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第二章
幸運の飴玉
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「えっと、これは?」
「幸運の飴玉だ」
ヴァンさんの手の上に乗っていたのは澄んだ青色をした飴だった。
この飴玉って、懐かしい。
厨房に来ることの多かった俺にヴァンさんがいつもくれた。
あの頃はまだ前世の食事の恋しさに厨房に入り浸ってたな。
ここには食材が多く運び込まれるし、もしかしたら懐かしい食べ物があるかもしれないと思ったけど見つからなかったんだよな。
それからあまり経たないで『異世界渡り』に選ばれたんだったな。
「幸運‥‥?」
先生はヴァンさんの出した飴玉の名前に首を傾げていた。
「そう、幸運。この国にある御伽話」
そう言ってヴァンさんは話し始めた。
《昔、昔。一人の男がこの国に天より舞い降りた。その男は神々しくまさに天女のような顔立ちだった。ある日その男が街を歩いていると、腹を空かせた子供が裏路地で倒れていた。男は子供を抱き起こすと自分の持っていた空のように海のように澄んだ飴玉を与えるとしばらく介抱した後、どこかえ姿を消した。その後飴玉を与えられた子供はあらゆることに成功し、その功績が王に認められ貴族にまで上り詰めた》
「空のように海のように‥‥裏路地から貴族‥‥。幸運‥‥」
「どうした?食べないのか?」
「あの、これ高価なものじゃないんですか?」
「いや、俺の手作りだから気にするな。さ、食べた食べた」
ヴァンさんは気にするなと手を振りながら先生に飴玉を食べるように勧めた。
「いただきます。ミント味かな‥‥‥え、溶けた‥‥」
先生は飴玉を口に入れるとすぐに驚いた表情になった。
「どうだ?驚いただろう?」
「はい。とても。あの、どうして溶けたんですか?」
飴玉が溶けた口を押さえながら先生が尋ねる。
俺も先生と同じ疑問を持っていた。
食べるたびにすぐに消えていく飴玉の秘密を知りたくて何度もヴァンさんに尋ねたけど、帰ってくる答えはいつも、秘密です、の一言。
五年越しの疑問が解決しそうだ。
「やっぱり気になるか?」
「はい、それはもちろん!」
「ふっ、そうか。この飴玉の材料にユーラ花っていう花を使っているんだが、それに口の中の唾液と反応して物質を消す性質があるんだ。だから溶けたように感じるんだろう」
「「へぇ~」」
俺と先生の反応にヴァンさんは可笑しそうに笑う。
その顔はどこかしてやったり、と言いたそうな表情でもあった。
「やっぱり種明かしをする時は楽しい」
「これってオリジナルレシピなんですか?」
「ベースは飴玉のレシピだが、ユーラ花を入れているのは俺のアレンジだ」
「凄いですね」
俺は心からそう思った。
今も昔も、前世も今世もお菓子作りや料理なんてほとんどやったことがないから元あるレシピに何かアレンジを加えようなんて俺じゃ考えつかないし、例え考えがあったとしても実行して実現されることなんて絶対に不可能だ。
だからこそ、ヴァンさんは凄い。
「これでも王宮料理長だからな。そのくらい出来ないと務まらんよ」
俺の言葉に若干顔を赤らめ恥ずかしそうに言った。
「そういえばユーラ花って青色なんですか?」
「いや、白色だ。俺もなんで青色になるのか分からないんだ。俺も当初は透明な飴玉になるとばかり思っていたからな」
「不思議ですね。植物の性質変化でも起きたんでしょうか」
「さぁな。しかしユーラ花には物質を消す性質があったのもそうだが、何より花言葉が気に入っていたから他の材料で作る事を考えなかったな」
懐かしむようにヴァンさんは言った。
正直ヴァンさんが花言葉に拘るとは思ってもみなかった。
まぁ、溶ける現象の理由を教えてもらっていなかったから仕方ないといえば仕方ない。
「花言葉?」
「あぁ、ユーラ花の花言葉は幸運なんだ。御伽話の飴玉を作るにはピッタリだろ?」
「確かに」
ヴァンさんは悪戯っ子のように笑うと言った。
「そういえば昔、殿下にいつも飴玉の秘密を聞かれたな」
不意にヴァンさんはそんなことを言った。
「殿下って、ナリアス様のことですか?」
「いや、末の王子様だ。今はいないけどな」
「どこかへ行かれているんですか?」
「まぁな。気になるなら書庫に行ってみると良い。でもちゃんと陛下には確認を取ってくれよ」
「はい」
先生はヴァンさんが飴玉を差し上げたという殿下、つまり俺のことだけど、についてどんどんと会話をしていく。
ヴァンさん絶対に俺が第二王子のハルヤ・シーリスって気付いているのに‥‥。
どうも俺の正体をバラしたいように見える。
ヴァンさんに疑惑の念を抱いていると、大時計の鐘が鳴り、兄様との約束を思い出した。
「あ、俺、このあと少し用事があるので失礼してもいいですか?」
「えっ、そうなの?困ったなぁ、私どう帰れば良いんだろ」
俺の言葉に先生は俺をを見ながら不安そうな顔で言った。
「それじゃあ、こういうのはどうだろうか。この食事運ぶついでに、俺がツキカさんを部屋に送る。確か部屋は南棟だよな」
「はい」
「ちょっと待ってください。南棟って王族の寝室や書斎があるのに来れるんですか?」
ヴァンさんは俺の質問に何を言っているんだ、と言わんばかりの表情をした。
「病気などで食事の前にお越しになれない時は、使用人が自ら運んでいくんだ。まぁ、部屋に入れるのは専属のメイド、執事のみだけど、南棟に行くことはこの王城に働いている者なら可能だ」
「そうなんだ」
「そうなんだってな、ハルヤくん‥‥」
まるできみ、王族だよな、と言わんばかりにヴァンさんは言葉を溢した。
仕方ないじゃないか、俺がこの世界にいたのは十歳までで、十歳じゃ前世の記憶があったって知らない事ばかりなんだから。
「そうだ篠宮くん、時間大丈夫なの?」
「そうでした。先生、おやすみなさい。ヴァンさん食事お願いします」
先生の言葉でまた忘れていた兄さまとの約束を思い出し、俺は急いで団欒の間に向かった。
「幸運の飴玉だ」
ヴァンさんの手の上に乗っていたのは澄んだ青色をした飴だった。
この飴玉って、懐かしい。
厨房に来ることの多かった俺にヴァンさんがいつもくれた。
あの頃はまだ前世の食事の恋しさに厨房に入り浸ってたな。
ここには食材が多く運び込まれるし、もしかしたら懐かしい食べ物があるかもしれないと思ったけど見つからなかったんだよな。
それからあまり経たないで『異世界渡り』に選ばれたんだったな。
「幸運‥‥?」
先生はヴァンさんの出した飴玉の名前に首を傾げていた。
「そう、幸運。この国にある御伽話」
そう言ってヴァンさんは話し始めた。
《昔、昔。一人の男がこの国に天より舞い降りた。その男は神々しくまさに天女のような顔立ちだった。ある日その男が街を歩いていると、腹を空かせた子供が裏路地で倒れていた。男は子供を抱き起こすと自分の持っていた空のように海のように澄んだ飴玉を与えるとしばらく介抱した後、どこかえ姿を消した。その後飴玉を与えられた子供はあらゆることに成功し、その功績が王に認められ貴族にまで上り詰めた》
「空のように海のように‥‥裏路地から貴族‥‥。幸運‥‥」
「どうした?食べないのか?」
「あの、これ高価なものじゃないんですか?」
「いや、俺の手作りだから気にするな。さ、食べた食べた」
ヴァンさんは気にするなと手を振りながら先生に飴玉を食べるように勧めた。
「いただきます。ミント味かな‥‥‥え、溶けた‥‥」
先生は飴玉を口に入れるとすぐに驚いた表情になった。
「どうだ?驚いただろう?」
「はい。とても。あの、どうして溶けたんですか?」
飴玉が溶けた口を押さえながら先生が尋ねる。
俺も先生と同じ疑問を持っていた。
食べるたびにすぐに消えていく飴玉の秘密を知りたくて何度もヴァンさんに尋ねたけど、帰ってくる答えはいつも、秘密です、の一言。
五年越しの疑問が解決しそうだ。
「やっぱり気になるか?」
「はい、それはもちろん!」
「ふっ、そうか。この飴玉の材料にユーラ花っていう花を使っているんだが、それに口の中の唾液と反応して物質を消す性質があるんだ。だから溶けたように感じるんだろう」
「「へぇ~」」
俺と先生の反応にヴァンさんは可笑しそうに笑う。
その顔はどこかしてやったり、と言いたそうな表情でもあった。
「やっぱり種明かしをする時は楽しい」
「これってオリジナルレシピなんですか?」
「ベースは飴玉のレシピだが、ユーラ花を入れているのは俺のアレンジだ」
「凄いですね」
俺は心からそう思った。
今も昔も、前世も今世もお菓子作りや料理なんてほとんどやったことがないから元あるレシピに何かアレンジを加えようなんて俺じゃ考えつかないし、例え考えがあったとしても実行して実現されることなんて絶対に不可能だ。
だからこそ、ヴァンさんは凄い。
「これでも王宮料理長だからな。そのくらい出来ないと務まらんよ」
俺の言葉に若干顔を赤らめ恥ずかしそうに言った。
「そういえばユーラ花って青色なんですか?」
「いや、白色だ。俺もなんで青色になるのか分からないんだ。俺も当初は透明な飴玉になるとばかり思っていたからな」
「不思議ですね。植物の性質変化でも起きたんでしょうか」
「さぁな。しかしユーラ花には物質を消す性質があったのもそうだが、何より花言葉が気に入っていたから他の材料で作る事を考えなかったな」
懐かしむようにヴァンさんは言った。
正直ヴァンさんが花言葉に拘るとは思ってもみなかった。
まぁ、溶ける現象の理由を教えてもらっていなかったから仕方ないといえば仕方ない。
「花言葉?」
「あぁ、ユーラ花の花言葉は幸運なんだ。御伽話の飴玉を作るにはピッタリだろ?」
「確かに」
ヴァンさんは悪戯っ子のように笑うと言った。
「そういえば昔、殿下にいつも飴玉の秘密を聞かれたな」
不意にヴァンさんはそんなことを言った。
「殿下って、ナリアス様のことですか?」
「いや、末の王子様だ。今はいないけどな」
「どこかへ行かれているんですか?」
「まぁな。気になるなら書庫に行ってみると良い。でもちゃんと陛下には確認を取ってくれよ」
「はい」
先生はヴァンさんが飴玉を差し上げたという殿下、つまり俺のことだけど、についてどんどんと会話をしていく。
ヴァンさん絶対に俺が第二王子のハルヤ・シーリスって気付いているのに‥‥。
どうも俺の正体をバラしたいように見える。
ヴァンさんに疑惑の念を抱いていると、大時計の鐘が鳴り、兄様との約束を思い出した。
「あ、俺、このあと少し用事があるので失礼してもいいですか?」
「えっ、そうなの?困ったなぁ、私どう帰れば良いんだろ」
俺の言葉に先生は俺をを見ながら不安そうな顔で言った。
「それじゃあ、こういうのはどうだろうか。この食事運ぶついでに、俺がツキカさんを部屋に送る。確か部屋は南棟だよな」
「はい」
「ちょっと待ってください。南棟って王族の寝室や書斎があるのに来れるんですか?」
ヴァンさんは俺の質問に何を言っているんだ、と言わんばかりの表情をした。
「病気などで食事の前にお越しになれない時は、使用人が自ら運んでいくんだ。まぁ、部屋に入れるのは専属のメイド、執事のみだけど、南棟に行くことはこの王城に働いている者なら可能だ」
「そうなんだ」
「そうなんだってな、ハルヤくん‥‥」
まるできみ、王族だよな、と言わんばかりにヴァンさんは言葉を溢した。
仕方ないじゃないか、俺がこの世界にいたのは十歳までで、十歳じゃ前世の記憶があったって知らない事ばかりなんだから。
「そうだ篠宮くん、時間大丈夫なの?」
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先生の言葉でまた忘れていた兄さまとの約束を思い出し、俺は急いで団欒の間に向かった。
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