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二人の侍女と新しい部屋
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アスルにせがまれて絵本を三冊ほど読んだところで、腕の重みが増した。そういえばさっきから静かだけど……、そう思って横を見てみれば静かに寝息をたてているアスルの姿があった。
「あら」
「お坊ちゃま、寝てしまわれましたね」
漏れてしまった呟きに言葉が返ってきて驚いて顔を上げた。
そういえば侍女がいることを忘れていた、とやっと気づく。私がこの部屋に入る前からいた二人の侍女は、絵本を読み聞かせている間もずっと部屋の隅に立っていた。
「あ、の……。ごめんなさい、挨拶もしないまま」
アスルを起こさないようにできるだけ静かに声を出す。首だけ下げる不格好なお辞儀になってしまったけど、二人はいえいえと首を横に振った。
「公爵夫人が私たちに気を使う必要はありませんので。よろしければお坊ちゃまをベッドに横にしたあとにご挨拶させていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、もちろんです」
アスルを起こさないように、小さな声で会話をしながらゆっくりとアスルの体を抱き上げる。二人が慌てて手を伸ばしてきたけど、私は首を横に振った。
眠ってしまった子供を運ぶのは親の役目。
ずっと抱えていたら腕が痛くなってしまいそうな重さが心地良い。
続き部屋の寝室のベッドに優しく降ろしてしばらく見守ってみたけど、起きる気配はない。ぐっすりね。
「おやすみなさい、アスル」
静かに寝室の扉を閉めた私が元の部屋に戻ると、お茶とお菓子が用意されていた。
広々と遊べるように、テーブルとソファは部屋の片側に寄っている。
勧められるままソファに腰を下ろすと、仄かにに石鹸のような香りに包まれた。
「改めまして奥様、わたくし、奥様の専属侍女を努めさせていただきますユイと申します」
「奥様、お坊ちゃまにお仕えしているコルカです」
寸分の狂いもなく、美しい動作で腰を折る二人は角度も揃っている。頭を下げたまま動きを止めているのに少しもバランスを崩さない。私なら絶対プルプルと耐えきれなくなってしまいそうなのに。
ボーッと二人の動作を眺めていて、お辞儀の体勢のまま動かない二人に慌てて声をかけた。
「あ、ごめんなさい。顔をあげてください。それと奥様なんて落ち着かないのでエルシーと呼んでほしいです。ユイさんとコルカさん」
アルスの母親だけど公爵様の妻じゃない。あくまで書類上の、公爵夫人としてはお飾りみたいな私にはもったいない扱いに恐縮してしまう。
どこまでも平民でしかない私と、明らかに教育をきちんと受けた貴族令嬢の二人。どちらが上かなんて誰が見たって明らかなのに。
「かしこまりました、エルシー様。ですが、エルシー様がわたくしたちの仕えるべき主であることには変わりありません。敬称も敬語も必要ありませんよ」
「でも、こちらの方が落ち着くんです……」
使用人がいなかった訳では無いけど、どちらかと言うと同じ職場の上司と部下、というかむしろ同僚みたいな関係だったし、アトリとの関係は家族みたいな感じだったし、今更貴族らしく使用人との関係を築くなんて出来そうにない。
「では名前だけでもさんは付けないでください」
「そうですわね。そこから始めてみましょう」
そう言う二人の瞳は私を見下す様子は無い。緊張しないようにと気遣ってくれているような、そんな優しさが浮かんでいる気がする。
公爵様みたいな方と、急に私みたいな女が結婚するなんてよく見られないんじゃないかと思っていたから肩の力を抜いてもいいと言われたような気分になった。
「それじゃぁ、ユイとコルカと呼ばせてもらいますね」
「はい。エルシー様」
「どんな用事でも気軽にお呼びください」
一つにまとめられた艶やかな金髪がさらりと揺れる。白い肌は陶器みたいで、童話の中のお姫様みたいな方がユイ。
もう一人の背が少し低くて肩で藤色の髪を切りそろえているのがコルカ。
ユイは表情が柔らかいけど、コルカの方はあまり表情が変わらない。怖いとか冷たいとかを感じる訳では無いから怒ってるわけではないと思うんだけど。
他にもたくさんの侍女や使用人がいる中で、特別専属となってくれるのがこの二人みたい。
用意してくれていたお茶とお菓子はとても美味しかった。お高い味がする、なんて言ったらちょっと品が良くないかもしれないけど、伯爵領にいた時、たまに貰えるお土産のお菓子のようなそんな味。
「エルシー様のお部屋はすぐお隣なので、ご案内致します。一息つく間もなくこちらにいらっしゃったのでお疲れでしょう 。コルカはお坊ちゃまを」
「了解」
ホッとして思わずため息のように息を吐き出してしまった私にユイが手を差し出してくれる。
そっと手を取ってみるとふわりと軽い力で立ち上がることができて驚いた。強い力で手を引かれたようには感じなかったのに、私の動きに合わせて自然と引き上げてくれたみたい。
高位貴族の使用人ってやっぱりすごい。
「こちらがエルシー様のお部屋です。急いで家具など無難な物で揃えた状態なので、気に入るデザイン等があればいつでも一式揃えてご用意致します」
無難な、と言われたけれど、さり気なくレースの使われた高級な素材を使った物が揃えられていて私には充分すぎる。ふわふわ過ぎる絨毯も踏んで汚れを付けてしまうのが勿体なくて、足を置くのを少し躊躇ってしまった。
「とても素敵なお部屋だと思います」
ベットもふかふか、サイドテーブルも手触りが凄く良い。
「エルシー様が快適に過ごせるように、と旦那様から申し付けられていますので、思いついた事があればいつでも仰ってくださいね」
「そういえば、公爵様のお部屋もこの辺りに?」
隣がアスルの部屋でここが私。公爵様のお部屋も近いのかもしれない。
「いえ、公爵様は執務室と近い位置のお部屋を使ってますので少し離れています」
屋敷の構造はまだ覚えきれていないけど、それなら公爵様と普段すれ違うことは少なくなりそう。契約通りにあまりご迷惑かけないようにしないといけないから、それなら安心よね。
「お坊ちゃまも寝ておりますし、お夕食まではまだ少し時間があります。お部屋で休まれますか?」
「そうですね。少し一人でゆっくりしてもいいですか?」
「もちろんです。わたくしもコルカもすぐ目の前の使用人部屋におりますので何かあればすぐ声をかけてください。もちろん話し相手として、なんて理由でも構いませんから」
使用人らしく腰の低さは徹底されているのに優しく微笑む顔には親しみやすさがある。多分、ユイは私より年上だと思うのよね。落ち着いた余裕があるもの。
私に付いてくれるのがユイで良かった。まだ会ってから時間は経っていないのにそう思う。
ユイが出ていった扉が閉まったのを確認して、さらに部屋の中で誰かに見られていないかも確認してから私は足をゆっくりと踏み出した。
歩く度に優しく沈み込む絨毯の上を、ぐるりと壁に付けられた金の装飾を撫でながら壁際を歩いて、飾られた絵や細工を観察しながらちょうどいい場所に置かれている家具は扉や引き出しを開けて中を覗いてみる。
私の私物は少ないから中身は詰まっていないけど、私の荷物には無かったはずのアクセサリーや櫛が綺麗に並べられていた。
続き部屋にはバスルーム。反対側の扉は寝室。部屋の奥には庭に突き出るように小さなサンルーム。
初めてのお部屋って探検したくなるけど、こんなに至れり尽くせりでいいのか不安になる。
いえ、それだけアスルの母親として期待されてるってことだもの。頑張って素敵なお母さんにならないとね。
「あら」
「お坊ちゃま、寝てしまわれましたね」
漏れてしまった呟きに言葉が返ってきて驚いて顔を上げた。
そういえば侍女がいることを忘れていた、とやっと気づく。私がこの部屋に入る前からいた二人の侍女は、絵本を読み聞かせている間もずっと部屋の隅に立っていた。
「あ、の……。ごめんなさい、挨拶もしないまま」
アスルを起こさないようにできるだけ静かに声を出す。首だけ下げる不格好なお辞儀になってしまったけど、二人はいえいえと首を横に振った。
「公爵夫人が私たちに気を使う必要はありませんので。よろしければお坊ちゃまをベッドに横にしたあとにご挨拶させていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、もちろんです」
アスルを起こさないように、小さな声で会話をしながらゆっくりとアスルの体を抱き上げる。二人が慌てて手を伸ばしてきたけど、私は首を横に振った。
眠ってしまった子供を運ぶのは親の役目。
ずっと抱えていたら腕が痛くなってしまいそうな重さが心地良い。
続き部屋の寝室のベッドに優しく降ろしてしばらく見守ってみたけど、起きる気配はない。ぐっすりね。
「おやすみなさい、アスル」
静かに寝室の扉を閉めた私が元の部屋に戻ると、お茶とお菓子が用意されていた。
広々と遊べるように、テーブルとソファは部屋の片側に寄っている。
勧められるままソファに腰を下ろすと、仄かにに石鹸のような香りに包まれた。
「改めまして奥様、わたくし、奥様の専属侍女を努めさせていただきますユイと申します」
「奥様、お坊ちゃまにお仕えしているコルカです」
寸分の狂いもなく、美しい動作で腰を折る二人は角度も揃っている。頭を下げたまま動きを止めているのに少しもバランスを崩さない。私なら絶対プルプルと耐えきれなくなってしまいそうなのに。
ボーッと二人の動作を眺めていて、お辞儀の体勢のまま動かない二人に慌てて声をかけた。
「あ、ごめんなさい。顔をあげてください。それと奥様なんて落ち着かないのでエルシーと呼んでほしいです。ユイさんとコルカさん」
アルスの母親だけど公爵様の妻じゃない。あくまで書類上の、公爵夫人としてはお飾りみたいな私にはもったいない扱いに恐縮してしまう。
どこまでも平民でしかない私と、明らかに教育をきちんと受けた貴族令嬢の二人。どちらが上かなんて誰が見たって明らかなのに。
「かしこまりました、エルシー様。ですが、エルシー様がわたくしたちの仕えるべき主であることには変わりありません。敬称も敬語も必要ありませんよ」
「でも、こちらの方が落ち着くんです……」
使用人がいなかった訳では無いけど、どちらかと言うと同じ職場の上司と部下、というかむしろ同僚みたいな関係だったし、アトリとの関係は家族みたいな感じだったし、今更貴族らしく使用人との関係を築くなんて出来そうにない。
「では名前だけでもさんは付けないでください」
「そうですわね。そこから始めてみましょう」
そう言う二人の瞳は私を見下す様子は無い。緊張しないようにと気遣ってくれているような、そんな優しさが浮かんでいる気がする。
公爵様みたいな方と、急に私みたいな女が結婚するなんてよく見られないんじゃないかと思っていたから肩の力を抜いてもいいと言われたような気分になった。
「それじゃぁ、ユイとコルカと呼ばせてもらいますね」
「はい。エルシー様」
「どんな用事でも気軽にお呼びください」
一つにまとめられた艶やかな金髪がさらりと揺れる。白い肌は陶器みたいで、童話の中のお姫様みたいな方がユイ。
もう一人の背が少し低くて肩で藤色の髪を切りそろえているのがコルカ。
ユイは表情が柔らかいけど、コルカの方はあまり表情が変わらない。怖いとか冷たいとかを感じる訳では無いから怒ってるわけではないと思うんだけど。
他にもたくさんの侍女や使用人がいる中で、特別専属となってくれるのがこの二人みたい。
用意してくれていたお茶とお菓子はとても美味しかった。お高い味がする、なんて言ったらちょっと品が良くないかもしれないけど、伯爵領にいた時、たまに貰えるお土産のお菓子のようなそんな味。
「エルシー様のお部屋はすぐお隣なので、ご案内致します。一息つく間もなくこちらにいらっしゃったのでお疲れでしょう 。コルカはお坊ちゃまを」
「了解」
ホッとして思わずため息のように息を吐き出してしまった私にユイが手を差し出してくれる。
そっと手を取ってみるとふわりと軽い力で立ち上がることができて驚いた。強い力で手を引かれたようには感じなかったのに、私の動きに合わせて自然と引き上げてくれたみたい。
高位貴族の使用人ってやっぱりすごい。
「こちらがエルシー様のお部屋です。急いで家具など無難な物で揃えた状態なので、気に入るデザイン等があればいつでも一式揃えてご用意致します」
無難な、と言われたけれど、さり気なくレースの使われた高級な素材を使った物が揃えられていて私には充分すぎる。ふわふわ過ぎる絨毯も踏んで汚れを付けてしまうのが勿体なくて、足を置くのを少し躊躇ってしまった。
「とても素敵なお部屋だと思います」
ベットもふかふか、サイドテーブルも手触りが凄く良い。
「エルシー様が快適に過ごせるように、と旦那様から申し付けられていますので、思いついた事があればいつでも仰ってくださいね」
「そういえば、公爵様のお部屋もこの辺りに?」
隣がアスルの部屋でここが私。公爵様のお部屋も近いのかもしれない。
「いえ、公爵様は執務室と近い位置のお部屋を使ってますので少し離れています」
屋敷の構造はまだ覚えきれていないけど、それなら公爵様と普段すれ違うことは少なくなりそう。契約通りにあまりご迷惑かけないようにしないといけないから、それなら安心よね。
「お坊ちゃまも寝ておりますし、お夕食まではまだ少し時間があります。お部屋で休まれますか?」
「そうですね。少し一人でゆっくりしてもいいですか?」
「もちろんです。わたくしもコルカもすぐ目の前の使用人部屋におりますので何かあればすぐ声をかけてください。もちろん話し相手として、なんて理由でも構いませんから」
使用人らしく腰の低さは徹底されているのに優しく微笑む顔には親しみやすさがある。多分、ユイは私より年上だと思うのよね。落ち着いた余裕があるもの。
私に付いてくれるのがユイで良かった。まだ会ってから時間は経っていないのにそう思う。
ユイが出ていった扉が閉まったのを確認して、さらに部屋の中で誰かに見られていないかも確認してから私は足をゆっくりと踏み出した。
歩く度に優しく沈み込む絨毯の上を、ぐるりと壁に付けられた金の装飾を撫でながら壁際を歩いて、飾られた絵や細工を観察しながらちょうどいい場所に置かれている家具は扉や引き出しを開けて中を覗いてみる。
私の私物は少ないから中身は詰まっていないけど、私の荷物には無かったはずのアクセサリーや櫛が綺麗に並べられていた。
続き部屋にはバスルーム。反対側の扉は寝室。部屋の奥には庭に突き出るように小さなサンルーム。
初めてのお部屋って探検したくなるけど、こんなに至れり尽くせりでいいのか不安になる。
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