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第二章
城下へ①
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「悠弥っ、悠弥!起きろ」
翌朝俺は、雫に叩き起こされた。
「雫‥‥おはよ」
「やっと起きた。お前、昨日いつ帰って来た?」
目を開け雫に挨拶をすると同時に怒ったような顔で問い詰めてくる。
「夜遅く」
「知ってる。お前が鳴宮の食事持ってくるのかと思ったら料理長が来て、びっくりしたんだぞ。それで料理長にお前のこと聞いたら、用事で来れなくなったって言うからさ、何事かって心配してたんだぞ」
「悪い。色々あってな」
「まぁ、話したくないなら、無理には聞かないけど。今度から一言ぐらい声かけろよ」
「分かった。そうするよ」
雫にそう伝えると、噛み殺していた欠伸が出てしまった。
「本当に反省してんのか?」
呆れたように雫が言う。
「してるよ。それより、華深と鳴宮は?」
「先に食事の間に行ってる」
「ほっといて良かったのに。鳴宮だったら間違いなくそうするだろ?」
「まぁ。それは、な、初めての城の外だし‥‥一緒に楽しみたいっていうか‥‥あ、もう!察せ!」
顔を恥ずかしそうにそっぽ向けながら雫は言う。
恥ずかしさを堪えきれなくったのか最後は言い放つように言った。
でもそれだけで雫が思っている気持ちは察せた、というか雫、ほぼ言ってたし。
「ほら、さっさと着替えろ。行くぞ」
「はいはい」
俺が着替え終わると二人で食事の間へ向かった。
食事の間に着くと既に、皆揃っていて俺たちが最後だった。
兄様は俺の姿を確認すると何故か口元に笑みを浮かべていた。
いや、笑みを浮かべること自体はいつも通りなんだけど、今日は吹き出しそうな勢いだ。
けど、気付いているのは家族内だけのようだった。
気になりはするけど、とりあえず放っておいて俺は席に座った。
「また遅刻?」
「悠弥が起きなかったんだよ。昨日夜遅くに部屋に帰ってきてたみたいでさ」
「え!どこに行ってたの?ねぇねぇ」
席に座ると絢香が茶化すように言って来た。
「言いたくない」
「あぁ、そういうことね。うんうん、分かった」
何が分かったのか、絢香は首を縦に振る。
「なんか勘違いしてそうなノリだよな。今のは」
「勘違い?」
「絢香がああ言う時は大抵碌なこと考えてないからな」
「確かに」
昔も今のようなことがあった気がするなぁ、と思いながら雫の言葉に賛同する。
「楽しそうだね」
突然、兄様の声がして、ハッと場所を思い出すと、俺は部屋全体を見まわした。
すると父様たちが俺たちの方を向きながら微笑まし気に見ていた。
兄様と姉様の視線がなんかまじりたそうに見えるのは気のせいということにしておこうかな。
「あ、すみません」
「気にしないで大丈夫よ」
雫が父様たちに向かって謝ると、姉様が優しくそう言った。
「では改めて、食事としようか」
父様のその号令で、俺たちは食事を始めた。
相変わらず召喚された雫や絢香たちの食事の前の挨拶は〝いただきます〟だ。
まぁ、そう簡単に染みついた習慣というのは抜けないし、この世界に来たから変えろと強制するものでもないけど。
俺はというと、もちろん〝いただきます〟だ。
今世プラス前世の日本で過ごした記憶がある以上、どうにもならない。
そんなどうでも良いことを考えながら食事を進めていくと、空いた皿が片付けられ、デザートが運ばれて来た。
最初の頃はオドオドしながら雫たちは食器を下げられていたが、二ヶ月もいれば自然と気にしなくなるらしい。
「ね、このデザート初めてじゃない?」
「確かに。ちょっとフルーツポンチみたいだね」
運ばれて来たデザートに横に座っていた春川に声をかける。
春川は興味深そうにデザートを見つめる。
この世界に来て内気だった春川は少し明るくなった。
動物刺激のスキル持ちは非常に珍しく、一世代に一人現れるか、ぐらいだそうで、父様も春川につける講師をどうするかと、ずっと悩んでいた様だったが、たまたま今は隠居した貴族の女性が動物刺激のスキル持ちだったことを思い出し春川の講師を頼んだらしい。
今の春川の明るさはその講師のお陰がもしれない。
話は聞くが実際にその講師に会ったことはないけど。
ちなみにさっきの春川と絢香の会話だけど、このデザートの正式名称はフラルルと言い、この世界の言葉でフルーツ沢山の果汁漬けという意味だ。
だからフルーツポンチというのも間違ってはいない。
ハルヤ・シーリスとしてここにいた時に大好きだったデザートだ。
篠宮悠弥としては初めてだから食べるのが楽しい。
そんな幸せのデザート時間を過ごし、すべての食器が片付けられると今日のことについて父様が話し始めた。
「城下への外出だが、昨日も言ったように護衛をつけてのものになる。護衛についてはこちらで必要人数選出しているので、その中から選んで欲しい。期限は、そうだな、大時計が水の時刻を知らせるまでだ」
「水の時刻‥‥?」
父様の説明に俺たち一同、頭を傾ける。
その様子に父様は苦笑いを浮かべていた。
「説明をしていなかったか?この王都の中心には大時計があるんだが、その大時計の鐘は属性によって区別される———」
父様の話しをまとめると、街の中心にある大時計は火を起点に土、風、水と分かれる。
時刻を表す鐘の音によってここに住む人たちは時刻を判断している。
例えば火だったらゴウゴウ、水だったらザバァーなど。
俺がこの世界で暮らしていた時は俺の部屋付きの世話係のメイドたちや兄様たちからは、ゴウゴウの時間になったら何々、ザブァーの時間になったら何々と教えられ正直、正式名があることを知らなかった。
翌朝俺は、雫に叩き起こされた。
「雫‥‥おはよ」
「やっと起きた。お前、昨日いつ帰って来た?」
目を開け雫に挨拶をすると同時に怒ったような顔で問い詰めてくる。
「夜遅く」
「知ってる。お前が鳴宮の食事持ってくるのかと思ったら料理長が来て、びっくりしたんだぞ。それで料理長にお前のこと聞いたら、用事で来れなくなったって言うからさ、何事かって心配してたんだぞ」
「悪い。色々あってな」
「まぁ、話したくないなら、無理には聞かないけど。今度から一言ぐらい声かけろよ」
「分かった。そうするよ」
雫にそう伝えると、噛み殺していた欠伸が出てしまった。
「本当に反省してんのか?」
呆れたように雫が言う。
「してるよ。それより、華深と鳴宮は?」
「先に食事の間に行ってる」
「ほっといて良かったのに。鳴宮だったら間違いなくそうするだろ?」
「まぁ。それは、な、初めての城の外だし‥‥一緒に楽しみたいっていうか‥‥あ、もう!察せ!」
顔を恥ずかしそうにそっぽ向けながら雫は言う。
恥ずかしさを堪えきれなくったのか最後は言い放つように言った。
でもそれだけで雫が思っている気持ちは察せた、というか雫、ほぼ言ってたし。
「ほら、さっさと着替えろ。行くぞ」
「はいはい」
俺が着替え終わると二人で食事の間へ向かった。
食事の間に着くと既に、皆揃っていて俺たちが最後だった。
兄様は俺の姿を確認すると何故か口元に笑みを浮かべていた。
いや、笑みを浮かべること自体はいつも通りなんだけど、今日は吹き出しそうな勢いだ。
けど、気付いているのは家族内だけのようだった。
気になりはするけど、とりあえず放っておいて俺は席に座った。
「また遅刻?」
「悠弥が起きなかったんだよ。昨日夜遅くに部屋に帰ってきてたみたいでさ」
「え!どこに行ってたの?ねぇねぇ」
席に座ると絢香が茶化すように言って来た。
「言いたくない」
「あぁ、そういうことね。うんうん、分かった」
何が分かったのか、絢香は首を縦に振る。
「なんか勘違いしてそうなノリだよな。今のは」
「勘違い?」
「絢香がああ言う時は大抵碌なこと考えてないからな」
「確かに」
昔も今のようなことがあった気がするなぁ、と思いながら雫の言葉に賛同する。
「楽しそうだね」
突然、兄様の声がして、ハッと場所を思い出すと、俺は部屋全体を見まわした。
すると父様たちが俺たちの方を向きながら微笑まし気に見ていた。
兄様と姉様の視線がなんかまじりたそうに見えるのは気のせいということにしておこうかな。
「あ、すみません」
「気にしないで大丈夫よ」
雫が父様たちに向かって謝ると、姉様が優しくそう言った。
「では改めて、食事としようか」
父様のその号令で、俺たちは食事を始めた。
相変わらず召喚された雫や絢香たちの食事の前の挨拶は〝いただきます〟だ。
まぁ、そう簡単に染みついた習慣というのは抜けないし、この世界に来たから変えろと強制するものでもないけど。
俺はというと、もちろん〝いただきます〟だ。
今世プラス前世の日本で過ごした記憶がある以上、どうにもならない。
そんなどうでも良いことを考えながら食事を進めていくと、空いた皿が片付けられ、デザートが運ばれて来た。
最初の頃はオドオドしながら雫たちは食器を下げられていたが、二ヶ月もいれば自然と気にしなくなるらしい。
「ね、このデザート初めてじゃない?」
「確かに。ちょっとフルーツポンチみたいだね」
運ばれて来たデザートに横に座っていた春川に声をかける。
春川は興味深そうにデザートを見つめる。
この世界に来て内気だった春川は少し明るくなった。
動物刺激のスキル持ちは非常に珍しく、一世代に一人現れるか、ぐらいだそうで、父様も春川につける講師をどうするかと、ずっと悩んでいた様だったが、たまたま今は隠居した貴族の女性が動物刺激のスキル持ちだったことを思い出し春川の講師を頼んだらしい。
今の春川の明るさはその講師のお陰がもしれない。
話は聞くが実際にその講師に会ったことはないけど。
ちなみにさっきの春川と絢香の会話だけど、このデザートの正式名称はフラルルと言い、この世界の言葉でフルーツ沢山の果汁漬けという意味だ。
だからフルーツポンチというのも間違ってはいない。
ハルヤ・シーリスとしてここにいた時に大好きだったデザートだ。
篠宮悠弥としては初めてだから食べるのが楽しい。
そんな幸せのデザート時間を過ごし、すべての食器が片付けられると今日のことについて父様が話し始めた。
「城下への外出だが、昨日も言ったように護衛をつけてのものになる。護衛についてはこちらで必要人数選出しているので、その中から選んで欲しい。期限は、そうだな、大時計が水の時刻を知らせるまでだ」
「水の時刻‥‥?」
父様の説明に俺たち一同、頭を傾ける。
その様子に父様は苦笑いを浮かべていた。
「説明をしていなかったか?この王都の中心には大時計があるんだが、その大時計の鐘は属性によって区別される———」
父様の話しをまとめると、街の中心にある大時計は火を起点に土、風、水と分かれる。
時刻を表す鐘の音によってここに住む人たちは時刻を判断している。
例えば火だったらゴウゴウ、水だったらザバァーなど。
俺がこの世界で暮らしていた時は俺の部屋付きの世話係のメイドたちや兄様たちからは、ゴウゴウの時間になったら何々、ザブァーの時間になったら何々と教えられ正直、正式名があることを知らなかった。
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