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【我が家の番犬】
46.我が家の番犬は飼い主を号泣させる
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―――――【★注意★】―――――
【残酷な描写あり】の重い展開が、まだ続いております……。
一応、感受性が強い方、涙腺が弱い方、キャラに感情移入をしやすい方が読まれる際はご注意を。
(心配な方はご自宅でゆっくり読める時にお読みください)
※尚、次の47話ですぐに救い展開は来ます。
――――――――――――――――
フィリアナの叫び声と同時に部屋の中を駆け抜けていった稲妻は、アルスが倒れ込んでいる辺りから奥の方にバチバチ音を立てながら、侵入者に向かって走っていく。そしてその稲妻とすれ違うように部屋の奥から順に強固な岩壁がフィリアナ達の方に向かうように床から三枚現れた。
その状況にフィリアナは、縋るような視線で勢いよく扉の方へと振り返る。
「に、兄様ぁぁぁ!!」
そこには兄ロアルドとレイの姿があった。
恐らくアルスの危機的状況を感じ取ったレイが、ロアルドをここまで連れてきてくれたのだろう。そんなレイは部屋に入るなり、一直線に侵入者のもとへと突進しながら、雷属性の魔法を広範囲に放つ。
レイの素早い動きで防御魔法を放つ余裕がなかった侵入者は、その攻撃が直撃し、やや痙攣したような動きを見せた後、そのまま前方に倒れた。
すると、ロアルドが地属性魔法で即座に強固な岩壁を作り出し、侵入者全体を覆うように捕縛しながら、フィリアナ達のもとへ駆けつけた。
「フィー! 無事……」
フィリアナの安全を確認しながら近づいてきたロアルドだが、目の前の惨状が視界に入った瞬間、言葉を失い立ち尽くす。
「何で……こんな事に……」
「に、兄様ぁ! ど、どうしよう……どうしようどうしようどうしよう!! こ、このままじゃアルスが……アルスが死んじゃう!!」
顔色を失い放心状態のロアルドの腕を半狂乱になったフィリアナが大粒の涙をこぼしながら、乱暴に掴んで揺さぶる。
「落ち……つけ……。止血……そうだ! 早く止血をしないと!!」
あまりにも衝撃的な状況で頭が全く回らない状態になりつつも、ロアルドはピアノに向かって走り出し、そこに掛かっていた埃除け用のカバーを乱暴に引っ掴んだ。
その間、フィリアナは必死にアルスに呼びかける。
「お願い……お願いだからアルス、目を開けていて! 私をしっかり見て!」
フィリアナが必死に呼びかけるも当のアルスは青みがかった薄灰色の瞳を虚にしながら、ヒューヒューと喉を鳴らす。だが呼びかけには反応し、微かに視線だけをフィリアナに向けてきた。だが、腹部からの出血は全く止まる様子がない。
するとピアノカバーを抱えて戻ってきたロアルドが、アルスの傍に膝から滑り込むように座り込む。
「とりあえず、これで……。レイ! お前は急いで父上を呼んできてくれ!」
「キャウ!」
ロアルドに指示を出されたレイが、物凄い勢いで部屋を出ていく。
しかし目の前のアルスは、フィリックスの到着を待つのが難しいくらいに衰弱していた。
そんなアルスの腹部を刺さっている石槍ごと、ピアノカバーでしっかり巻き付けたロアルドだが、これ以上の応急処置が自分に出来ない事に苛立ちを見せる。
「まずい……。血が止まらない……」
必死で止血を試みるも、すでに手遅れとしか思えないアルスの状態にロアルドも瞳に涙を溜めだす。そんな兄の様子を目にしたフィリアナが、発狂するようにアルスに声をかけ始める。
「ダメ……ダメだよ、アルス!! お願いだから目を閉じないで! 私を……私をちゃんと見て!」
発狂気味で泣き叫ぶフィリアナに瀕死のアルスが眼球のみ動かして視線だけ向ける。
だが、それ以上の反応はない……。
それどころか徐々に瞳が虚ろになり、白目部分が目立ってきていた。
そんな今にも意識を失いそうなアルスにフィリアナが必死で呼びかける。
「アルス、お願い! お願いだから……目を……目を閉じないでぇー……」
今、アルスが瞳を閉じてしまったら、そのまま逝ってしまう……。
その事に気付いているフィリアナは、必死でアルスの意識をとどめようとした。
そしてアルスの方もフィリアナの願いを聞き入れようと、必死で瞳を見開いてくれている。
しかし、その瞳は徐々に白目部分の領域は増えいく……。
その状態からアルスが意識を失いかけている事だと理解しているフィリアナは、いつも窮地から自分を救ってくれる兄に縋りつく。
「ダメぇ……。目を閉じないでぇ……。に、兄様……アルスが………アルスがぁ……」
「くそっ! アルス、しっかりしろ! 頼む……。頼むから、まだ行くな!!」
いつの間にか涙をこぼしながら止血をしている兄の様子から、もうアルスは手の施しようが無いほどの状態なのだと、嫌でもフィリアナは痛感する。
その瞬間、フィリアナは勢いよくアルスに縋りついた。
「や……やだぁぁぁー!! アルス、行かないでぇ!! 私を……私を置いて行かないでぇぇぇ!!」
そんなフィリアナの悲痛な訴えも虚しく、目の前のアルスは意識が朦朧とし始めたのか、眼球が天を仰ぎ始める。それが事切れる寸前である事を察したフィリアナが、アルスの顔を両手で覆いながら半狂乱になって叫び出す。
「やだやだやだぁぁぁー!! ダメ!! アルス、目を閉じたらダメェェェー!!」
「アルス!! 行くな……。行くなぁぁぁー!!」
フィリアナだけでなく、ロアルドも涙を零しながら必死で呼びかけるが、残酷な事にアルスの呼吸の間隔が、まるで命のカウントをするかのように徐々に長くなる。その状況に堪らなくなったフィリアナが、両手でアルスの顔を覆ったまま、アルスの額に自身の額をくっ付け、祈るように懇願する。
「お願い……お願いだから……行かないでぇ……」
ギュッと瞳を閉じながら呟くフィアナが、ボロボロと涙を零しながらゆっくりと目を開ける。すると、虚ろなアルスの瞳が、一瞬だけ穏やかそうな光を宿してフィリアナを見つめ返して来た。
しかしその瞳は、そのままゆっくりとフィリアナの目の前で閉じられる。
それと同時に苦しそうだったアルスの呼吸音が、ふっと消えた。
その瞬間、フィリアナが苦痛に耐えるように自身の唇を強く噛む。
そして、そのまま動かなくなったアルスに縋りつくように覆い被さる。
「嫌ぁ……嫌ぁぁぁぁぁぁー!! アルス……起きてぇ……。アルス……アルスゥゥゥー!!」
防音措置がされている室内に深い絶望感と、フィリアナの悲痛な叫びが響き渡る。そして何度も何度もアルスの体を揺すって起こそうとしている妹をロアルドが涙を拭いながら、そっと肩を抱き寄せ、アルスから引き離した。
「フィー……。アルスは、もう……」
兄のその言葉にフィリアナの顔が、更にくしゃりと歪む。
「嘘……。こんなの……嘘よぉぉ!! だって、これは夢でしょう!? 現実じゃないから……私が目を覚ませば、きっと―――!」
「フィー!!」
ショックからか虚ろな瞳で妄想めいた事を言い出した妹の両肩をロアルドは掴み、自分の方に向かせた。対するフィリアナは、駄々をこねる幼子のようにイヤイヤと首を激しく振る。
「嫌ぁぁぁ!! 兄様、離して!! アルスは……アルスは、まだ生きてるんだからぁぁぁ!!」
「フィー!!」
「嫌ぁぁぁぁぁぁー!!」
半狂乱になって泣き叫びながら暴れる妹を瞳に涙を溜めたまま、ロアルドが必死に押さえつける。
「フィー!! 頼むから、落ち着いてくれ!! これは現実に起こってしまった事なんだよ!! それに……どんなにフィーが暴れたって、アルスは……もう戻ってはこないんだ!!」
兄のその言葉で放心状態になっていたフィリアナが、ビクリと体を強張らせてと動きを止める。そしてそのまま俯き、自身の寝間着用の裾を指が白くなる強さでギュッと握りしめ、涙をハラハラとこぼし始める。
「何……で……? 何でぇ……? だ、だって、ついさっきまで、アルスは元気だったのに……。わ、私と一緒に眠っていたのにぃー……」
「フィー……」
顔をくしゃくしゃにしながらボタボタと涙をこぼし、アルスの亡骸に縋りつく妹の肩をそっと掴んで、そこから優しく引き離したロアルドは、痛みを堪えるような表情を浮かべ、そのまま妹の肩を優しく撫でる。
「うっ……ふぅ……。に、兄様ぁ……。嫌ぁ……、アル、アルスゥー……」
そのまま兄に縋り付くように静かに泣き始めたフィリアナを労るようにロアルドは何度も頭を撫でた。
だが、どれだけ悲しんでもアルスは、もう動かない……。
妹の背中越しに見える微動だにしないアルスの姿にロアルドも再び涙をこぼし始める。
「くそっ……。なんでもっと早く……僕は駆けつけられなかったんだ……」
「兄様ぁ……」
アルスを失って辛いのは、ロアルドも同じだ。
ましては、あと少し早く自分が駆けつけていれば、アルスは死なずにすんだかもしれないと思うと、自分に対して物凄い怒りが込み上げてくる。
だが、今更それを思い返したところでアルスは、もう二度と帰っては来ない。
ならば、アルスの為に出来る事をこれからしなければと、フィリアナよりも先に気持ちを落ち着かせたロアルドは妹から体を離し、すでに事切れてしまったアルスの亡骸を優しく撫でる。
「ごめんな、アルス……。間に合わなくて……」
「に、兄様のせいじゃ……ない……。私が……油断しなければ……。私がもっと強力な防御魔法が使えたら……。ごめんね、アルス。ごめんねぇー……」
フィリアナも何度も謝罪を口にしながら、兄と同じくアルスの事を撫でようと手を伸ばす。
しかしその瞬間、突如としてアルスの体が光り始めた。
【残酷な描写あり】の重い展開が、まだ続いております……。
一応、感受性が強い方、涙腺が弱い方、キャラに感情移入をしやすい方が読まれる際はご注意を。
(心配な方はご自宅でゆっくり読める時にお読みください)
※尚、次の47話ですぐに救い展開は来ます。
――――――――――――――――
フィリアナの叫び声と同時に部屋の中を駆け抜けていった稲妻は、アルスが倒れ込んでいる辺りから奥の方にバチバチ音を立てながら、侵入者に向かって走っていく。そしてその稲妻とすれ違うように部屋の奥から順に強固な岩壁がフィリアナ達の方に向かうように床から三枚現れた。
その状況にフィリアナは、縋るような視線で勢いよく扉の方へと振り返る。
「に、兄様ぁぁぁ!!」
そこには兄ロアルドとレイの姿があった。
恐らくアルスの危機的状況を感じ取ったレイが、ロアルドをここまで連れてきてくれたのだろう。そんなレイは部屋に入るなり、一直線に侵入者のもとへと突進しながら、雷属性の魔法を広範囲に放つ。
レイの素早い動きで防御魔法を放つ余裕がなかった侵入者は、その攻撃が直撃し、やや痙攣したような動きを見せた後、そのまま前方に倒れた。
すると、ロアルドが地属性魔法で即座に強固な岩壁を作り出し、侵入者全体を覆うように捕縛しながら、フィリアナ達のもとへ駆けつけた。
「フィー! 無事……」
フィリアナの安全を確認しながら近づいてきたロアルドだが、目の前の惨状が視界に入った瞬間、言葉を失い立ち尽くす。
「何で……こんな事に……」
「に、兄様ぁ! ど、どうしよう……どうしようどうしようどうしよう!! こ、このままじゃアルスが……アルスが死んじゃう!!」
顔色を失い放心状態のロアルドの腕を半狂乱になったフィリアナが大粒の涙をこぼしながら、乱暴に掴んで揺さぶる。
「落ち……つけ……。止血……そうだ! 早く止血をしないと!!」
あまりにも衝撃的な状況で頭が全く回らない状態になりつつも、ロアルドはピアノに向かって走り出し、そこに掛かっていた埃除け用のカバーを乱暴に引っ掴んだ。
その間、フィリアナは必死にアルスに呼びかける。
「お願い……お願いだからアルス、目を開けていて! 私をしっかり見て!」
フィリアナが必死に呼びかけるも当のアルスは青みがかった薄灰色の瞳を虚にしながら、ヒューヒューと喉を鳴らす。だが呼びかけには反応し、微かに視線だけをフィリアナに向けてきた。だが、腹部からの出血は全く止まる様子がない。
するとピアノカバーを抱えて戻ってきたロアルドが、アルスの傍に膝から滑り込むように座り込む。
「とりあえず、これで……。レイ! お前は急いで父上を呼んできてくれ!」
「キャウ!」
ロアルドに指示を出されたレイが、物凄い勢いで部屋を出ていく。
しかし目の前のアルスは、フィリックスの到着を待つのが難しいくらいに衰弱していた。
そんなアルスの腹部を刺さっている石槍ごと、ピアノカバーでしっかり巻き付けたロアルドだが、これ以上の応急処置が自分に出来ない事に苛立ちを見せる。
「まずい……。血が止まらない……」
必死で止血を試みるも、すでに手遅れとしか思えないアルスの状態にロアルドも瞳に涙を溜めだす。そんな兄の様子を目にしたフィリアナが、発狂するようにアルスに声をかけ始める。
「ダメ……ダメだよ、アルス!! お願いだから目を閉じないで! 私を……私をちゃんと見て!」
発狂気味で泣き叫ぶフィリアナに瀕死のアルスが眼球のみ動かして視線だけ向ける。
だが、それ以上の反応はない……。
それどころか徐々に瞳が虚ろになり、白目部分が目立ってきていた。
そんな今にも意識を失いそうなアルスにフィリアナが必死で呼びかける。
「アルス、お願い! お願いだから……目を……目を閉じないでぇー……」
今、アルスが瞳を閉じてしまったら、そのまま逝ってしまう……。
その事に気付いているフィリアナは、必死でアルスの意識をとどめようとした。
そしてアルスの方もフィリアナの願いを聞き入れようと、必死で瞳を見開いてくれている。
しかし、その瞳は徐々に白目部分の領域は増えいく……。
その状態からアルスが意識を失いかけている事だと理解しているフィリアナは、いつも窮地から自分を救ってくれる兄に縋りつく。
「ダメぇ……。目を閉じないでぇ……。に、兄様……アルスが………アルスがぁ……」
「くそっ! アルス、しっかりしろ! 頼む……。頼むから、まだ行くな!!」
いつの間にか涙をこぼしながら止血をしている兄の様子から、もうアルスは手の施しようが無いほどの状態なのだと、嫌でもフィリアナは痛感する。
その瞬間、フィリアナは勢いよくアルスに縋りついた。
「や……やだぁぁぁー!! アルス、行かないでぇ!! 私を……私を置いて行かないでぇぇぇ!!」
そんなフィリアナの悲痛な訴えも虚しく、目の前のアルスは意識が朦朧とし始めたのか、眼球が天を仰ぎ始める。それが事切れる寸前である事を察したフィリアナが、アルスの顔を両手で覆いながら半狂乱になって叫び出す。
「やだやだやだぁぁぁー!! ダメ!! アルス、目を閉じたらダメェェェー!!」
「アルス!! 行くな……。行くなぁぁぁー!!」
フィリアナだけでなく、ロアルドも涙を零しながら必死で呼びかけるが、残酷な事にアルスの呼吸の間隔が、まるで命のカウントをするかのように徐々に長くなる。その状況に堪らなくなったフィリアナが、両手でアルスの顔を覆ったまま、アルスの額に自身の額をくっ付け、祈るように懇願する。
「お願い……お願いだから……行かないでぇ……」
ギュッと瞳を閉じながら呟くフィアナが、ボロボロと涙を零しながらゆっくりと目を開ける。すると、虚ろなアルスの瞳が、一瞬だけ穏やかそうな光を宿してフィリアナを見つめ返して来た。
しかしその瞳は、そのままゆっくりとフィリアナの目の前で閉じられる。
それと同時に苦しそうだったアルスの呼吸音が、ふっと消えた。
その瞬間、フィリアナが苦痛に耐えるように自身の唇を強く噛む。
そして、そのまま動かなくなったアルスに縋りつくように覆い被さる。
「嫌ぁ……嫌ぁぁぁぁぁぁー!! アルス……起きてぇ……。アルス……アルスゥゥゥー!!」
防音措置がされている室内に深い絶望感と、フィリアナの悲痛な叫びが響き渡る。そして何度も何度もアルスの体を揺すって起こそうとしている妹をロアルドが涙を拭いながら、そっと肩を抱き寄せ、アルスから引き離した。
「フィー……。アルスは、もう……」
兄のその言葉にフィリアナの顔が、更にくしゃりと歪む。
「嘘……。こんなの……嘘よぉぉ!! だって、これは夢でしょう!? 現実じゃないから……私が目を覚ませば、きっと―――!」
「フィー!!」
ショックからか虚ろな瞳で妄想めいた事を言い出した妹の両肩をロアルドは掴み、自分の方に向かせた。対するフィリアナは、駄々をこねる幼子のようにイヤイヤと首を激しく振る。
「嫌ぁぁぁ!! 兄様、離して!! アルスは……アルスは、まだ生きてるんだからぁぁぁ!!」
「フィー!!」
「嫌ぁぁぁぁぁぁー!!」
半狂乱になって泣き叫びながら暴れる妹を瞳に涙を溜めたまま、ロアルドが必死に押さえつける。
「フィー!! 頼むから、落ち着いてくれ!! これは現実に起こってしまった事なんだよ!! それに……どんなにフィーが暴れたって、アルスは……もう戻ってはこないんだ!!」
兄のその言葉で放心状態になっていたフィリアナが、ビクリと体を強張らせてと動きを止める。そしてそのまま俯き、自身の寝間着用の裾を指が白くなる強さでギュッと握りしめ、涙をハラハラとこぼし始める。
「何……で……? 何でぇ……? だ、だって、ついさっきまで、アルスは元気だったのに……。わ、私と一緒に眠っていたのにぃー……」
「フィー……」
顔をくしゃくしゃにしながらボタボタと涙をこぼし、アルスの亡骸に縋りつく妹の肩をそっと掴んで、そこから優しく引き離したロアルドは、痛みを堪えるような表情を浮かべ、そのまま妹の肩を優しく撫でる。
「うっ……ふぅ……。に、兄様ぁ……。嫌ぁ……、アル、アルスゥー……」
そのまま兄に縋り付くように静かに泣き始めたフィリアナを労るようにロアルドは何度も頭を撫でた。
だが、どれだけ悲しんでもアルスは、もう動かない……。
妹の背中越しに見える微動だにしないアルスの姿にロアルドも再び涙をこぼし始める。
「くそっ……。なんでもっと早く……僕は駆けつけられなかったんだ……」
「兄様ぁ……」
アルスを失って辛いのは、ロアルドも同じだ。
ましては、あと少し早く自分が駆けつけていれば、アルスは死なずにすんだかもしれないと思うと、自分に対して物凄い怒りが込み上げてくる。
だが、今更それを思い返したところでアルスは、もう二度と帰っては来ない。
ならば、アルスの為に出来る事をこれからしなければと、フィリアナよりも先に気持ちを落ち着かせたロアルドは妹から体を離し、すでに事切れてしまったアルスの亡骸を優しく撫でる。
「ごめんな、アルス……。間に合わなくて……」
「に、兄様のせいじゃ……ない……。私が……油断しなければ……。私がもっと強力な防御魔法が使えたら……。ごめんね、アルス。ごめんねぇー……」
フィリアナも何度も謝罪を口にしながら、兄と同じくアルスの事を撫でようと手を伸ばす。
しかしその瞬間、突如としてアルスの体が光り始めた。
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