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ハッキリと拒絶を示した千疋の言葉を受け、恭介は目を細め彼女を睨みつけたと思うと、すぐに落胆の色を瞳に宿した。
「……よもや目の前にある好機に対し、感情を優先して逃すとは失望したぞ」
「勝手に期待したのはそちらであろう。ワシにも譲れんものは存在するということじゃ」
「……もう一度言う。これを逃せば二度と呪いから解放されないかもしれないぞ?」
「こちらも再度言おう。必要ない」
「後悔するぞ」
「それもまた一興」
両者の間で視線の火花が散る。ともすればそのまま戦闘になってもおかしくないような雰囲気であり、水月や新山などは空気を察してか不安気だ。
「――――そこまでにしてもらおうか」
不意に聞こえた野太い声。見れば縁側の方から巌のような男性が姿を見せていた。壬生島このえの父である王樹である。
「おい、恭介。千疋の件は断ったはずだぜ? こんなとこで何してやがる?」
「……少し話をしていただけだ。見知った顔ぶれがあったのでな」
今のやり取りで、恭介が壬生島家に来た理由が判明した。唐突に千疋の勧誘をしたと思っていたが、どうやら最初からこの家に住む千疋目当てに来ていたらしい。
(七宮恭介は戦力を欲してる。千疋を手に入れたがるのは不思議じゃないが……)
彼の目的は長門に聞いているので知っている。それを叶えるために戦力がいるということも。故に現状最強に相応しい千疋を懐に加えたいというは理にかなっている。
「これ以上騒ぎを起こすってんなら、さすがに見過ごせねえぜ?」
王樹から発せられる怒気。自分に向けられていないのは分かっているが、それでもその威圧感に沖長は息を飲んだ。
「…………行くぞ、ヨル」
短くそう言うと、恭介はその場から去っていく。その後を追うヨルだったが、すぐに立ち止まった後、何故か沖長の方に顔を向ける。何か自分に用事でもあるのかと思っていたが、何も言わずに踵を返して歩いていってしまった。
(何だ? 何か言いたいことでもありそうだったが……)
目元は覆われているので確認できなかったが、どことなくこちらに気を遣うような様子が感じ取れた。何故そんな感覚があったのか分からないが、それを問い質す前に彼女はいなくなってしまったのである。
「悪かったな、お前ら。特に千疋」
「別に気にしとらんわい、親父殿よ」
「そうか。だがゾロゾロとどうしたってんだ?」
「うむ。我が主がこのえに用があってのう」
「いいぜ。にしても……」
王樹が沖長を見た後、その周りにいるナクルたちに視線を巡らせる。
「……オキナガよぉ、色を好むのは早過ぎじゃねえか?」
「!? こ、この子たちはそういうんじゃありませんよ!」
「そうなのか? とてもそうは見えねえけどなぁ」
そう言われてハッと気づく。いつの間にか、ナクル、水月、雪風それぞれが沖長に寄り添うように立っていた。それは傍から見たら、複数の女子を侍らしているように見えるだろう。
特に水月は、先ほどの恭介たちのやり取りが怖かったのか、沖長の服をチョコンと掴みながら身体を触れ合わせていた。それに負けじと雪風も同様に。そしてナクルもまた当たり前のように傍に立っている。
「……と、とにかくこの子たちは大切な友人ですから。邪推するのは止めてください」
「なるほどぉ。こりゃ千疋も大変だなぁ」
「ハッハッハ。我が主は魅力的じゃからのう。ただ、ワシだって負けておらんぞ?」
そう言うと、今度は千疋が大胆にも自分の腕を、沖長の左腕に絡めて寄り添ってきた。
こうなると黙っていられないのはナクルと雪風である。
「「あぁー!」」
二人とも声を張り上げると、同時に千疋を剥がしにかかった。
「ちょっと千ちゃん、そこはボクの特等席ッスよ!」
「違います! お兄様に抱き着いていいのは雪だけなのですよ!」
「フフン、そう興奮するでないわい。安心せぇ。正妻はワシじゃが、側室として迎えてやらんでもないぞ?」
「そ、側室!? そんなのダメなのです! 正妻は雪ですから!」
「……せいさい? そくしつ?」
雪風は結構耳年増なのか意味が分かって荒ぶっているが、ナクルは首を傾げている。さすがに知らない言葉だったらしい。
「ちょ、ナクルも雪風ちゃんも、人の家で騒ぎ過ぎだし!」
一番常識がある水月が二人に向けて注意を放つが、いまだ疑問を解決できていないナクルが、その純粋無垢な瞳を水月に向けて「水月ちゃん、せいさいとそくしつって?」と尋ねた。
「そ、それはえっと……えと……」
目を泳がせている様子から察すると、水月も意味は分かっているらしい。ただ、純朴な友人に教えていいのかどうか迷っているようだ。
それを面白そうに見ているのは千疋と王樹だ。そして新山だけは呆れたように溜息を零している。
「……お二人さん、ナクルたちをからかうのは止めてください」
これでは収拾がつかないと思い、沖長は千疋と王樹を軽く睨む。
「ククク、申し訳ない主。こやつらがあまりにからかい甲斐があってのう。ついつい」
「けどまぁ、からかったのは事実だが、真実でもあったみてえだけどなぁ。がっはっは!」
いまだに楽し気に笑う二人に対し、沖長は新山以上の溜息を吐く。
「じゃあオキくんに決めてもらうッス!」
直後、ナクルの言葉によって、皆の視線がこちらへと一気に向いた。思わず「え?」となったが……。
「「「誰を選ぶの!」」」
三人が興奮気味に答えを求めてきた。
「…………勘弁してください」
変なことに巻き込まれたなと、心の底から嘆く沖長であった。
「……よもや目の前にある好機に対し、感情を優先して逃すとは失望したぞ」
「勝手に期待したのはそちらであろう。ワシにも譲れんものは存在するということじゃ」
「……もう一度言う。これを逃せば二度と呪いから解放されないかもしれないぞ?」
「こちらも再度言おう。必要ない」
「後悔するぞ」
「それもまた一興」
両者の間で視線の火花が散る。ともすればそのまま戦闘になってもおかしくないような雰囲気であり、水月や新山などは空気を察してか不安気だ。
「――――そこまでにしてもらおうか」
不意に聞こえた野太い声。見れば縁側の方から巌のような男性が姿を見せていた。壬生島このえの父である王樹である。
「おい、恭介。千疋の件は断ったはずだぜ? こんなとこで何してやがる?」
「……少し話をしていただけだ。見知った顔ぶれがあったのでな」
今のやり取りで、恭介が壬生島家に来た理由が判明した。唐突に千疋の勧誘をしたと思っていたが、どうやら最初からこの家に住む千疋目当てに来ていたらしい。
(七宮恭介は戦力を欲してる。千疋を手に入れたがるのは不思議じゃないが……)
彼の目的は長門に聞いているので知っている。それを叶えるために戦力がいるということも。故に現状最強に相応しい千疋を懐に加えたいというは理にかなっている。
「これ以上騒ぎを起こすってんなら、さすがに見過ごせねえぜ?」
王樹から発せられる怒気。自分に向けられていないのは分かっているが、それでもその威圧感に沖長は息を飲んだ。
「…………行くぞ、ヨル」
短くそう言うと、恭介はその場から去っていく。その後を追うヨルだったが、すぐに立ち止まった後、何故か沖長の方に顔を向ける。何か自分に用事でもあるのかと思っていたが、何も言わずに踵を返して歩いていってしまった。
(何だ? 何か言いたいことでもありそうだったが……)
目元は覆われているので確認できなかったが、どことなくこちらに気を遣うような様子が感じ取れた。何故そんな感覚があったのか分からないが、それを問い質す前に彼女はいなくなってしまったのである。
「悪かったな、お前ら。特に千疋」
「別に気にしとらんわい、親父殿よ」
「そうか。だがゾロゾロとどうしたってんだ?」
「うむ。我が主がこのえに用があってのう」
「いいぜ。にしても……」
王樹が沖長を見た後、その周りにいるナクルたちに視線を巡らせる。
「……オキナガよぉ、色を好むのは早過ぎじゃねえか?」
「!? こ、この子たちはそういうんじゃありませんよ!」
「そうなのか? とてもそうは見えねえけどなぁ」
そう言われてハッと気づく。いつの間にか、ナクル、水月、雪風それぞれが沖長に寄り添うように立っていた。それは傍から見たら、複数の女子を侍らしているように見えるだろう。
特に水月は、先ほどの恭介たちのやり取りが怖かったのか、沖長の服をチョコンと掴みながら身体を触れ合わせていた。それに負けじと雪風も同様に。そしてナクルもまた当たり前のように傍に立っている。
「……と、とにかくこの子たちは大切な友人ですから。邪推するのは止めてください」
「なるほどぉ。こりゃ千疋も大変だなぁ」
「ハッハッハ。我が主は魅力的じゃからのう。ただ、ワシだって負けておらんぞ?」
そう言うと、今度は千疋が大胆にも自分の腕を、沖長の左腕に絡めて寄り添ってきた。
こうなると黙っていられないのはナクルと雪風である。
「「あぁー!」」
二人とも声を張り上げると、同時に千疋を剥がしにかかった。
「ちょっと千ちゃん、そこはボクの特等席ッスよ!」
「違います! お兄様に抱き着いていいのは雪だけなのですよ!」
「フフン、そう興奮するでないわい。安心せぇ。正妻はワシじゃが、側室として迎えてやらんでもないぞ?」
「そ、側室!? そんなのダメなのです! 正妻は雪ですから!」
「……せいさい? そくしつ?」
雪風は結構耳年増なのか意味が分かって荒ぶっているが、ナクルは首を傾げている。さすがに知らない言葉だったらしい。
「ちょ、ナクルも雪風ちゃんも、人の家で騒ぎ過ぎだし!」
一番常識がある水月が二人に向けて注意を放つが、いまだ疑問を解決できていないナクルが、その純粋無垢な瞳を水月に向けて「水月ちゃん、せいさいとそくしつって?」と尋ねた。
「そ、それはえっと……えと……」
目を泳がせている様子から察すると、水月も意味は分かっているらしい。ただ、純朴な友人に教えていいのかどうか迷っているようだ。
それを面白そうに見ているのは千疋と王樹だ。そして新山だけは呆れたように溜息を零している。
「……お二人さん、ナクルたちをからかうのは止めてください」
これでは収拾がつかないと思い、沖長は千疋と王樹を軽く睨む。
「ククク、申し訳ない主。こやつらがあまりにからかい甲斐があってのう。ついつい」
「けどまぁ、からかったのは事実だが、真実でもあったみてえだけどなぁ。がっはっは!」
いまだに楽し気に笑う二人に対し、沖長は新山以上の溜息を吐く。
「じゃあオキくんに決めてもらうッス!」
直後、ナクルの言葉によって、皆の視線がこちらへと一気に向いた。思わず「え?」となったが……。
「「「誰を選ぶの!」」」
三人が興奮気味に答えを求めてきた。
「…………勘弁してください」
変なことに巻き込まれたなと、心の底から嘆く沖長であった。
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