俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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「フン、いらねえよ! だから出てってくれ!」
「嫌よ! これを食べるまでここにいるわ」
「だからそういうのウザいって!」
「いいから食べなさい! お腹いっぱいになったら元気も湧いてくるから!」

 そう言いながら皿を近づけてくる。そのお節介さが銀河の苛立ちのボルテージを上げていく。

「ほら、食べさせてあげるから!」
「だから! んなもん食べられねえって!」
「大丈夫よ! 今回は割とうまくいった方だから!」
「んだよソレ! いいから止めてくれって!」
「パパとママも心配してるのよ! さっさと元気になって出てきなさい!」

 何故こんなにも関わってくるのか。放っておいてほしいのに。どうせたまたま与えられた家族という関係でしかないのに。

「ああもうっ、鬱陶しいんだよっ!」

 だからつい怒りを爆発させてしまい、皿を払いのけてしまった。

「――熱っ!?」

 ぶちまけられたホットケーキの一部が夜風の露出した腕に付着した。銀河は思わず「あ……」と動きを止めてしまう。
 すると静かに床を掃除し始めた夜風に対し、急にオロオロとし始める銀河。

「え、えっと……その……悪か……」
「……ごめんね」
「え?」

 掃除を終えた夜風は、そのまま部屋を走り去っていった。見間違いでなかったとしたら、その目に涙を浮かべながら。
 残された銀河は呆然としてしまった。

 何故ならいつもの夜風なら、問答無用で殴りつけてきていたからだ。あんなふうに涙を流すようなことはなかった。
 姉のしおらしい姿を初めて見たからか、銀河の胸の内では困惑が渦巻いている。何だかんだ文句を言っても、いつも怒るだけで悲しませることはないとタカをくくっていたからだ。

 正直、自分が女性を泣かせたという事実に、思いのほかショックを受けていることに衝撃だった。

「……んだよ、あんなの……姉貴じゃねえ……じゃんか」

 分からない。今、胸に去来している気持ちが理解できない。何だかとんでもないことをしてしまったかのような焦燥感が込み上げてきている。

(何でこんなにも気にしてんだよ、俺は。どうせアイツらは本物の家族じゃねえじゃんか)

 あくまでも銀河にとってこの世界はいわゆるゲームをしているような感覚でしかない。二度目の人生と言われても、ここは前世にハマっていた物語の中なのだ。だからこそ現実感があまり持てず、ただリアリティのあるバーチャル世界を遊んでいる感覚だった。

 それでも傷つけば痛いし、匂いや味だって敏感に感じ取れるし、触れれば生物は温かい。

「家族……か」

 これまで見向きもしなかった夜風や両親。ただ与えられた設定としか思えず、同じ血が流れる存在であることを認知していなかったのかもしれない。
 けれど彼女たちにしてみれば、金剛寺銀河という人物はともに過ごす大切な弟や息子に違いないのだ。だからこそいつも不遜でワガママし放題で迷惑をかけても、決して見捨てずに、さっきみたいに心配し寄り添おうとしてくる。

 前世、風邪で体調を崩した時に、家族が優しく声をかけてきたり世話をしてくれたことに対し、安心感を覚えた事実を思い出す。

「くそぉ…………物語の世界じゃねえかよ」

 自分は幻想の世界にいるだけだ。そしてそこでは自分の思うがままに事は進み、自然と勝ち組人生を送ることができる。そう信じて疑っていなかった。だが……ここは幻想ではない。現実なのだということを何度も痛感させられている。
 ただただその事実を認めたくないだけ。もうこの世界は、銀河にとって本物なのだ。

「でもどうしろってんだよ……もう何も持ってねえじゃんか」

 本物だと認識しても、自分にはもう何もない。この世界で無事に生き抜けるような力を失ってしまったのだから。
 銀河はしばらく天井を眺めながら呆けていると、不意に起き上がり壊れた扉の前に立つ。そしてゆっくりとだが、確実に敷居を潜って廊下へと出た。

 こうして一週間以上ぶりに部屋から出る。何となく気まずさを覚えつつも、そのままリビングの方へと向かう。確か父はまだ仕事だ。専業主婦の母と先ほど逃げ出すように出て行った夜風は家の中にいるはず。

 部屋の外で対面することに少なからず躊躇してしまう。それが何故だか銀河には分からない。それでもこのまま引き返すのだけはできなかった。そうすれば二度と部屋から出られないような気がしたから。

 そうしてリビングに続く扉を開くと、そこには夜風がいた。彼女も銀河の存在に気づいたようでハッとして振り向き目を見開く。その目元は赤く腫れている。やはり泣いていたようだ。ズキッと胸が痛んだ。

「っ…………あ、あのさ……」

 勇気を振り絞って声を上げるが、夜風は踵を返してその場を去ろうとする。

「ま、待ってくれよ、姉ちゃん!」
「! …………何?」

 振り向きはしないが、それでも足を止めて聞き返してくれた。

「そ、その……さっきは………………………ごめん」

 言えた。言えないと思っていた言葉が口から出てくれた。
 すると驚いたような表情をした夜風がこちらを向いていた。そういえばこうして真正面から素直に謝ったのは初めてかもしれない。それは驚きもするだろう。

「…………ホント、手のかかる弟よ、アンタは」
「……悪かった」
「アンタのせいで火傷しちゃったし! まったく、乙女の肌に傷をつけるなんて、そんなんじゃモテないわよ!」

 モテない。確かにこれまで周りには多くの女性たちはいたが、それも能力あってのもの。真にモテているとは言わないだろう。

「うっせ。これでも顔はいいし、俺が声を掛ければ女の子たちはメロメロになるんだよ」

 それでも強がりが口から出てしまう。

「ふぅん。ま、いいわよ。それで? アンタ、学校行くの?」
「…………行くよ」

 学校へ行くことが目的ではない。ただどうしても確かめないといけないことがある。そしてそれが事実だったら、何が何でも叶えたいものがあるのだ。

「……そっか」

 すると夜風が近づいてくる。もしかして殴られるかと身体が硬直したが、直後に頭に優しい感触を覚えた。夜風の手が軽く頭を撫でてきた。

「んじゃ、頑張ってみなさい」

 そう言うと、夜風は満足そうに笑みを浮かべると、「あーあ、お腹空いた。今日の晩御飯何かな~」と言いながら自分の部屋へと向かって行った。
 残された銀河は、熱がこもっている自分の頭に触れる。その温もりがとてもくすぐったく、気恥ずかしさが込み上げてきた。だが悪い気分ではなかった。

 その時、リビングへ母親が入ってきて、銀河の姿を見ると一目散に抱き着いてくる。夜風の時のように謝って、明日は学校へ行く旨を伝えると凄く喜んでくれた。
 そんな家族の優しさに包まれながらも、銀河は明日のことを考えていた。

(――札月沖長。待ってろよ)


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