俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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 振り向くと、いつの間にかそこには、少女にしては些か年不相応な貫禄を放つ千疋が立っていた。紫色の小綺麗な和服を纏う彼女は不敵な笑みを浮かべている。

「お、お師匠!?」

 まず先に声を上げたのは水月だった。続いて口を開いたのはナクルである。

「千ちゃんじゃないッスか!?」
「……相変わらずその呼び方じゃなお主は、ウサギ娘よ」
「むぅ、ウサギ娘じゃなくて、ちゃんと名前で呼んでほしいッス!」
「何じゃ、分かりやすくて良いではないか、のう?」

 明らかにからかっている雰囲気を醸しながら賛同を求めてくるので、思わず沖長は苦笑を浮かべてしまう。

「え、えっとぉ……お兄様? そちらの方は?」

 どうやら雪風は千疋の逸話を聞いていても、その身形については知らなかったようだ。

「雪風、紹介するよ。この子がさっき話に出てた十鞍千疋だよ」
「え……ええぇぇぇぇっ!? こ、この方があの伝説の勇者なのですかぁ!?」

 まあ驚くのも無理はない。何せ見た目はまだ幼さの残る子供にしか見えないのだから。

「フフン、そうじゃ小娘よ。遠慮なく崇めると良いぞ」
「で、でもでもお兄様、どう見てもその……雪たちとそう変わらない子供なのですが?」
「まあそうなんだけど……って、あれ? 陣介さんに千疋のこと聞いたんじゃなかったっけ?」
「えっと……雪が聞いたのは、十鞍千疋さんという勇者がいて、何でもずっと前から生きてる感じで、そのぉ……」

 チラリと千疋を一瞥し、何やら言い難そうに口ごもる雪風。その理由を察し、沖長が説明してもいいかと千疋に問うた。すると千疋は躊躇することなく「先ほどもそう言うたぞ」と軽々と許可を出してくれた。

「千疋から許可が出たから説明するけど、そうだな……どこから話したらいいのか」

 あの日、初めて壬生島家を訪れた際に、千疋を絶望に繋いでいた呪いを沖長は〝回収〟することに成功した。その結果、千疋は沖長にそれこそ命を捧げるほどの感謝を覚え、そのまま従僕として付き従うことを決めたのだ。
 それから彼女は、これまで過ごしてきた幻想のような物語を沖長に語ってくれた。予め長門から聞かされていたもの以上の事情を知り、千疋がどれだけの艱難辛苦を味わってきたかを知ることになったのである。

 主としての自覚は一切ないものの、沖長にとっても最悪の未来を永劫続ける彼女を救えたことは喜ばしいことであった。
 だからか、千疋は自身がかつて呪いに朽ちそうになっていた事実があったとしても、もうすでに過去のものとして受け入れ、今はただ確かに存在するであろう幸せを探る生き方を見つけている。もっとも彼女の幸せには、沖長が柱として立っていることを沖長自身は気づいていないが。

 千疋について、ナクルも水月も興味があるのか、真剣な眼差しで耳を傾けている。
 そんな中、沖長は千疋を苦しめていた魂の牢獄のような過去を静かに語った。

「――――そんな……じゃあお師匠は十五歳までしか生きられなくて、ううん、それだけじゃなくて子供を生んだら絶対に死ぬなんて……そんな……酷すぎだしぃ……」
「千ちゃんが……ダンジョンの呪いで……何スか……そんな悲しいのってないッスよぉ……!」
「なるほど……大人にもなれず、永劫続く魂のループ…………だから呪いひ……いえ、何でもありませんです」

 水月とナクルは素直に千疋に感情移入して涙目を浮かべ、雪風は比較的冷静に分析していた。ただ『呪い姫』と口にすることは、先の沖長の叱りもあって憚れたようだ。
 元々『呪い姫』と呼んだのは妖魔人の方だったらしい。呪いのせいで大人になれず、ずっと姫子のままだと揶揄していたみたいだ。

「な、何とかできないのかな? だってお師匠は悪くないじゃん! それにダンジョンの呪いなら、ダンジョンで手に入る宝とかでさ!」
「そうッスよ! きっと千ちゃんを救う方法はあるッス! だからボク、ダンジョンに挑んで手がかりを探すッスよ!」

 などと突然意気込み始めた水月とナクル。そんな二人の純粋さに胸を打たれる思いだが、沖長は「あー……」とどう説明したものかと頭をかいていると……。

「お主らの気持ちはありがたいがのう。それはもう良いのじゃよ」

 あっけらかんとして千疋が言い放った。二人はその返答に一瞬言葉を失ったが、すぐに血気を上げたように表情を変える。

「何言ってるんスか、千ちゃん!? 何でそんな諦めたようなことを!」
「そうだし! 確かにウチらができることって限られてるけど、それでも何か手伝えることが絶対にあるはずだし! だからお師匠、諦めずにウチらを信じて――」
「あー言い方が悪かったのう。もう良いと言ったのは、その必要がなくなったからじゃよ」
「「…………え?」」

 ナクルたちは同時にキョトンとしたが、雪風もまた訝しむような目つきを千疋へと向けていた。その反応も当然だろう。いまだ千疋の真意が伝わっていない。だから彼女たちには納得できる説明が必要だった。
 千疋が沖長に視線を向け、沖長もまたアイコンタクトを返す。

(できれば俺のことは伏せておいてくれ)

 そういった意味合いを込めて。
 察しの良い千疋は軽く頬を緩めた。これで沖長は、自分がやった事実を知られずホッとしたのも束の間、何故か千疋が沖長に寄り添うように隣に来て、その腕にそっと抱き着いた。

「理由は詳しくは言えぬが、我が愛しの主様の助力のお蔭でワシは救われたんじゃよ」
「ちょっ……っ!?」

 てっきり秘密にしてくれると思ったが、まさかの暴露だった。
 すると皆が驚愕して固まっている間に、千疋がこっそりと耳打ちしてくる。

「分かっておる。ちゃ~んと主の自慢をさせてもらうからのう」

 その言葉に頭を抱えてしまった。 
 どうやら先ほどのアイコンタクトで、沖長がどれだけスゴイ人物か全員に教えてやれとでも意味を込めたと千疋には思われたようだ。

(違う……違うよ、そうじゃねえっての……)

 もっとも実際に何をどうしたのか、その方法については秘密にしてくれたようで安堵の部分はあるが。それでもできれば沖長が関わった事実はあまり知られたくなかった。

「オ、オキくん、それホント……ッスか?」
「え? あー……まあ、少なからずってことで。でもあれだぞ、ほんのちょっとだぞ、マジで、うん」

 厳しい言い訳しかできなかったが……。

「さっすがオキくんッス! やっぱりオキくんはヒーローッスね!」

 簡単にナクルは攻略することができた。やはりチョロ可愛い。

「……そっか、前々から何でお師匠が札月くんのことを主って呼ぶか気になってたけど、それで納得できたわ」

 水月もまた頷くが、こちらはナクルと違い、やはり解呪法について気になっているようだ。そして雪風だが……。

「ダンジョンの呪いをお兄様が……?」

 マズイ。雪風は頭も良いし、それにストレートに話を受け入れて納得してくれるほどまだ関係性が出来上がっては――。

「さすがは雪のお兄様なのですっ!」
「っ…………ははは…………だろぉ?」

 ――意外にも沖長に対してだけはポンコツになるのだった。



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