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【我が家の子犬】
5.我が家の子犬は人間不信
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「フィー? アルス?」
薄暗い室内に向かって、閉め切られているカーテンの隙間から差し込む日の光を頼りに昨夜まで一緒に寝ていた一人と一匹にロアルドが呼びかける。しかし、室内は静まり返ったままで、どちらからも返事は返ってこなかった。
とりあえず、まずは室内を見渡しやすくしようとロアルドは窓際に近寄り、カーテンを開けようとした。すると、窓から見渡せる中庭にアルスの後をピッタリとくっついているフィリアナの姿が目に入る。
「フィーの奴……。アルスに首輪とリードも着けないで外に連れ出して……。もしアルスが邸の敷地外に逃げたら、どうするんだよ!」
あまりにも無防備にアルスを外に出してしまった妹の不満を呟きながら、ロアルドは慌てて着替えの為に自室に戻る。
だが、通常よりも早い時間で起床した為、いつも着替えを手伝ってくれる侍女のアンナとシシルは、まだそこにはいなかった。仕方がないので、自身で服を引っ張り出して大急ぎで着替えた後、先程アルスの部屋に用意されていた犬用の首輪と散歩用のリードを手にして中庭へ向かう。
すると、フィリアナと距離を取るように通常よりも速く歩くアルスと、その事に気付かずに一生懸命話しかけながら、その後をつけまわすフィリアナの姿が目に入ってきた。
だがその様子は、どう見てもフィリアナの一方的なアプローチで終わってしまている状態にしか見えない。
何故なら先程からフィリアナに話しかけられているアルスは、無視を決め込んでいる状態だからだ。
「アルス、どこに行くのー?」
フィリアナのその問いに全く反応を示さないアルスは、そのままタシタシと中庭の中央の方へと歩みを進める。
「朝ごはんまで、フィーと一緒に遊ばない? フィーね、面白い遊び、いっぱい知ってるよ?」
自分の中ではとても魅惑的な誘い方をしたフィリアナだが、対するアルスは振り返るどころか、更にフィリアナと距離を取ろうと歩く速度を早めた。
「アルスが遊んでくれたらフィー、嬉しいなー。フィーね、これからいっぱいアルスと遊んで、早く仲良くなりたいの!」
一生懸命アルスの気を引こうと話しかけるフィリアナだが、当のアルスはその誘いに乗るどころか、鬱陶しそうな反応を見せている……。
そのアルスの反応にロアルドは「無理もない」と思った。
アルスは最近、ずっと懐いていた自分の世話係に殺されかけた上に主と選んだ第二王子と、いきなり引き離されているのだ……。その為、現状は心細さだけでなく、人間に対する不信感もかなり募らせていると思われる。
しかしまだ幼いフィリアナは、アルスのその状況をあまり理解していない……。
アルスが世話係に殺されかけたという事までは理解しているが、その事でアルスが深く傷つき、人間を嫌っているかも知れないという考えには至らないのだ。
それどころか、傷ついているアルスを癒す為に過剰に愛情を注げばいいと、かなりの極論に陥っている事が見て取れる。
「フィーの奴、あんなにしつこくアルスに絡んで大丈夫かな? なんかアルス、嫌がってるようにも見えるんだけれど……」
そんな二人のやりとりを傍観していたロアルドだが……。
アルスが、どんどんと邸から離れるように中庭を突き進んでいく事に気づき、慌てて二人の方へと駆け寄る。
「フィー! 首輪とリードも着けないでアルスを外に出したらダメじゃないか!! もしアルスが邸の敷地内から逃げたらどうするんだよ!?」
「あー、兄様。おはようー」
「『おはよう』じゃないよぉ……。お前は本当にのん気だよな……。いいか、フィー。ワンコを外に連れ出す時は、必ず散歩用のリードを着けないとダメなんだぞ?」
「そうなの? なんで?」
「そうしないと、アルスが逃げ出すかもしれないし、もしかしたら急に誰かに飛びかかるかもしれないだろう? それに……もしアルスが危険な場所に入ろうとした時、すぐに止められないよ。ワンコを外に連れ出す時は、首輪にこのリードを着けるのが、お散歩する時のルールとマナーなんだ」
兄にそう諭されたフィリアナだが、その重要性はあまり理解出来ない様子を見せる。
「でもアルス、いい子だから人に飛びついたり、逃げたりしないよ?」
「でもコイツ今、邸からどんどん離れるように歩いているじゃないか……。もしかしてアルフレイス殿下に会いたくて、ここを抜け出そうとしてるかもしれないぞ?」
「そ、そんな事ないよ! アルス、今までフィーと仲良くお庭をお散歩してただけだもん!」
「仲良くって……。どちらかと言うと、フィーがアルスにベタベタし過ぎて、迷惑がったアルスがフィーから逃げようとしてたようにしか見えなかったぞ?」
「そんな事ないもん!!」
両手で握りこぶしを作り、兄の指摘をフィリアナが全力で否定する。
しかし当のアルスは、ロアルドがフィリアナの注意を引きつけてくれている事を好機と捉え、このチャンスを逃すまいと一気にフィリアナとの距離を広げようと中庭の中心へと駆け出す。
「あーっ!! アルスが逃げちゃった!」
「フィー!! 急いでアルスを捕まえるぞ!!」
「う、うん!」
兄からの指示に従ってアルスに追いついたフィリアナが、アルスの動きを拘束するように後ろから馬乗りになって、アルスの下半身の方へと軽く体重をかける。
「キャン! キャン! キャン!」
するとアルスが、無理矢理伏せをさせられている状態になり、藻掻きながら吠えだした。
「ご、ごめんね、アルス……。でもちょっとジッとしてて!」
「フィー! そのままアルスの動きを封じててくれ! その間に兄様がアルスに首輪とリードを着けるから!」
少し遅れてアルスとフィリアナのもとに駆け寄ったロアルドは、フィリアナに体重をかけられて押さえつけられているアルスに無理矢理首輪を着けようとした。
しかし……どうやらアルスは首輪が相当嫌いらしく、激しく抵抗し始める。
「うわっ! こんなに暴れたら首輪が着けられないよ!! フィー! もっとしっかりアルスの体と首を押さえて!」
「う、うん!」
兄に言われた通り、アルスの下半身を抑え込むように更に体重をかけたフィリアナは、アルスの首辺りを両手で包み込むように掴み、首輪がつけやすい体勢を確保しようとする。
しかしアルスは、どうしても首輪を着けたくないようで……。
必死でフィリアナの拘束から抜けだそうと、更に激しく暴れまわった。
そんなアルスのお腹の下に両手を差し入れたフィリアナはそのまま鷲掴みにし、更にアルスの動きを封じる。
同時に首輪を着けようとするロアルドの手もアルスに伸びてきた。
「フィー! そのままアルスを押さえつけておいて!」
「う、うん!」
アルスを拘束する為、見事な連係プレイを披露し始めた二人。
だが、その行動はアルスの苛立ちと不安を爆発させてしまう。
次の瞬間……なんとアルスは、軽くだが抗議するようにフィリアナの左手に噛みついたのだ。
「痛っ!」
アルスのその攻撃的な行動に驚いたフィリアナが、一瞬アルスから手を離してしまう。そのチャンスをアルスは逃さない。フィリアナの拘束から瞬時に逃れ、そのまま邸に向かって逃げ出す様に走り出す。
「ああー!! こら! アルス、逃げるなー!!」
素早い動きで邸の方へ駆け出したアルスをロアルドが慌てて追いかけようとする。だが、何故かフィリアナの気配を感じない……。
その事に気付いたロアルドは、アルスを追いかけながら後方のフィリアナの方へと振り返る。
すると……驚いた表情のまま立ち尽くし、フルフルと震えているフィリアナの姿が視界に入る。よく見ると、フィリアナは何かを堪えるように着ているドレスワンピースのスカート部分を手が白くなるまで、両手で強く握りしめていた。
「フィー? ど、どうした……?」
何やら様子がおかしい妹にアルスを追いかける事を中断したロアルドが、恐る恐る声を掛ける。すると、邸の方へ全力疾走しかけていたアルスも異変に気づき、ピタリと足をとめてフィリアナの方へ振り返った。
だが次の瞬間――――。
「うわぁぁぁぁぁぁーん!! アルスがフィーの手、噛んだぁぁぁぁぁぁー!!」
フィリアナが天を仰ぐように大声で泣き叫び始めた。
薄暗い室内に向かって、閉め切られているカーテンの隙間から差し込む日の光を頼りに昨夜まで一緒に寝ていた一人と一匹にロアルドが呼びかける。しかし、室内は静まり返ったままで、どちらからも返事は返ってこなかった。
とりあえず、まずは室内を見渡しやすくしようとロアルドは窓際に近寄り、カーテンを開けようとした。すると、窓から見渡せる中庭にアルスの後をピッタリとくっついているフィリアナの姿が目に入る。
「フィーの奴……。アルスに首輪とリードも着けないで外に連れ出して……。もしアルスが邸の敷地外に逃げたら、どうするんだよ!」
あまりにも無防備にアルスを外に出してしまった妹の不満を呟きながら、ロアルドは慌てて着替えの為に自室に戻る。
だが、通常よりも早い時間で起床した為、いつも着替えを手伝ってくれる侍女のアンナとシシルは、まだそこにはいなかった。仕方がないので、自身で服を引っ張り出して大急ぎで着替えた後、先程アルスの部屋に用意されていた犬用の首輪と散歩用のリードを手にして中庭へ向かう。
すると、フィリアナと距離を取るように通常よりも速く歩くアルスと、その事に気付かずに一生懸命話しかけながら、その後をつけまわすフィリアナの姿が目に入ってきた。
だがその様子は、どう見てもフィリアナの一方的なアプローチで終わってしまている状態にしか見えない。
何故なら先程からフィリアナに話しかけられているアルスは、無視を決め込んでいる状態だからだ。
「アルス、どこに行くのー?」
フィリアナのその問いに全く反応を示さないアルスは、そのままタシタシと中庭の中央の方へと歩みを進める。
「朝ごはんまで、フィーと一緒に遊ばない? フィーね、面白い遊び、いっぱい知ってるよ?」
自分の中ではとても魅惑的な誘い方をしたフィリアナだが、対するアルスは振り返るどころか、更にフィリアナと距離を取ろうと歩く速度を早めた。
「アルスが遊んでくれたらフィー、嬉しいなー。フィーね、これからいっぱいアルスと遊んで、早く仲良くなりたいの!」
一生懸命アルスの気を引こうと話しかけるフィリアナだが、当のアルスはその誘いに乗るどころか、鬱陶しそうな反応を見せている……。
そのアルスの反応にロアルドは「無理もない」と思った。
アルスは最近、ずっと懐いていた自分の世話係に殺されかけた上に主と選んだ第二王子と、いきなり引き離されているのだ……。その為、現状は心細さだけでなく、人間に対する不信感もかなり募らせていると思われる。
しかしまだ幼いフィリアナは、アルスのその状況をあまり理解していない……。
アルスが世話係に殺されかけたという事までは理解しているが、その事でアルスが深く傷つき、人間を嫌っているかも知れないという考えには至らないのだ。
それどころか、傷ついているアルスを癒す為に過剰に愛情を注げばいいと、かなりの極論に陥っている事が見て取れる。
「フィーの奴、あんなにしつこくアルスに絡んで大丈夫かな? なんかアルス、嫌がってるようにも見えるんだけれど……」
そんな二人のやりとりを傍観していたロアルドだが……。
アルスが、どんどんと邸から離れるように中庭を突き進んでいく事に気づき、慌てて二人の方へと駆け寄る。
「フィー! 首輪とリードも着けないでアルスを外に出したらダメじゃないか!! もしアルスが邸の敷地内から逃げたらどうするんだよ!?」
「あー、兄様。おはようー」
「『おはよう』じゃないよぉ……。お前は本当にのん気だよな……。いいか、フィー。ワンコを外に連れ出す時は、必ず散歩用のリードを着けないとダメなんだぞ?」
「そうなの? なんで?」
「そうしないと、アルスが逃げ出すかもしれないし、もしかしたら急に誰かに飛びかかるかもしれないだろう? それに……もしアルスが危険な場所に入ろうとした時、すぐに止められないよ。ワンコを外に連れ出す時は、首輪にこのリードを着けるのが、お散歩する時のルールとマナーなんだ」
兄にそう諭されたフィリアナだが、その重要性はあまり理解出来ない様子を見せる。
「でもアルス、いい子だから人に飛びついたり、逃げたりしないよ?」
「でもコイツ今、邸からどんどん離れるように歩いているじゃないか……。もしかしてアルフレイス殿下に会いたくて、ここを抜け出そうとしてるかもしれないぞ?」
「そ、そんな事ないよ! アルス、今までフィーと仲良くお庭をお散歩してただけだもん!」
「仲良くって……。どちらかと言うと、フィーがアルスにベタベタし過ぎて、迷惑がったアルスがフィーから逃げようとしてたようにしか見えなかったぞ?」
「そんな事ないもん!!」
両手で握りこぶしを作り、兄の指摘をフィリアナが全力で否定する。
しかし当のアルスは、ロアルドがフィリアナの注意を引きつけてくれている事を好機と捉え、このチャンスを逃すまいと一気にフィリアナとの距離を広げようと中庭の中心へと駆け出す。
「あーっ!! アルスが逃げちゃった!」
「フィー!! 急いでアルスを捕まえるぞ!!」
「う、うん!」
兄からの指示に従ってアルスに追いついたフィリアナが、アルスの動きを拘束するように後ろから馬乗りになって、アルスの下半身の方へと軽く体重をかける。
「キャン! キャン! キャン!」
するとアルスが、無理矢理伏せをさせられている状態になり、藻掻きながら吠えだした。
「ご、ごめんね、アルス……。でもちょっとジッとしてて!」
「フィー! そのままアルスの動きを封じててくれ! その間に兄様がアルスに首輪とリードを着けるから!」
少し遅れてアルスとフィリアナのもとに駆け寄ったロアルドは、フィリアナに体重をかけられて押さえつけられているアルスに無理矢理首輪を着けようとした。
しかし……どうやらアルスは首輪が相当嫌いらしく、激しく抵抗し始める。
「うわっ! こんなに暴れたら首輪が着けられないよ!! フィー! もっとしっかりアルスの体と首を押さえて!」
「う、うん!」
兄に言われた通り、アルスの下半身を抑え込むように更に体重をかけたフィリアナは、アルスの首辺りを両手で包み込むように掴み、首輪がつけやすい体勢を確保しようとする。
しかしアルスは、どうしても首輪を着けたくないようで……。
必死でフィリアナの拘束から抜けだそうと、更に激しく暴れまわった。
そんなアルスのお腹の下に両手を差し入れたフィリアナはそのまま鷲掴みにし、更にアルスの動きを封じる。
同時に首輪を着けようとするロアルドの手もアルスに伸びてきた。
「フィー! そのままアルスを押さえつけておいて!」
「う、うん!」
アルスを拘束する為、見事な連係プレイを披露し始めた二人。
だが、その行動はアルスの苛立ちと不安を爆発させてしまう。
次の瞬間……なんとアルスは、軽くだが抗議するようにフィリアナの左手に噛みついたのだ。
「痛っ!」
アルスのその攻撃的な行動に驚いたフィリアナが、一瞬アルスから手を離してしまう。そのチャンスをアルスは逃さない。フィリアナの拘束から瞬時に逃れ、そのまま邸に向かって逃げ出す様に走り出す。
「ああー!! こら! アルス、逃げるなー!!」
素早い動きで邸の方へ駆け出したアルスをロアルドが慌てて追いかけようとする。だが、何故かフィリアナの気配を感じない……。
その事に気付いたロアルドは、アルスを追いかけながら後方のフィリアナの方へと振り返る。
すると……驚いた表情のまま立ち尽くし、フルフルと震えているフィリアナの姿が視界に入る。よく見ると、フィリアナは何かを堪えるように着ているドレスワンピースのスカート部分を手が白くなるまで、両手で強く握りしめていた。
「フィー? ど、どうした……?」
何やら様子がおかしい妹にアルスを追いかける事を中断したロアルドが、恐る恐る声を掛ける。すると、邸の方へ全力疾走しかけていたアルスも異変に気づき、ピタリと足をとめてフィリアナの方へ振り返った。
だが次の瞬間――――。
「うわぁぁぁぁぁぁーん!! アルスがフィーの手、噛んだぁぁぁぁぁぁー!!」
フィリアナが天を仰ぐように大声で泣き叫び始めた。
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