思い出したことがある。
 それはナクルが以前に攻略したダンジョンのコアを体内に吸収していたことに。

 そしてこれも勇者だからこそ可能な事実がある。

「……行ける」
「? 行けるって何が?」
「どうしたんスか、オキくん?」

 無意識の呟きに対し、二人が小首を傾げてこちらを見つめてきた。

「なあ、ナクル」
「はい、何っスか?」
「前に修一郎さんたちに説明されたよな。ダンジョンのコアを吸収した者について」
「ふぇ? え、えっと……」

 これは完全に忘れているようだ。

「俺も最近慌ただしくてすっかり失念してた」

 何でそんなことを忘れていたのか、思わず舌打ちをしてしまう。

「い、一体どうしたん、札月くん?」
「実はね、ダンジョンの主を倒して攻略すると、主が所持していたコアを討伐者がその体内に吸収することができるんだ。掌握っていうんだけど」
「しょうあく? つまり……どういうことなん?」
「簡単にいうとコアの力を扱うことができるようになるってこと」

 そこでようやく思い出したのか、ナクルがハッとして「オキくん、もしかして……」とこちらを見てきたので、その言葉に頷きを返しつつ宣言するように沖長は口にした。

「これからダンジョンに行くぞ、二人とも」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
 病弱な僕は病院で息を引き取った  お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった  そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した  魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界召喚はもう勘弁してください。~五度目の異世界召喚は国の再興からスタートです~

山椒
ファンタジー
今まさに召喚されようとしている男子高校生、星宮勇輝はただの男子高校生ではない。 一度ならず四度異世界召喚を経験している男子高校生であった。 四度も四つの世界を救い、ようやく落ち着けると思ったところで五度目の異世界召喚が行われた。 五度目の異世界召喚を受け異世界召喚されることが常識になりつつあった勇輝であったが、勇輝を呼び出した国は闇の者によって崩壊していた国であった。 世界を救わなければならず、国も復興しなければいけない状況であった。 だが勇輝は異世界召喚ごとにステータスを持ち越していたためそれができる存在であった。

処理中です...