10 / 28
お姫様になりたい少女
しおりを挟む
「アリシア様、次はどこに行きましょうか。気になっていた洋菓子店もそう言えばまだでしたよね」
ハンナがお風呂上がりの私の髪を乾かしながら喋るのはそんなこと。随分と楽しそうで私も楽しくなってくる。
「何だか、こっちにきてからお菓子屋さんばかり行ってるわね。そろそろ動かないと太ってしまうわ」
「そう言えば、スカートが少しキツくなったような……」
療養と言う名目もあったし、街を歩くことは何度もしたけど、それでも少し歩いては休憩にとカフェに寄り道したり出店でお菓子を買って公園のベンチに立ち寄ってみたり。このままでは本当今持っている服が全て入らなくなってしまいそうだわ。
背後を振り向けば真剣な顔のハンナと目があって、二人で笑い合った。
「そうね。傷口は塞がってもう動くのは問題ないと先生からも許可をもらったことだし、ピクニックでも行きましょうか。街をでてすぐ近くに湖があるのよ」
「素敵ですね! 楽しみです!」
***
そんな会話をハンナとしたのは数日前。
「それにしてもこれは、大人数すぎないかしら?」
ゆっくりと進んできた街を出てすぐのところにある森の中。少しだけ入ったところにある湖。ここまでの道も整備されていて街の人も旅の人もよく訪れるような場所。
開けた場所に敷物を敷いて持ってきたクッションを置く。バスケットの中にはバケットサンドにふんわりとした生地のフルーツサンド、暖かいお茶も冷たいフレーバーティーと果実水も、お菓子もたくさん詰まっている。
私の隣ではハンナがせっせと持ってきた食事を並べていて、私は周りを見渡していた。
湖の周囲は穏やかな雰囲気だけど、今日は随分と賑やかで、私たちについてきた護衛が何人も思い思いの場所に腰を落ち着けていた。
街の騎士団、と言うよりは自警団というのかしら。街の人間達が主に構成しているけど、私の実家の護衛達も混ざって共に活動していて、その自警団から私の護衛にと多くの人間が付き添ってくれている。
非番の人達も含めているから街の安全に影響は無いでしょうけど、かなりの大所帯。
二人くらいでいいと思うのだけど、10人以上いるのよね。ハンナが連れて来た人数は多すぎるわ。
「ダメですよ! まだ療養中なんですしアリシア様に何かあったら困りますから!」
もうっ、とハンナが頬を膨らませる。
ここは森の入り口だし人の通りもある場所だから危険なんて無いに等しいと思うけど今更帰れとも言えないし、ゆっくりとしてもらうことにした。
「あの、すみません、僕までお邪魔してしまって」
何だか居心地悪そうに小さくなってしまっているのはヘイリーウッド先生。
「こちらこそ、急にすみません」
少しだけ遠出ということで念の為、主治医である先生にも声をかけさせてもらったのだけど、急なお誘いにも関わらずついて来てくださった。先生には感謝しかないの。だから謝る必要なんてなくて、頭を下げるのはこちらの方。
「ねぇねぇ、おねーさんはおひめさま!?」
そんなヘイリーウッド先生のお膝の上にもう一人。小さくて可愛らしいお客様がもう一人。
「あ、こらサーシャ。大人しくしていなさいって」
先生が慌ててその口を塞ごうとするから私は笑いながら小さな彼女に近づいた。
「サーシャちゃん、だったかしら」
「うん! さーしゃはね、さーしゃだよ」
大きくてまん丸な目をキラキラとさせて私を見上げている。塞がれた口を気にせずにまだ少し舌足らずな言葉が聞こえて、先生はやっぱり困った顔で諦めたようにその手を離した。
「すみません、この子まで」
「気にしないでください、先生。お姉さまの娘さんなんですよね」
「ええ、今日は子守を頼まれていまして。騒がしいでしょうに誘っていただいて……」
先生のお姉様も薬師様で、先生はこの街の患者さんをみることが多いけれど、お姉様は遠出のお仕事が多いみたい。だからこうしてよく娘さんを預かっているらしいのだけど、そんなところに押しかけてしまったのはこちらの方。
「人数が多いのは楽しくて好きなんです。私のために時間を割いてもらうのは申し訳ないと思うけど、でもみんなで楽しめるのなら嬉しいわ」
だから先生も気にせず楽しんでくださいね、と。そんな私の言葉に口を開こうとした先生だけど、その言葉は音にはならなかった。
「もう、とーい。さーしゃがおはなししてるのにぃ!」
先生の言葉は可愛らしい声に飲まれてしまって、小さな手が下から先生の顔をペシペシと叩いていた。
「ごめんなさいね、サーシャちゃん。私はアリシアよ」
「おひめさま?」
「残念だけどお姫様ではないの」
そうなの? と小さな目が訴えている。そのままその視線をヘイリーウッド先生に向けたサーシャちゃんは首を傾げていた。
「とーい、うそついた?」
「お姫様じゃなくてお嬢様だって言ったじゃないか」
「そっか!」
またこちらを向いたその視線と目が合えば、横からくすくすと笑う声がした。
「ヘイリーウッド先生、何だかお尻に敷かれちゃってますね。お茶のご用意ができましたので、どうぞ」
ハンナが楽しそうに笑いながらお茶を差し出してくれる。
「先生もどうぞ。サーシャちゃんは果実水です。あと苺は好きですか?」
「すき!!」
ハンナの指には小粒な苺が一つ摘まれていて、好きと叫んだサーシャちゃんの空いたままの口の中に転がした。
「おいし~っ」
「えへへ、可愛い~」
満面の笑みでもぐもぐと口を動かすサーチャちゃんの頬をハンナがデレデレとした様子でツンツンと触っている。
ハンナは屋敷内の使用人の中で若い方だったから何だか子供同士の会話を見ているような気分になってしまう。
「食事もすぐに用意しますね」
「ありがとう、ハンナ。でもその前に護衛の皆さんにもお茶を用意して来てもらえる?」
「かしこまりました。すぐに回って来ますね」
「ごめんなさいね」
「いえ、全然このくらい! 一瞬で帰って来ますからね!」
広々とした空間のあちこちに散らばっている護衛達の元を回るのは骨が折れると思うのだけど、お茶と軽食を入れたバスケットをいくつか持ってハンナは軽やかな様子で駆け出して行った。
ハンナが戻って来たときにすぐに食事にできるように私もバスケットの中から用意できるものを外に広げていく。
そんな私のすぐ近くで、ヘイリーウッド先生の膝の上から降りて来たらしいサーシャちゃんが私の手元を覗き込んでいた。
「あら、お腹すいてしまったかしら」
「んーん、さーしゃね、おじょうさまとおはなししたい!」
少しだけ視線をあげると、サーシャちゃんに手を伸ばそうとしている先生が見えた。気にしないでという意味を込めて微笑んでから、手を止めてサーシャちゃんの隣に座り直す。
花柄の綺麗な桃色のクッションと、なぜか一緒に置いてあった熊のぬいぐるみをサーシャちゃんに渡せば嬉しそうに頬を染める。子供は素直で可愛いわ。
「そうね、お話しましょう。何がいいかしら」
「さーしゃね、さーしゃね、おーじさまのおはなしがいい!」
「王子様?」
お姫様と王子様の絵本とか童話とか、いいのあったかしら。最近ではほとんど見聞きしなくなってしまったそれを昔の記憶から引っ張り出そうと思い起こしてみるけれどあまりいいものが浮かばない。
「おじょうさまはね、けっこんしたっておかーさんからきいたの。おーじさまとでしょ?」
「そうね。私は結婚したけど、でも王子様とじゃないのよ」
「ちがうの?」
こてりと首を傾げて不思議そうに悩んでいる。この年頃の子供にとって結婚相手はみんな王子様なのかしら。
私はお姫様なんかじゃないし、結婚相手も王子様ではなくて。
「私の旦那様はね、王子様じゃなくて騎士様なの」
「きしさま? おひめさまをたすけるひと?」
聞かれて、そうね、と答えた。
そう、私の初恋は騎士のエルネストだったから、そういえば読んだ絵本は王子様より騎士様が多かったわ、と思い出す。そしてその絵本のどれだって騎士はお姫様を助けに行っていたわ。お姫様はその後騎士と結ばれたり王子様と結ばれたり、そこの結末は色々だったけれど。
それなりの年齢になってから読んだロマンス小説もみんな騎士の相手はお姫様だった。
「おじょうさまのきしさまはかっこいいの?」
王子様より素敵なの? と純粋な輝いた視線が刺さる。
私の騎士様。そんな物語のような夢のような関係だったら良かったけど、私の騎士様は王女様の護衛騎士様で、それはどうしようもない事実で。
けれど、これはそう、嘘偽りなく答えられる質問だわって、そうも思ったから。
「ええ、私の旦那様の騎士様はね、世界で一番かっこ良くて素敵なの。誰よりも真面目で強いんだから。もちろん王子様よりもね」
不敬罪かしら、と思いながら、サーシャちゃんに内緒話をするように少しだけ小さな声で答えて、二人で笑い合う。 秘密よ、と付け加えれば「うん!」と声を抑えた返事が返って来た。
「サーシャちゃんは王子様が好きなの?」
やっぱり女の子の憧れはいつだって王子様なのかしら、と純粋な疑問で問いかけてみれば、うーんと唸った後に首を横にふった否定が返って来た。
「あのね、おうじさまとけっこんしたら、おひめさまになれるんでしょ?」
「そうね」
平民の女の子とが王子様と運命的な出会いをして結ばれて、やがて王妃様にというのはよくある王道な物語だわ。実際には難しい問題が数えきれないほどにあるけれど、それでも実際に平民から王妃や女王に上り詰めた人も少ないけれど確かにいる。
「さーしゃはね、おひめさまになりたいの。そしたらね、おうじさまをつかまえなさいっておかーさんが」
随分と強いお母さまのようで、つい笑ってしまった。話が聞こえたヘイリーウッド先生は顔を手で覆って唸りながら「姉さんはまた変なことを……」と呟いている。仲がいいのね。
「そうね。じゃあ王子様に出会って見つけてもらうように、たくさん食べて早く大きくなりましょう」
疲れた様子もなく戻ってくるハンナはもうすぐそこ。思っていたより早かった。ハンナは本当に元気で優しくて優秀な侍女。
「さーしゃ、はやくおおきくなっておじょうさまみたいになる!!」
大きな声で宣言する小さなお姫様にみんなで笑って、多いかしらと思っていたたくさんの料理は案外すぐになくなってしまった。
運動をしに来たはずだったけれど、今日もたくさん食べてしまったわ。
サーシャちゃんと湖の周りで遊んだし、少しは動いたことになるわよね。
うん、と誤魔化すように一人で頷いてみる。美味しくて楽しい食事はいいことだもの。また明日動けばいいわ。
ハンナがお風呂上がりの私の髪を乾かしながら喋るのはそんなこと。随分と楽しそうで私も楽しくなってくる。
「何だか、こっちにきてからお菓子屋さんばかり行ってるわね。そろそろ動かないと太ってしまうわ」
「そう言えば、スカートが少しキツくなったような……」
療養と言う名目もあったし、街を歩くことは何度もしたけど、それでも少し歩いては休憩にとカフェに寄り道したり出店でお菓子を買って公園のベンチに立ち寄ってみたり。このままでは本当今持っている服が全て入らなくなってしまいそうだわ。
背後を振り向けば真剣な顔のハンナと目があって、二人で笑い合った。
「そうね。傷口は塞がってもう動くのは問題ないと先生からも許可をもらったことだし、ピクニックでも行きましょうか。街をでてすぐ近くに湖があるのよ」
「素敵ですね! 楽しみです!」
***
そんな会話をハンナとしたのは数日前。
「それにしてもこれは、大人数すぎないかしら?」
ゆっくりと進んできた街を出てすぐのところにある森の中。少しだけ入ったところにある湖。ここまでの道も整備されていて街の人も旅の人もよく訪れるような場所。
開けた場所に敷物を敷いて持ってきたクッションを置く。バスケットの中にはバケットサンドにふんわりとした生地のフルーツサンド、暖かいお茶も冷たいフレーバーティーと果実水も、お菓子もたくさん詰まっている。
私の隣ではハンナがせっせと持ってきた食事を並べていて、私は周りを見渡していた。
湖の周囲は穏やかな雰囲気だけど、今日は随分と賑やかで、私たちについてきた護衛が何人も思い思いの場所に腰を落ち着けていた。
街の騎士団、と言うよりは自警団というのかしら。街の人間達が主に構成しているけど、私の実家の護衛達も混ざって共に活動していて、その自警団から私の護衛にと多くの人間が付き添ってくれている。
非番の人達も含めているから街の安全に影響は無いでしょうけど、かなりの大所帯。
二人くらいでいいと思うのだけど、10人以上いるのよね。ハンナが連れて来た人数は多すぎるわ。
「ダメですよ! まだ療養中なんですしアリシア様に何かあったら困りますから!」
もうっ、とハンナが頬を膨らませる。
ここは森の入り口だし人の通りもある場所だから危険なんて無いに等しいと思うけど今更帰れとも言えないし、ゆっくりとしてもらうことにした。
「あの、すみません、僕までお邪魔してしまって」
何だか居心地悪そうに小さくなってしまっているのはヘイリーウッド先生。
「こちらこそ、急にすみません」
少しだけ遠出ということで念の為、主治医である先生にも声をかけさせてもらったのだけど、急なお誘いにも関わらずついて来てくださった。先生には感謝しかないの。だから謝る必要なんてなくて、頭を下げるのはこちらの方。
「ねぇねぇ、おねーさんはおひめさま!?」
そんなヘイリーウッド先生のお膝の上にもう一人。小さくて可愛らしいお客様がもう一人。
「あ、こらサーシャ。大人しくしていなさいって」
先生が慌ててその口を塞ごうとするから私は笑いながら小さな彼女に近づいた。
「サーシャちゃん、だったかしら」
「うん! さーしゃはね、さーしゃだよ」
大きくてまん丸な目をキラキラとさせて私を見上げている。塞がれた口を気にせずにまだ少し舌足らずな言葉が聞こえて、先生はやっぱり困った顔で諦めたようにその手を離した。
「すみません、この子まで」
「気にしないでください、先生。お姉さまの娘さんなんですよね」
「ええ、今日は子守を頼まれていまして。騒がしいでしょうに誘っていただいて……」
先生のお姉様も薬師様で、先生はこの街の患者さんをみることが多いけれど、お姉様は遠出のお仕事が多いみたい。だからこうしてよく娘さんを預かっているらしいのだけど、そんなところに押しかけてしまったのはこちらの方。
「人数が多いのは楽しくて好きなんです。私のために時間を割いてもらうのは申し訳ないと思うけど、でもみんなで楽しめるのなら嬉しいわ」
だから先生も気にせず楽しんでくださいね、と。そんな私の言葉に口を開こうとした先生だけど、その言葉は音にはならなかった。
「もう、とーい。さーしゃがおはなししてるのにぃ!」
先生の言葉は可愛らしい声に飲まれてしまって、小さな手が下から先生の顔をペシペシと叩いていた。
「ごめんなさいね、サーシャちゃん。私はアリシアよ」
「おひめさま?」
「残念だけどお姫様ではないの」
そうなの? と小さな目が訴えている。そのままその視線をヘイリーウッド先生に向けたサーシャちゃんは首を傾げていた。
「とーい、うそついた?」
「お姫様じゃなくてお嬢様だって言ったじゃないか」
「そっか!」
またこちらを向いたその視線と目が合えば、横からくすくすと笑う声がした。
「ヘイリーウッド先生、何だかお尻に敷かれちゃってますね。お茶のご用意ができましたので、どうぞ」
ハンナが楽しそうに笑いながらお茶を差し出してくれる。
「先生もどうぞ。サーシャちゃんは果実水です。あと苺は好きですか?」
「すき!!」
ハンナの指には小粒な苺が一つ摘まれていて、好きと叫んだサーシャちゃんの空いたままの口の中に転がした。
「おいし~っ」
「えへへ、可愛い~」
満面の笑みでもぐもぐと口を動かすサーチャちゃんの頬をハンナがデレデレとした様子でツンツンと触っている。
ハンナは屋敷内の使用人の中で若い方だったから何だか子供同士の会話を見ているような気分になってしまう。
「食事もすぐに用意しますね」
「ありがとう、ハンナ。でもその前に護衛の皆さんにもお茶を用意して来てもらえる?」
「かしこまりました。すぐに回って来ますね」
「ごめんなさいね」
「いえ、全然このくらい! 一瞬で帰って来ますからね!」
広々とした空間のあちこちに散らばっている護衛達の元を回るのは骨が折れると思うのだけど、お茶と軽食を入れたバスケットをいくつか持ってハンナは軽やかな様子で駆け出して行った。
ハンナが戻って来たときにすぐに食事にできるように私もバスケットの中から用意できるものを外に広げていく。
そんな私のすぐ近くで、ヘイリーウッド先生の膝の上から降りて来たらしいサーシャちゃんが私の手元を覗き込んでいた。
「あら、お腹すいてしまったかしら」
「んーん、さーしゃね、おじょうさまとおはなししたい!」
少しだけ視線をあげると、サーシャちゃんに手を伸ばそうとしている先生が見えた。気にしないでという意味を込めて微笑んでから、手を止めてサーシャちゃんの隣に座り直す。
花柄の綺麗な桃色のクッションと、なぜか一緒に置いてあった熊のぬいぐるみをサーシャちゃんに渡せば嬉しそうに頬を染める。子供は素直で可愛いわ。
「そうね、お話しましょう。何がいいかしら」
「さーしゃね、さーしゃね、おーじさまのおはなしがいい!」
「王子様?」
お姫様と王子様の絵本とか童話とか、いいのあったかしら。最近ではほとんど見聞きしなくなってしまったそれを昔の記憶から引っ張り出そうと思い起こしてみるけれどあまりいいものが浮かばない。
「おじょうさまはね、けっこんしたっておかーさんからきいたの。おーじさまとでしょ?」
「そうね。私は結婚したけど、でも王子様とじゃないのよ」
「ちがうの?」
こてりと首を傾げて不思議そうに悩んでいる。この年頃の子供にとって結婚相手はみんな王子様なのかしら。
私はお姫様なんかじゃないし、結婚相手も王子様ではなくて。
「私の旦那様はね、王子様じゃなくて騎士様なの」
「きしさま? おひめさまをたすけるひと?」
聞かれて、そうね、と答えた。
そう、私の初恋は騎士のエルネストだったから、そういえば読んだ絵本は王子様より騎士様が多かったわ、と思い出す。そしてその絵本のどれだって騎士はお姫様を助けに行っていたわ。お姫様はその後騎士と結ばれたり王子様と結ばれたり、そこの結末は色々だったけれど。
それなりの年齢になってから読んだロマンス小説もみんな騎士の相手はお姫様だった。
「おじょうさまのきしさまはかっこいいの?」
王子様より素敵なの? と純粋な輝いた視線が刺さる。
私の騎士様。そんな物語のような夢のような関係だったら良かったけど、私の騎士様は王女様の護衛騎士様で、それはどうしようもない事実で。
けれど、これはそう、嘘偽りなく答えられる質問だわって、そうも思ったから。
「ええ、私の旦那様の騎士様はね、世界で一番かっこ良くて素敵なの。誰よりも真面目で強いんだから。もちろん王子様よりもね」
不敬罪かしら、と思いながら、サーシャちゃんに内緒話をするように少しだけ小さな声で答えて、二人で笑い合う。 秘密よ、と付け加えれば「うん!」と声を抑えた返事が返って来た。
「サーシャちゃんは王子様が好きなの?」
やっぱり女の子の憧れはいつだって王子様なのかしら、と純粋な疑問で問いかけてみれば、うーんと唸った後に首を横にふった否定が返って来た。
「あのね、おうじさまとけっこんしたら、おひめさまになれるんでしょ?」
「そうね」
平民の女の子とが王子様と運命的な出会いをして結ばれて、やがて王妃様にというのはよくある王道な物語だわ。実際には難しい問題が数えきれないほどにあるけれど、それでも実際に平民から王妃や女王に上り詰めた人も少ないけれど確かにいる。
「さーしゃはね、おひめさまになりたいの。そしたらね、おうじさまをつかまえなさいっておかーさんが」
随分と強いお母さまのようで、つい笑ってしまった。話が聞こえたヘイリーウッド先生は顔を手で覆って唸りながら「姉さんはまた変なことを……」と呟いている。仲がいいのね。
「そうね。じゃあ王子様に出会って見つけてもらうように、たくさん食べて早く大きくなりましょう」
疲れた様子もなく戻ってくるハンナはもうすぐそこ。思っていたより早かった。ハンナは本当に元気で優しくて優秀な侍女。
「さーしゃ、はやくおおきくなっておじょうさまみたいになる!!」
大きな声で宣言する小さなお姫様にみんなで笑って、多いかしらと思っていたたくさんの料理は案外すぐになくなってしまった。
運動をしに来たはずだったけれど、今日もたくさん食べてしまったわ。
サーシャちゃんと湖の周りで遊んだし、少しは動いたことになるわよね。
うん、と誤魔化すように一人で頷いてみる。美味しくて楽しい食事はいいことだもの。また明日動けばいいわ。
1,214
あなたにおすすめの小説
裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます
nanahi
恋愛
婚約者ウィルとその幼馴染ベティに罠にはめられ、湖へ沈められた伯爵令嬢アミアン。一命を取り留め、公女として生まれ変わった彼女が見たのは、裏切り者の幸せな家庭だった。
アミアンは絶望を乗り越え、第二の人生を歩む決意をする。いまだ国に影響力を持つ先の王弟の大公女として、輝くほど磨き上げられていったアミアンに再会したウィルは激しく後悔するが、今更遅かった。
全ての記憶を取り戻したアミアンは、ついに二人の悪事を断罪する。
お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです
・めぐめぐ・
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。
さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。
しかしナディアは全く気にしていなかった。
何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから――
偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。
※頭からっぽで
※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。
※夫婦仲は良いです
※私がイメージするサバ女子です(笑)
※第18回恋愛小説大賞で奨励賞頂きました! 応援いただいた皆さま、お読みいただいた皆さま、ありがとうございました♪
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。
もう演じなくて結構です
梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。
愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。
11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。
感想などいただけると、嬉しいです。
11/14 完結いたしました。
11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。
待ってください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。
毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。
だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。
一枚の離婚届を机の上に置いて。
ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。
※短編連作
※この話はフィクションです。事実や現実とは異なります。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました
音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。
____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。
だから私は決めている。
この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。
彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。
……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる