名も無き農民と幼女魔王

寺田諒

文字の大きさ
320 / 586
第二部 第三章

はしゃぐお姉さん

しおりを挟む



 暖炉に灯った炎は薪の表面を舐め回すように這いずり回っていたが、それにも飽きたのか揺らめく触手を薪の中心にまで忍び込ませようとしていた。薪のあげる乾いた悲鳴が家の中に響く度に、肌を擦られているかのような熱がソフィの体に生まれてゆく。
 ソフィはその熱の中で小さく身震いをして、体をやや縮こまらせた。
 まだ暖炉に火を入れるほど寒いとは思えなかったが、こうやって暖かさを感じているとこれはこれでよいものに思えてしまう。


 ソフィは魔法について語っていたリーゼに視線を向けた。確か属性がどうのこうのとか言っていたが、その知識は随分とあやふやなものに思えてしまう。
 自称魔法に詳しいリーゼに尋ねてみる。

「しかしリーゼよ、属性とやらがあると言うが、火でも水でもなんでも扱える魔法使いもおるのではないか?」
「そういう人もいるらしいけど、そんなの極一握りの天才だけだって」
「ふ、ふむ……」
「そんな魔法使いがいたら、もうビックリだよ。それだけでね、都会にあるなんとか学校に入れるっていうし」
「なんとか……」

 魔法に詳しいという割には、リーゼは随分と知識が抜け落ちている気がしてしまう。魔法に属性があるとかいう話も初耳なので、少し信じがたい。
 シシィも自分も色々な種類の魔法を使えるから、そんなことを意識したこともなかった。

 リーゼはまだ興奮が収まらないのか、シシィの杖に目を向けた。

「ねぇねぇシシィさん、その杖ちょっと触っていい?」

 そう尋ねられたシシィが頷くよりも早く、リーゼはシシィの杖を手に取った。杖を手に持ったことでさらに興奮したのか、リーゼが自慢げにこちらへと視線と杖を向ける。

「出でよ炎!! って、出ないかー!」
「う、うむ、リーゼは魔法使いでもないしじゃな、というかこちらに向けてそんなことを言われても恐ろしいだけなのじゃ、出ておったら大変なのじゃ」
「あっ、でもなんかすごい魔法使いっぽい気分になってきた」
「気分……」

 リーゼは杖を持ったままシシィのすぐ隣にまで行き、小柄なシシィの顔を覗き込んだ。

「ねぇねぇシシィさん、シシィさんはどこで魔法を覚えたの? やっぱりシシィさんって貴族の生まれ? ほらやっぱり貴族に魔法使いって多いし、でも平民でもたまに魔法使いがいるからそういうわけじゃないだろうけど、でもやっぱりシシィさんってすっごい頭が良いってソフィちゃんが言ってたから、やっぱりちゃんとした家の人なの? でもそんな人がなんでこんなところに? っていうかシシィさんもアデルの馬鹿に惚れたって本当なの? 大変じゃない! やめといたほうがいいって。あっ、でもシシィさんがこの村にいるほうがあたしは嬉しいかな。シシィさんはやっぱりこの村に住み続けるの?」

 矢継ぎ早に繰り出される質問に、シシィは軽く口を開けたまま固まっていた。律儀にも質問の内容に答えようとしていたのだろうが、話がすぐに変わるから追いつけなかったのだろう。
 シシィは頭の回転が速いので、質問をされればすぐに反応することはできる。しかし、それでもシシィは考えてからでないと話せないのだろう。
 自分もどちらかといえば考えてからでないと話せない性質だが、リーゼの場合は考えるのと喋るのを同時に行ってしまう。しかもその話の内容はこちらが考えている間に移り変わってしまうのだから、ついていくのが難しい。

 リーゼを相手にする時はあまり深く考えて会話をしないほうが上手く行く。そのことに気づいたのはリーゼと知り合ってからそれなりに時間が経ってからのことだった。
 今のシシィでは話の奔流に惑わされてしまうだろう。
 ソフィはシシィがやや困っているのを見て再び助け舟を出すことにした。


「これリーゼよ、そんなに次々と質問を浴びせてはシシィが困るのじゃ」
「あっ、そっかー。ごめんねシシィさん、つい気になっちゃって」

 リーゼの謝罪に、シシィは表情も変えずに言う。

「構わない」
「そっか、よかったー。シシィさんみたいな魔法使いと知り合えたから興奮しちゃって」

 特に反省している様子もないリーゼを見て、ソフィは今後の二人が上手くやっていけるのかどうか不安になった。
 寡黙なシシィからすればお喋りなリーゼはあまり付き合いやすい人物ではないはずだ。もしかしたら、シシィは顔に出さないだけで不満を胸に秘めているのかもしれない。

 シシィが困るようならそれとなく会話に混じってシシィの助けになろう。ソフィがそんなことを考えていると、椅子がガタッと鳴った。
 何事かと思えばリディアが立ち上がってリーゼのほうを見ている。

「ちょっとリーゼ! なんでシシィとばっかりお喋りしてるのよ。あたしだって話したいのに!」
「あっ、ごめんごめん、リディアのこと忘れてた」

 悪気の無い言葉に、リディアは頬を叩かれたかのように勢いよく顔を背けた。

「ひ、ひどいわリーゼ……」

 確かに忘れてたなどと言われればリディアも悲しいだろう。ソフィは衝撃を受けているリディアを慰めるようにゆっくりと話した。

「あー、リディアよ、そう落ち込む必要はないのじゃ。リーゼは少し興奮しておるだけなのじゃ」
「まぁ、ソフィが珍しく優しいわ。お姉ちゃん嬉しい」
「珍しくとはなんじゃ、妾はいつでも心優しい女なのじゃ」

 リディアは涙も出てないのに大袈裟に目元を指先で拭っている。リディアの失礼な物言いに腹を立てていると、突然シシィの声が間に割り込んできた。

「あなたに相談したいことがある」

 まるで人ごみの間を突然抜けてきたかのような声だった。シシィの方を見ると、シシィはリーゼに体ごと向けているのがわかった。どうやらリーゼに向かって尋ねたらしい。
 いきなりのことだったので、リーゼも一瞬戸惑った表情を見せた。しかし、すぐさま明るい顔でリーゼが尋ね返す。

「え? なになに? なんでも相談して」
「……」

 好感触を得たにも関わらず、シシィはその続きを話そうとしなかった。それを見ておそらく何かを察したのだろう、リーゼがシシィに小声で尋ねる。

「もしかして二人きりで相談したいこと?」

 その読みは正しかったらしく、シシィがこくりと小さく頷く。これでリーゼは俄然気合が入ったらしく、大きな体を折るかのように体ごと頷いた。

「うんうん、なんでも相談に乗るよ! 他ならぬシシィさんのためだもん」

 どうやらシシィに頼られていることに喜びを感じているらしい。その相談の内容も解決できるかどうかもわかっていないのにリーゼは嬉しそうに顔を綻ばせている。
 それからリーゼはソフィとリディアの顔を順番に見て、明るい顔で言った。

「ごめん、二人ともちょっと出てってくれる?」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜

咲月ねむと
ファンタジー
東京での社畜生活に心身ともに疲れ果てた主人公・田中雄介(38歳)が、故郷の北海道、留咲萌町に帰郷。両親が遺したダンジョン付きの古民家を改装し、「ダンジョン民宿」として開業。偶然訪れた人気配信者との出会いをきっかけに、最初の客を迎え、民宿経営の第一歩を踏み出す。 笑えて、心温かくなるダンジョン物語。 ※この小説はフィクションです。 実在の人物、団体などとは関係ありません。 日本を舞台に繰り広げますが、架空の地名、建造物が物語には登場します。

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

処理中です...