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第三章
秋の日6
しおりを挟むマリナとの情事を終えたが、マリナはまだ正気に戻れないでいるようだった。本来、メイドは行為が終わった後にすぐシャルルのペニスの処理をして、服も整えなければいけない。
しかし、マリナは木の幹に体を預けたまま、尻も隠さずに荒く肩を上下させている。
「寒くなってきたな」
マリナの熱い肉体を離れたことで、秋の冷たい風が体に染みてきた。マリナが正気の戻るのを待っていられず、とりあえず衣服を整える。それでもまだ寒かった。それもそうだ。この季節には不似合いなほど薄着なのだ。
さきほどまで馬術と槍の稽古をしていたからこんな薄着でも耐えられたが、今はそうではない。
そろそろ屋敷に戻らなければいけない。時間も随分と経ってしまったはずだ。
「今は何時だ……、ん?」
いつもの癖で胸ポケットに手を入れようとして気づいた。懐中時計を入れた上着は厩舎に置きっぱなしだ。
うっかりしていた。
「も、もうしわけありませんご主人さま」
マリナが恥ずかしそうに顔を赤く染めながら、めくれていたスカートを慌てて戻した。
「後始末をしないと」
「いい、もう済んだ」
「で、でも……」
「気にするな」
マリナが快楽の中で溺れてしまったのは、マリナの責任ではない。自分がそうなるようにしたからだ。
外でなければマリナが気を取り戻すまで待ってもよかったが、寒い外ではそうもいかない。自分で後始末するしかなかった。
マリナはまだ気にしているようで、困った顔のままチラチラとこちらを見上げてくる。罪の意識があるのかもしれない。
真面目なことだ。その真面目さはもちろんメイドにとっては美徳なので、素晴らしいことではある。
「マリナ、申し訳ないと思うのなら少し頼みを聞いてくれ」
「え? なんでしょう、なんなりとお申し付けください! いつだってご主人さまのためにがんばります!」
妙に気合の入った返事があって、こっちが驚いてしまった。やる気に満ちているのも素晴らしいことだ。
「実は忘れ物をしてしまった。取りに行くからついてきてくれ」
「は、はぁ……。えっと、わたしが取りに行くんじゃなくて、ご主人さまについていくんですか?」
「ああ」
「重たいものなんでしょうか?」
「いや、懐中時計だ。子どもでも持てる」
「それならわたしがひとっ走りして取ってきます。任せてください」
そう言ってマリナが自身の慎ましい胸をドンと叩いてみせた。その仕草は可愛らしいものだったが、頼りがいは無い。
「どこですかご主人さま、すぐに取ってきます」
「厩舎だ、落ち着けマリナ」
今にも走り出しそうだったマリナの肩を掴む。
「アレ? 厩舎ってどこにあるんですか?」
「知らずに走り出そうとしていたのか。粗忽にもほどがある」
「そこつ……」
もしかすると意味がわからなかったのだろうか。マリナが小首をかしげている。意味を知らなくても、文脈でなんとなくわかるはずだ。
「メイドが入ることを禁じているいるからな。知らなくても無理はない」
「ああ……」
マリナは合点がいったように頷いた。
この屋敷で働くものはメイドだけではない。もちろん男もいる。しかし、メイドとそれらの男たちが出会うことがないように、メイドには入ってはいけない場所というものが定めてある。
もちろん、男たちも同じようにメイドたちが働く場所、例えばこの屋敷に無断で入ることはできない。
「でもどうしたらいんですか、わたし、そこに行くなって言われてるんですけど」
「俺がいいと言ってるんだからいいに決まってるだろう。誰がこの屋敷の主人だと思ってるんだ」
「あ、そ、そうですよね」
マリナは少し恥ずかしかったのか、水色の短い髪を指先でくるくるといじっている。
「あの、でもご主人さま、それではわたしは全然ご主人さまのお役に立てなくて、ただついて歩くだけになってしまうのでは」
「それでいい」
「で、でも」
「マリナのような可愛い女の子と一緒に歩くのは、俺にとっては嬉しいことだからな。十分に役立つ」
「え、ええええ?!」
マリナの顔が真っ赤になった。
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