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第2部
第13話:Dear②
しおりを挟む私は主を抱えながら、いつの間にか眠っていたらしい。
主の身体はもう冷たくなっていた。
一旦テントまで戻ってきた私は、約半年世話になった馬の手綱を外した。相変わらずキズナの能力は消えていない。私にこの馬を元に戻すことは出来ないが、解放する約束は守らねばならない。
「今後は私の命令を聞く必要はない。好きな場所に行き、好きな時に食事をし、同種の仲間と共に生きなさい」
そう馬に命令した。
馬は了承したかのように一度だけ鳴くと、振り返り森の奥へ走っていった。
私はその後ろ姿が見えなくなるまで見守った。
―――――――――
テントをたたみ、昨日目星をつけていた必要そうな物は全て回収させてもらった。
全ての作業が終わる頃、壁に刺さっている結晶に大きな亀裂が入る。
音を立てながら破裂するように壊れた結晶は、破片が地面に落ちる前に砂のように粉々になって消えてしまった。
その瞬間、結晶が刺さっていた壁から魔方陣が浮かび上がる。そして魔方陣の中央から、ゆっくりと吐き出されるように1人の男の悪魔が出てきた。
悪魔は受け身を取ることもなく、そのまま地面に叩きつけられる。重症のようで、どういうわけか右腕はない。右肩が溶かされたように赤黒く染まっている。くぐもった呻き声が聞こえたので生きているだろうが、動きだす気配はない。
足先で蹴るように悪魔の身体をひっくり返し、顔を見る。かなり強い力を持った悪魔であることは分かるが、1000年前に会ったという記憶はない。
ただし何故か最近顔を見たことがあるような気がした。
「…ああ、思い出した。今朝の新聞に載っていた指名手配の悪魔の1人か」
主の食料と薬を買いに行くついでに買った新聞に載っていた事を思い出した。
人間界の新聞は場所によって記事の内容が大きく異なる特徴がある。『フォレストレイク』の新聞には指名手配されている悪魔の情報が毎日載せられているようだ。特にこの悪魔はとりわけ大きく掲載されていた。長年私利私欲のため人間たちを騙し続け、累計被害総数は全悪魔の中でもトップクラスらしい。
変身魔法で姿を偽り、なかなか足がつかなかったが、今では変身前の姿が判明しているようだ。数ヶ月前にオズマの場所を特定したり、『フォレストレイク』の住民は油断できない。
近年は姿を見せていないと書いてあったが、まさか主に封印されていたとは思わなかった。
悪魔は主の封印の余波が残っているようで、意識は戻っていないようだ。魔力も全て失っている。完全に意識を取り戻すためには数日かかりそうだ。魔力の回復はもっと長い時間がかかるだろう。
「おいお前、立てるか?」
倒れた悪魔の肩を踏みつけるが呻き声を上げるだけでこれといった反応もない。
わざわざ意識が戻るまで待つ価値もない。だがあまりに無様な状態で殺す気持ちにもなれない。それに強い悪魔を殺すにはかなりの魔力が必要なので労力の無駄だ。勝手にその辺で殺されてほしい。
こんな状態とはいえ、指名手配されるほど人間に悪意を持つ悪魔だ。放っておくのもリスクでしかない。少なくとも主に封印されるくらいの事をやったのは事実である。
悪魔には魂が見えているので生かしておいたら面倒なことになりかねない。
私は悪魔の足を掴み、隠れ家の外まで引きずり出した。
隠れ家の入り口から一定の距離をとり、一旦その辺に悪魔を投げ捨てる。そして一呼吸をしてから親指と中指で輪を作った腕を崖に向ける。
「丁度この隠れ家も跡形もなく消したいと思っていたところだ」
この隠れ家はもう必要ない。
もう必要ないから、私に関する情報を後世に残したくないから証拠隠滅のため消してほしいと言われていた。前に進む為にもこの場所にはもう二度と戻らないとも。
洞窟の中の物は全て消してほしいと言われていたが、洞窟そのものについては何も言われていない。だが昨日の主の話から、この場所がとても大切な場所だということが伝わった。
町からそう遠くなく、適度に広い洞窟だ。放っておいたらいつか誰かが使う可能性はある。だが主の話を聞いた後だと、主以外が使うのは嫌だった。
指を弾くと魔力はパチンと音を立てて弾ける。崖に向かって何度も魔法を乱射した。崖の岩は吹き飛ばされ塵状になり、抉れた崖は重さに耐えられずに崩れ、また魔法で吹き飛ばされる。ものの数十秒で崖は崩れ去り、砂埃が舞う。
崖がおおよそ崩れ去ったのを確認して、その辺に投げ捨てていた悪魔を拾い上げ、崩れた崖にぶん投げた。
意識がはっきりと戻っていない悪魔は背中から岩に強打され、うめき声を上げている。そして私はその悪魔の腹部目がけて腕を向け、先ほどより多くの魔力を込めて指を弾いた。
一瞬風を切る音と同時に強い衝撃波が悪魔に直撃する。そのままの勢いで崩れた岩の中に埋まり、腹部に当たった衝撃波の力で悪魔の身体は上半身と下半身の二つに分かれた。腹部や口から大量の血を吐き出し、岩肌を汚した。
かなり魔力を込めたはずだが、やはり強い悪魔だけあってもっと力を込めないと塵状になるまで分解出来そうにない。悪魔は声も上げる事も出来ない状態だろうが、生きてはいるだろう。
かなり強い魔法を使った。私の姿はともかく、遠くから崖が崩れる様子を見た人間が居てもおかしくない。近くにある『フォレストレイク』のエクソシストたちが気付いてここに来るのも時間の問題だろう。
早急にここを離れよう。
「囮になってくれてありがとう」
聞こえないだろうが血だらけになり横たわる悪魔に言う。
うまくいけば私の魔力を感知したエクソシストたちは、大悪魔同士が喧嘩したと勘違いしてくれるだろう。あれだけ深く傷付いていれば、1000年生きた悪魔であろうと人間のエクソシストたちで対処できるはずだ。指名手配の悪魔を野放しには絶対にしないはずなので、後の処理はエクソシストたちに任せよう。
万が一私の跡をつけられるのは困るので、私は門の魔法を魔界の人間ファンクラブ会場へ繋いだ。今の時間は誰も居ないだろうが、人間を連れた悪魔にとっては一番安全な場所だろう。
人間も世界を跨げば追ってこれないはずだ。
主の身体を丁重に抱き抱え、門を潜った。
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