42 / 52
第2部
第11話:千年世界の引き籠り魔女⑤
しおりを挟む【side:ハル】
―――――――――
アカツキ君とディア君と別れた私は、ルキ君の待っているテントへ戻っていった。外はいつの間にか夕日が沈み、夜になっていた。
ルキ君はテント近くの焚き火の前に座り、鍋をお玉でかき混ぜているようだ。離れたところから歩いてくる私に気付いたルキ君は手を大きく振った。
「ああ、ハルお帰り! 遅かったな。ご飯作ってあるけど食べるか?」
ルキ君は火にかけていた鍋を地面に置いた。
良い香りが漂ってくる。角切りした根菜と塩漬けした肉の雑炊のようだ。
「有難う。食事は私の役割なのに申し訳ないね」
「気にするな! まあ、簡単な物しか作れないから口に合うか分からないけどな」
「……」
私はずっと、アカツキ君からマナの秘薬を受け取ったら、ルキ君になんと言って渡そうか考えていた。
喜んでもらえるだろうかと想像するだけで胸が温かくなった。
勿論、今でもこれを全てルキ君に渡すつもりでいる。
だが私には先に言うべき事があると感じた。
どう話を切り出せば良いか分からず、彼から少し離れた位置で立ち尽くしていた。
ルキ君は不思議そうに私の顔を覗き込んでいる。私は今どんな表情をしているのだろう、なんだか少し心配されているようにも見える。
「ルキ君…私は君に嘘をついている」
やっとの思いで私の口から出たのはそんな言葉だった。
自分でも『なんでこう言ったのだろう』と思ってしまった。言葉の選択を間違えてしまったかもしれないと思いつつも、これが言いたかった言葉だという気持ちもある。
ずっと秘密にして、今の穏やかな関係を続けていたいと思っていた。
だけどアカツキ君とディア君を見て、相手の全てを受け入れて恋人のように仲睦まじく生きていけるのもまた素敵だと思うようになった。
私は昨日まで、普段のアカツキ君はディア君に助けられて生活していると思っていた。それは危険な時も、普段の身のまわりの事も。
私がアカツキ君の魂の魔法を解くと言った時、事情は分からないがディア君はそれを恐れていたようだった。それを安心させるかのように手をつなぐアカツキ君を見て、正直とても眩しく感じた。
彼らはお互い助け合い、支え合って生きているのだと理解した。
ルキ君が手を差し伸べてくれるのが、前を歩いてくれるのが嬉しかった。甘える事を許されなかった私は、彼の優しさがとても心地良かった。彼に自分の正体を悟られるのが怖かった。きっと今の関係が崩れ、天界に居た頃のように格差が生まれてしまうと思ったから。
でもようやく気付いた。私は君に支えられたいという気持ちから、君を支えたいと願うようになっていた。
ルキ君ならきっと、私の正体が分かっても今まで通りに接してくれる。
嘘偽りのない関係でいられたら、きっと今以上に素敵だろう。
「嘘ってどれのこと?」
ルキ君は一瞬だけ驚いたが、穏やかな笑顔でそう聞いてきた。
やはり彼は、私が何かを隠していることには気付いていたのだろう。
それでいてずっと一緒に居てくれたのだ。
「私は…好きなものを自分の意志で決めて買うことが出来る、好きな食べ物を自分で選ぶことが出来る、好きな場所に1人で行き、何をするか決めることが出来る」
「うん」
「私は生きるだけなら1人でも出来る」
方法も知ってる、調べることが出来る。全てを完璧にこなすことが出来る。
他の人間や悪魔に出来て私に出来ないことは何もない。
たとえルキ君の力がなくても…
「そっか。じゃあ、俺はもう必要ないかな?」
そう言うルキ君は悲しそうで、だけど同じくらい安心したような顔をしていた。
私はすぐに首を横に振った。
「私にはルキ君が必要だ。病める時も健やかなる時も一緒に居たい」
「…はあぁ!? その言葉の意味分かってるのか?」
「分かっているよ」
その言葉にルキ君は今まで見たこともないくらい大きく口を開けて驚いていた。頬も赤くなっていて照れているようだ。私が真っすぐ彼を見つめると、口をパクパクさせながら目を逸らす姿が愛らしかった。
普段は頼りがいがあって真っすぐな彼は、いまだ他者からの好意には慣れていないようだ。
「理由を聞いてくれないか?」
「…やだ」
「意地悪だね」
「ハルには言っていないけど俺は人間に酷い事をした。それを知ったら君は俺に失望する。一緒に居る価値なんてないよ」
私は彼と出会った時、彼の頭に触れて記憶を覗いた。だから本当は全て知っている。
酷いことと言うなら、私の抱える罪の方が大きい。
それでも私は君と居たい。君に比べれば私は我儘で自分勝手なのだ。
「私は気にしないよ」
私がルキ君に近づくと、彼は慌てたように後ろに逃げようとする。
行かせまいと彼の片手を掴み、私の元を引き寄せると羽を出現させて彼の背中へ羽を伸ばす。人間の全長より大きな羽を彼を覆うように曲げると、ルキ君は私の羽の内側にすっぽりと収まった。
「えっ? えっ?」
「逃げないでおくれ」
ルキ君は逃げようと身をよじっていたが、背後も私の羽で閉じ込められていることに気付くと逃げるのを諦めたようだ。彼の額に私の額をコツンと合わせる。頭部から生えている羽も伸ばし、彼の後頭部を優しく包み込む。
ゼロ距離で目と目が合う。
揺れ動く金色の瞳は、光り輝く金星のようにとても美しかった。
「話したいことがあるんだ」
これから告げるのは、君の為だけに考えた拙い愛の言葉だ。
どうか君には、聞いてほしい。
0
あなたにおすすめの小説
【本編完結済】神子は二度、姿を現す
江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結
ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。
死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが
神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。
戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。
王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。
※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。
描写はキスまでの全年齢BL
【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~
一ノ瀬麻紀
BL
前世で恋人を失い、自身も命を落とした僕は──異世界で双子の兄として転生した。
新たな出会いと、再び芽生える恋心。
けれど、オメガとしての運命は、この世界でも僕を翻弄していく。
これは、前世の記憶を抱えた僕が、二度目の人生を懸命に生きる物語。
✤✤✤
ハピエンです。Rシーンなしの全年齢BLです。
よろしくお願いします。
きっと、君は知らない
mahiro
BL
前世、というのだろうか。
俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。
大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。
皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。
あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。
次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。
次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。
それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる