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第二部 第三章
はしゃぐお姉さん
しおりを挟む暖炉に灯った炎は薪の表面を舐め回すように這いずり回っていたが、それにも飽きたのか揺らめく触手を薪の中心にまで忍び込ませようとしていた。薪のあげる乾いた悲鳴が家の中に響く度に、肌を擦られているかのような熱がソフィの体に生まれてゆく。
ソフィはその熱の中で小さく身震いをして、体をやや縮こまらせた。
まだ暖炉に火を入れるほど寒いとは思えなかったが、こうやって暖かさを感じているとこれはこれでよいものに思えてしまう。
ソフィは魔法について語っていたリーゼに視線を向けた。確か属性がどうのこうのとか言っていたが、その知識は随分とあやふやなものに思えてしまう。
自称魔法に詳しいリーゼに尋ねてみる。
「しかしリーゼよ、属性とやらがあると言うが、火でも水でもなんでも扱える魔法使いもおるのではないか?」
「そういう人もいるらしいけど、そんなの極一握りの天才だけだって」
「ふ、ふむ……」
「そんな魔法使いがいたら、もうビックリだよ。それだけでね、都会にあるなんとか学校に入れるっていうし」
「なんとか……」
魔法に詳しいという割には、リーゼは随分と知識が抜け落ちている気がしてしまう。魔法に属性があるとかいう話も初耳なので、少し信じがたい。
シシィも自分も色々な種類の魔法を使えるから、そんなことを意識したこともなかった。
リーゼはまだ興奮が収まらないのか、シシィの杖に目を向けた。
「ねぇねぇシシィさん、その杖ちょっと触っていい?」
そう尋ねられたシシィが頷くよりも早く、リーゼはシシィの杖を手に取った。杖を手に持ったことでさらに興奮したのか、リーゼが自慢げにこちらへと視線と杖を向ける。
「出でよ炎!! って、出ないかー!」
「う、うむ、リーゼは魔法使いでもないしじゃな、というかこちらに向けてそんなことを言われても恐ろしいだけなのじゃ、出ておったら大変なのじゃ」
「あっ、でもなんかすごい魔法使いっぽい気分になってきた」
「気分……」
リーゼは杖を持ったままシシィのすぐ隣にまで行き、小柄なシシィの顔を覗き込んだ。
「ねぇねぇシシィさん、シシィさんはどこで魔法を覚えたの? やっぱりシシィさんって貴族の生まれ? ほらやっぱり貴族に魔法使いって多いし、でも平民でもたまに魔法使いがいるからそういうわけじゃないだろうけど、でもやっぱりシシィさんってすっごい頭が良いってソフィちゃんが言ってたから、やっぱりちゃんとした家の人なの? でもそんな人がなんでこんなところに? っていうかシシィさんもアデルの馬鹿に惚れたって本当なの? 大変じゃない! やめといたほうがいいって。あっ、でもシシィさんがこの村にいるほうがあたしは嬉しいかな。シシィさんはやっぱりこの村に住み続けるの?」
矢継ぎ早に繰り出される質問に、シシィは軽く口を開けたまま固まっていた。律儀にも質問の内容に答えようとしていたのだろうが、話がすぐに変わるから追いつけなかったのだろう。
シシィは頭の回転が速いので、質問をされればすぐに反応することはできる。しかし、それでもシシィは考えてからでないと話せないのだろう。
自分もどちらかといえば考えてからでないと話せない性質だが、リーゼの場合は考えるのと喋るのを同時に行ってしまう。しかもその話の内容はこちらが考えている間に移り変わってしまうのだから、ついていくのが難しい。
リーゼを相手にする時はあまり深く考えて会話をしないほうが上手く行く。そのことに気づいたのはリーゼと知り合ってからそれなりに時間が経ってからのことだった。
今のシシィでは話の奔流に惑わされてしまうだろう。
ソフィはシシィがやや困っているのを見て再び助け舟を出すことにした。
「これリーゼよ、そんなに次々と質問を浴びせてはシシィが困るのじゃ」
「あっ、そっかー。ごめんねシシィさん、つい気になっちゃって」
リーゼの謝罪に、シシィは表情も変えずに言う。
「構わない」
「そっか、よかったー。シシィさんみたいな魔法使いと知り合えたから興奮しちゃって」
特に反省している様子もないリーゼを見て、ソフィは今後の二人が上手くやっていけるのかどうか不安になった。
寡黙なシシィからすればお喋りなリーゼはあまり付き合いやすい人物ではないはずだ。もしかしたら、シシィは顔に出さないだけで不満を胸に秘めているのかもしれない。
シシィが困るようならそれとなく会話に混じってシシィの助けになろう。ソフィがそんなことを考えていると、椅子がガタッと鳴った。
何事かと思えばリディアが立ち上がってリーゼのほうを見ている。
「ちょっとリーゼ! なんでシシィとばっかりお喋りしてるのよ。あたしだって話したいのに!」
「あっ、ごめんごめん、リディアのこと忘れてた」
悪気の無い言葉に、リディアは頬を叩かれたかのように勢いよく顔を背けた。
「ひ、ひどいわリーゼ……」
確かに忘れてたなどと言われればリディアも悲しいだろう。ソフィは衝撃を受けているリディアを慰めるようにゆっくりと話した。
「あー、リディアよ、そう落ち込む必要はないのじゃ。リーゼは少し興奮しておるだけなのじゃ」
「まぁ、ソフィが珍しく優しいわ。お姉ちゃん嬉しい」
「珍しくとはなんじゃ、妾はいつでも心優しい女なのじゃ」
リディアは涙も出てないのに大袈裟に目元を指先で拭っている。リディアの失礼な物言いに腹を立てていると、突然シシィの声が間に割り込んできた。
「あなたに相談したいことがある」
まるで人ごみの間を突然抜けてきたかのような声だった。シシィの方を見ると、シシィはリーゼに体ごと向けているのがわかった。どうやらリーゼに向かって尋ねたらしい。
いきなりのことだったので、リーゼも一瞬戸惑った表情を見せた。しかし、すぐさま明るい顔でリーゼが尋ね返す。
「え? なになに? なんでも相談して」
「……」
好感触を得たにも関わらず、シシィはその続きを話そうとしなかった。それを見ておそらく何かを察したのだろう、リーゼがシシィに小声で尋ねる。
「もしかして二人きりで相談したいこと?」
その読みは正しかったらしく、シシィがこくりと小さく頷く。これでリーゼは俄然気合が入ったらしく、大きな体を折るかのように体ごと頷いた。
「うんうん、なんでも相談に乗るよ! 他ならぬシシィさんのためだもん」
どうやらシシィに頼られていることに喜びを感じているらしい。その相談の内容も解決できるかどうかもわかっていないのにリーゼは嬉しそうに顔を綻ばせている。
それからリーゼはソフィとリディアの顔を順番に見て、明るい顔で言った。
「ごめん、二人ともちょっと出てってくれる?」
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