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第2部
第7話:濃霧の町に潜む①
しおりを挟む【side:ディア】
―――――――――
人間ファンクラブ会場を後にした数日後、主から渡された地図を確認しながら馬車を走らせていた。
目的地までの道のりは非常に長い。しかも森の奥深くにぽつんとある小さな町らしい。
荒れた地面はここ数日雨続きで地面がぬかるんでいるのもあり、予定より時間がかかっていた。とは言え徒歩に比べればかなりのスピードだ。やはりキズナと交渉して馬車を手に入れたのは正解だった。
途中休憩に寄った町で買った新聞の予報によると、もうすぐ雨は上がるらしい。
実際、昨日に比べればかなり小雨になった。
主は濡れないように馬車の中で、両側の壁に付けられた窓から外を呆然と眺めている。
「ちょっと疑問に思っていた事があるんだけどさ、ディアって僕のどこが好きなの?」
突然そんな質問を投げかけられる。
後ろを向くと主は暇そうに外を見ながら自身の髪の毛をいじっていた。深刻そうな様子もなく、ただなんとなく暇だから聞いてみたといった雰囲気だ。
「そうですね…いろいろありますが、特に瞳が好きです。2人きりで私を見つめる時、アカツキは時々狂気に満ちた目で私を見てくる。凍りそうなほど美しい執着心に、背筋が痺れるような感覚がします」
「…それ本当に褒めてる?」
主は反応に困ると言いたげな顔でこちらを向いた。しかもそんな目で見ている自覚がないらしい。
確かに普通、人間が人間を褒める時の言葉ではない。
「褒めていますよ。好きでなければ一緒に旅などしません」
「何言ってるの? ディアはあの時契約して僕のものになったんだよ。君が僕を嫌っていようと、僕と一緒に居ることは決定事項だ」
「さらっととんでもない事を言いますね…まあ貴方の恋愛観が歪んでいることも愛おしいので構いませんが。…そうですね、それに1000年前の私は恐怖、尊敬といった意味で特別扱いされていました。私の力を知った上で特別扱いなしに接してくれるアカツキは、貴重な存在なのですよ」
だからこそ、人間ファンクラブのメンバーも友好的に受け入れることが出来たのだ。
悪魔にとって強さは命に関わるほど重要なものだ。弱い者が安全に過ごす確実な方法は、強い者に気に入られることといわれているほど。当時の私もイブリースも、長く生きているので擦り寄ってくる者が多かった。お互いかなり嫌気がさしていたのを覚えている。
だが人間ファンクラブの悪魔たちは誰もが強い弱いで判断していない。そうする者は追い出されるよう徹底されている。人間に対する考え方や好意は多種多様で時に理解し難くもあるが、基本的には心地よい場所だ。
「えっ、僕はディアを特別扱いしているよ。だって君だけ愛しているから」
主は首をかしげながら、恥ずかしげもなくさも当然のように言った。
「そうですか」
嬉しい言葉に鼓動がかすかに早くなるのを感じる。
自然と笑みが溢れていた。
空を見上げると、雨は上がっていた。
―――――――――
その後も馬車を進めていると、やがて道の脇に川が見え始めた。
主は霧がかった視界の悪い森に飽きたのか、それともこの先の町に備えてか仮眠をとっている。
地図を確認したところ、この川沿いを進んでいけばすぐに目的地に着くはずだ。私は道の脇に馬車を止め、主の肩をゆっくり揺らして起こした。
主は気怠げにゆっくり起き上がる。大きく背伸びをするとポキっと骨の鳴る音がした。かなり揺れていたせいか、全身が凝っているようだ。
私は川に清潔なタオルを浸して、絞って余分な水を落とす。馬車に積んでいた桶にも水を汲み、馬の前に置いてやると静かに水を飲み始めた。
「目的地付近に着きましたよ。噂が本当なら馬車に乗ったまま入ると馬を失いかねません。ここからは徒歩で行きましょう」
そう伝えながら、主の顔に先ほどの濡れタオルをパサリと掛けた。顔が冷えて目が覚めたのか、主はタオルで顔をゴシゴシ拭いてから立ち上がった。
馬車から川の先を見ると霧でよく見えないが、いくつかの建物の影が見えた。この地方はやや冷える。首元が隠れるセーターに着替え、移動用の小さなリュックに最低限の荷物をまとめて背負う。
「よし! じゃあ行こうか」
「了解しました。アカツキなら大丈夫だと思いますが、念のため私から離れないでください。どれくらいの数が居るのかまでは分からないので」
「うん、擬態しているやつが居たら報告よろしくね」
―――――――――
町に近づくほど霧が濃くなり、視界が悪くなってくる。
辺りに悪魔の魔力が漂っており、自然と気が引き締まる。変な場所だ。この辺りはどこも魔力が漂っている。ここは人の手がほぼかかっておらず、地形の問題で魔力が外に漏れ出しにくいらしい。
また『間引き』された悪魔が置き去りにされる場所として有名で、門の魔法や悪魔たちの影響でこのようになっていると聞く。
「その間引きってなんなの?」
主は首をかしげて尋ねてくる。
「魔界では人口過密の問題で弱い悪魔が人間界へ追い出されることが珍しくありません。その追い出す悪魔を選抜するのが間引きです」
「へー、だからこれから行く町は悪魔が多い事で有名なのか」
しかも悪魔が多い理由はそれだけではない。
あの町は霧も深い廃れた町らしく、人が来ることもほぼなければ出ていくことも困難と聞く。私たちは馬車でここまで来ているわけだが、それでも数日移動に費やしている。徒歩ならばもっと時間がかかる上に危険だろう。その上、霧と魔力の影響か電話など外部へ通信する事も出来ないらしく、より孤立した町になっている。
人の出入りが少ない町である上に、外部への連絡も、辺りに漂う魔力の影響で悪魔を見つけることも困難なのだ。
悪魔にとって都合の良いことこの上ない。
本当に用心した方が良さそうだ。
主はいつでも結界魔法を発動できる心の準備は出来てると言い、ずんずん先へ進んでいく。
やがて薄ぼんやりとしか見えていなかった建物がはっきりと見え始める。もうすぐ町の入り口らしい。外に人の気配も感じず、廃村と言っても差し支えない雰囲気だ。
町の入り口にアーチ状のゲートが物々しげに建っており、『ミスカルタウン』と大きく書かれたプレートが貼り付けられている。
主が先導してそこを潜ろうとした瞬間だった。
パチッと何かが作動する音がし、慌てて音がした主の足元を見ると、足元に魔法陣が出現していた。
「うわっ、なんだこれ!」
「これは…転移魔法?」
主は咄嗟に結界魔法を発動させると、主の周りに透明な魔法の膜が現れた。外敵から身を守るために主の全身を覆うが、魔法陣の光はその結界ごと主を飲み込んでしまった。
光が消える頃には主の姿は消えていた。
慌てて魔法陣があった場所に駆け寄る。しゃがんで魔法陣に触れ、集中して魔力の痕跡を辿る。転送先はどうやらこの町の中へ続いているようだ。
しかし辺りが魔力に満ちているとはいえ不覚だった。
近くで魔法の魔力を探っているとよく分かる。これはかなり魔法に精通している魔術師が設置したものだ。間引かれた悪魔が出来る精度とは思えない。となれば、この転移魔法を設置したのは十中八九人間であろう。
魔法を解析していると、後ろからザッと砂を踏む音が聞こえた。
立ち上がって振り返ると、4人の人間が数メートル離れたところに立っていた。全員同じデザインのフードを目深に被り、こちらを見ている。
あの服装は見覚えがある。悪魔討伐を専門としている組織『エクソシスト』の衣装だ。しかも少数精鋭の特殊部隊メンバー用のもの。
これは思ったより面倒なことになるかもしれない。
「主、貴方といると本当に退屈しませんね…」
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