我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助

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【我が家の元愛犬】

52.我が家の元愛犬はデリカシーがない①

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「とりあえず今日のところは、私とクリスは共にラテール邸に宿泊させてもらう。その間、クリスはロアが捕縛した刺客の尋問を頼む」
「分かりました。ただ……相手もそう簡単には口を割らないと思うので、万が一自害しても大目に見てくださいね?」
「それは以前、アルスが犬にされた時に痛感しているから覚悟はしている。だが、出来るだけ情報は引き出して欲しい。私も邸内の結界に不備がないか確認次第、そちらに合流する。フィリックス、すまないが、侵入者を監禁している部屋にクリスを案内してくれ。それと私の方では邸内を隅々までチェックをさせてもらうが……構わないか?」
「ええ。娘の安全の為にも是非、お願いいたします。オーランド! まずはクリストファー様を監禁部屋へ案内してくれ。その後、ゲオルグと共に殿下に邸内を案内してほしい」
「かりこまりました」

 セルクレイスがサクサクと指示を出すと、まずクリストファーが執事のオーランドと共に退室して行く。その従兄弟の様子を痛む頭頂部を摩って見送っていたアルスが、慌てた様子でセルクレイスに声をかける。

「兄上! 俺も一緒に邸内の警備チェックを……」
「ダメだ。アルスはしっかりと体を休ませるんだ」
「でも!」
「君は一度、命を失ったのだぞ? その際にかなり体に負荷が掛かったはずだ。今日は、もういいから休みなさい」
「だけど……」
「アルス……君は復活のピアスを付けていたから、先程の襲撃で自身が致命傷を受けても何とかなると考えていただろうけれど……。それを知らなかったフィーとロアが、その時どんなに胸を引き裂かれるような思いをしたか考えてみたか?」

 セルクレイスのその言葉にアルスがビクリと体を強張らせた後、フィリアナ達に目を向ける。すると、二人が悲痛そうな表情を浮かべながらフイッと視線を逸らした。

「あっ……」
「君は昔から後先考えずに突っ走ってしまう事が多い。そしてその際、自分の大切な人間を優先しがちだ。今回の時のように昔の君は、何度も私を庇って怪我などで重症に陥っていただろう……。その時、兄である私が、どんな気持ちだったか分かるかい?」
「で、でも! 兄上は、この国の王太子です! だから何が何でも皆で兄上を守らないと……」
「逆に私にとってアルスが、そういう存在だとしたら?」
「えっ……?」
「何が何でも守りたい弟が、自身のせいで何度も重症に陥るような状況を繰り返していたら、私はどんな気持ちになると思う?」
「それ……は……」

 兄であるセルクレイスに諭されたアルスが、悔しそうに唇を噛み締める。
 今のアルスの発言は、自身が魔法封じの術を受けた際にフィリアナが口にした事と同じなのだ。

 『アルスと私とでは命の重みが違う』

 以前、そう口走ったフィリアナに怒りを覚え、それを訂正するように不満をぶつけた。だが、そんなアルスは、ずっと兄であるセルクレイスに対して、あの時のフィリアナと全く同じ考えの行動をしていたのだ。

 もし兄やフィリアナが、自分を庇って瀕死になるような状況が起こってしまったら……アルスは絶対に自分を許せなくなる。だが、それと同じ状況を招く判断を先程の自分は、フィリアナとロアルドにしてしまった。その事に気付かされたアルスが、悔しそうな表情をしながら深く俯く。

「アルス、誰かを守るには、まず最低でも自分の安全を確保出来るような知識と力を得てからだ。それもない状態で自発的に自身を犠牲にして誰かを守るろうとする行為は、勇気でも何でもない。それは自己満足という名の無謀行為になる」
「兄上……」

 アルスが涙目になりながら、自分よりも背が高いセルクレイスを見上げる。アルス自身も先程、一度命を落としかけた自分に泣き叫びながら縋りついていたフィリアナ達の様子を目にしているので、セルクレイスが言っている事が痛い程、身に染みているのだ。

 だがそれでも……あの時のアルスにはフィリアナを庇うという選択しかなかった。たとえフィリアナが発狂しながら泣き叫ぶ状況になったとしても、どうしてもフィリアナには生きて欲しいという思いしか無かったのだ。
 そんな弟の気持ちも分かっている様子のセルクレイスが、労うようにその頭を二回ほどポンポンと叩く。

「分かったら、もう軽はずみに無茶な行動や判断はしない事。それと……フィーとロアには先程、深く悲しませてしまった事をしっかりと謝罪しなさい」
「はい……」

 兄に諭されたアルスは落ち込んだ様子で腰を下ろし、隣のフィリアナに許しを請うような視線を送る。そんなアルスにフィリアナが困惑気味な表情を返す。

「フィー、俺のせいで先程、辛い思いをさせてしまって……本当にごめんな……」

 そう言って深く反省しているアルスの頭をフィリアナも苦笑しながら、慰めるようにポンポンと二回叩く。すると、何故か甘えるようにフィリアナの肩口にアルスが顔を埋めてきた。それは犬だった頃、誰かに叱られた際によくしていたアルスの癖だ。その事に気がついたフィリアナが、今度はアルスの頭を抱えながら髪を優しく撫で付ける。
 しかし、そんな状況のアルスに対して、ある人物から苦情が飛んでくる。

「おーい、アルス~。僕には謝罪はないのかー?」
「ロアもすまなかった……」
「なんか僕には、謝罪の仕方が軽くないか?」
「ロアは俺が息を吹き返した際、俺の死からはとっくに立ち直っていただろう? でもフィーは……」
「分かっているであれば、もうこれ以上フィーの心を抉るような行動は二度とするなよ?」
「当然だ! もう絶対にしない!」

 そう宣言したアルスは、先程の甘えるような仕草から一変し、フィリアナの事をギュウギュウと抱きしめた。すると背後の怒りのオーラを感じ取ったロアルドが盛大なため息をつき、フィリアナにある事を忠告する。

「それとフィー。あまりアルスを甘やかすなよ? アルスのペースで好き勝手にさせていたら、父上が烈火の如く怒りを爆発させて、第二王子暗殺容疑の候補者の一人として加わる事になるからな?」
「ロア、安心しろ。もうすでに加わる決意を固めている……」
「父上……その切り返し、全く冗談に聞こえないのでやめてもらってもいいですか?」
「殿下がフィーに過剰なスキンシップを繰り返す限り、それは無理だ」

 そんな子供じみた言い分を言う父にロアルドが呆れ、白い目を向ける。
 すると、先程クリストファーを案内していたオーランドが、警備責任者のゲオルグを連れて戻ってきた。

「セルクレイス殿下。ゲオルグも連れてまいりましたので、今から邸内をご案内出来ますが、いかがなさいますか?」
「すぐに案内して欲しい。まずはアルスの部屋付近の結界が破られた場所に案内してくれ」
「かしこまりました」

 そう言って三人で部屋を出て行こうとするセルクレイスにフィリックスが声を掛ける。

「殿下、私も同行いたします。ロア、アルフレイス殿下の事を頼めるか?」
「はい」

 すると、部屋の中にはフィリアナとアルス、そしてロアルドだけとなる。するとロアルドが、その場を仕切るようにパンパンと手を叩いた。

「よし。それじゃあ僕らは、さっさと体を休ませるぞ? 恐らく明日から色々と忙しくなるから……」

 そう言って、フィリアナとアルスの背中を押して退室を促した。
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