俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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 ナクルから羽竹という名前。あまりの衝撃に、沖長はポカンと口を開けたまま固まってしまった。そんな沖長の様子を見て、不思議そうにナクルは首を傾げている。
 聞き間違いではない……はず。それでも一応再度問い質してみることにした。

「あ、あのさナクル、本当に羽に竹藪の竹って書いて羽竹か?」
「ん? そうッスよ。あれ? そういえば羽竹って名前、確か隣の組にもいたッスよね?」

 そう、それが問題なのだ。いや、別に問題ではないが、衝撃的事実だったことには違いない。

(……なるほどな。アイツめ、籠屋の分家について話したくなかったのはそういうことかよ)

 それに彼は、沖長がナクルとともに籠屋本家に向かうなら、その時にすべて理解できると口にしていた。あれはまさしく、羽竹長門と、分家の羽竹が同一であるという意味だったのだろう。

 ちなみに長門に関して、ナクルも知って入るがそれほど接点はない。会話も恐らく一言二言程度なので、彼女の中であまり印象は残っていないかもしれない。だから彼と分家を結びつけることはできなかったのだろう。

「オキくん? そんなムツカシイ顔してどうしたッスか? もしかしてお腹痛い、とか?」
「ああいや、ちょっと考え事をな。もう解決したからいいよ。ほら、次の案内を頼む」
「任せるッス!」

 再びナクルが前を歩き、その後にぴったりと沖長がついていく。

(にしてもナクルがアイツのことを知らなかったってことは、毎年のこの時期に顔を合わせていないってことだよな。まあ、招集は強制じゃないみたいだし、多分アイツから距離を取ってたんだろうな)

 自分の推し以外はどうでもいい長門のことだから、変に物語の主人公に関わることを避けていたのだろう。原作が激しくブレイクしてしまえば、持ち前の原作知識が役に立たなくなり、推しキャラにも何かしらの影響が出ると考えたのかもしれない。
 もっとも他に転生者が多数いる上、その中には積極的に原作に関わって暴れ回る者たちもいることから、最早原作は大幅にブレイクされているが。

 それでも長門が慌てていないということは、今はまだ既定路線であり、いかようにも対処ができるからだと推察することができる。
 するとナクルが角を曲がった直後に誰かとぶつかってしまった。
沖長は咄嗟に尻もちをついたナクルに「ナクル、大丈夫か?」と寄り添うと、

「わわ、あれ? ナクル? ごっめーん、怪我無かった?」

 ナクルと激突したであろう人物から心配そうな声音が聞こえてきた。視線を向けると、そこには慌てて両膝を折り自分たちに目線を合わせてくる女性がいた。

「いたた、こっちこそごめんなさいッス……って、和歌ちゃん!?」

 ナクルが女性を見て嬉しそうな声を上げる。その女性はナクルの手を引っ張って立ち上がらせると、優しくナクルの頭を撫でながら微笑む。

「ビックリしたよもう。けどホントに怪我ない? 大丈夫?」
「はいッス! お久しぶりッスね、和歌ちゃん! 会えて嬉しいッス!」

 和歌ちゃんと呼ばれた女性は、見た目からして蔦絵と同世代くらいだろうか。パーマを当てた茶髪のボブカットで、健康的な小麦色の肌をしている。外見もギャルっぽさを感じさせる軽装でありへそが丸だしなので少し視線に困ってしまう。

「うんうん、ナクルも元気一杯で良いぞ! アタシも会えて嬉しいし!」
「えへへ~。あ、そうだ! 和歌ちゃん和歌ちゃん、紹介するッス! こっちがオキくんっスよ!」

 グイッと沖長を前面に出して紹介し始めたナクル。当然女性の視線がジッとこちらに向く。

「オキくん……? おお、なるほど~! じゃあこの子がナクルの王子様だ!」

 ニカッと白い歯を見せながら女性は的外れなことを言う。

「あー……えっと、初めまして。札月沖長といいます。それと王子様って柄じゃないんで、そこんところ修正でよろしくお願いします」
「まあ確かに王子様って感じの見た目じゃないかぁ。ちょっと地味っぽいし」

 それはそれで失礼な物言いではあるものの、こちらは的を射ているので何も言えない。ただできれば本人がいないところで言って欲しい。

「和歌ちゃん、オキくんはと~ってもカッコ良いッスよ! 見る目ないッス!」
「へ? あはは、ゴメンゴメン。ジョーダンだってばぁ、そんな怒んないで、ナクル~」

 不機嫌そうに頬を膨らませたナクルに対し、楽しそうに笑って謝罪する女性。

「おっと、まだアタシってば名乗ってなかったわ。ごほんごほん。えー、ご紹介します。アタシは――蔓太刀和歌。ピチピチの十九歳でーす! 現在彼氏募集なんで、良い男がいたら真っ先に紹介するように!」

 何とまああけすけな自己紹介だろうか。ただ人当たりも良く好感が持てる人物のようだ。

「――ちょっと和歌? そんなところで立ち止まってたら迷惑に……あら、もしかしてナクルさん?」

 そこへ和歌の背後からやってきた人物が声をかけてきた。

「あ、お姉ちゃん、ほらほらこの子! 誰だと思う?」

 やってきた人物に向かって、さっきナクルがやったみたいに沖長を押し出す和歌。
 沖長も思わず「え!?」とはなったものの、同時に目前の人物を視界に捉えた。

 こちらは和歌と違い、どちらかというと蔦絵に近い清楚系容姿の持ち主だ。涼し気なスカイブルーのワンピースを纏い、肩から小さいポーチをかけている。若干目元はキツイ印象を受ける細目ではあるものの、全体的に顔立ちは整っていてモデル体型だ。また腰よりも長い艶やかな黒髪が緩やかに靡いている。

「初めて見る子ね。誰なの?」
「んふふ~、ナクルの王子様だよ王子様」

 だから違うって心の中で否定しつつ溜息が零れるが、それで理解したように目の前の女性が頷く。

「ああ、なるほど。いつもナクルさんが楽しそうに話していた男の子だったわね。そう、今年は連れてくることができたのね」

 そう言いながら微笑を浮かべる様は母性を感じさせるような穏やかさを含んでいた。その笑みで理解した。この二人は、本当にナクルのことを可愛がってくれているということを。

(つまり、この二人がいつも遊んでくれている人たちってことか)

 ナクルはお姉さんと言っていたので複数だとは思っていなかったが。
 さっそく沖長が自己紹介をすると、それに返すように女性も丁寧に名乗ってくれる。

「私は――蔓太刀聖歌です。認めたくはないけど、そこにいる破廉恥な恰好をしている女の双子の姉をしています」
「ちょいちょいちょい! この格好のどこがハレンチなのさー!?」
「それが理解できないくらいにはおつむも悪い子なの。けれど性格は……良くもないけれど、仲良くしてあげてね」
「さっきから貶してばっかなんだけどぉ!?」

 なるほど。どうやら双子のようだが、対照的な性格だということが分かった。


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