前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる

文字の大きさ
42 / 65

愉快な宰相エルフリート1

しおりを挟む

 案内されたのは、クーの部屋はと続き間となった広い部屋。
 特に使用用途も決まっていない部屋らしく、最低限の調度があるのみだった。

 エリナの部屋にも言えることだが、ごてごてと飾り立てられた部屋を想像していたエリナはいささか拍子抜けする内装だ。
 もちろん、リーハやカヤの気配のしないこの部屋に安心する気持ちのほうが強いが。

 ――趣味が合わないよりずっといいわ。

 エリナはそう思って、部屋をじっくりと見まわした。
 白い壁、ベージュのカーテン。やわらかそうなソファには美しい織物のクッションが置いてある。
 明らかに最低限をあつらえましたというような設えに、もう慣れたエリナはくすりと笑った。

「ここは自由に変えてもらっても構いません。もちろん、中庭も。中庭には僕の好きな花が植えてありますが、すべての女性の好むものではないことは承知していますので」
「あら、私は好きよ、タンポポ。この部屋は殺風景だから、変えていいなら少しだけ整えさせてほしいくらいね。余っている家具なんかは、どこかにおいてあるかしら」

 かつての貴族らしい――貧しくはあったが――感覚を思い出して、エリナはわくわくと胸を弾ませた。
 部屋を整えるのは好きだ。あるものや余っている調度をもらってきて自分好みの内装にすることはエリナの前世からの趣味のひとつでもある。

 しかし、エリナの言葉にクーは気まずげに目をそらした。

「クー?」
「ありません」
「ありませんって……ひとつも?」
「はい」

 クーは彼にしては珍しく、口ごもりながら続けた。

「前竜王と、その番……その二人が使っていた部屋は、僕にはあまりよいものではなかったので、全部処分してしまったんです」
「処分って」

 リーハとカヤの使っていた調度品は、けして少なくはない。
 そのすべてを処分してしまうのは、いくらなんでも思い切りがよすぎる。
 そう思ってクーの言葉を繰り返したエリナは、ああ、と納得した。

 ――それで、部屋にはカヤの気配もなにもなかったのね。

 安堵した理由のひとつなので、エリナはもったいないでしょう、とクーを叱る気にはなれなかった。

「番のために使われる予算がありますし、僕個人の資産もあります。好きなものを好きなように作ってもらえれば……その」
「ええ、必要な分を買わせてもわうわ」

 無駄には使わない、と言外に口にしたエリナに、クーは目を瞬く。
 それが、エリナに贅沢をさせたいみたいでエリナは笑ってしまった。

「エリー……」
「――いやあ、陛下の番、どんなお方かなと思ったけど、無駄遣いしなさそうだし、いい子そうだし、なによりこの綺麗な魂が素敵だ!陛下、君の番はかわいらしいねェ!」

 その時。
 部屋のドアをバン!と開けて、文字通りふわふわと飛んでやってきた影があった。
 エリナは目をぱちぱちと瞬き、クーがげ、という顔をする。

 うっすらその姿を透かした透明なもや――いいや、竜種だ、竜種が、見る見るうちにひとの形をとってその場に降り立つ。

 銀糸のような髪を肩口で切りそろえた、銀灰色の目にモノクルをかけた、飄々とした青年――のように見える竜種は、エリナを見てにっこりとほほ笑んだ。
しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

同期とルームシェアしているつもりなのは、私だけだったようです。

橘ハルシ
恋愛
お世話されヒロインです。 魔術師で研究所勤めのラシェルは、没頭すると何もかも忘れてしまいがち。なので魔術学校で同級生だった同期のルキウスが一緒に暮らしつつ、衣食住の面倒を見てくれている。    実はルキウスは卒業時にプロポーズをしたのだが、遠回し過ぎて彼女に気づかれず失敗に終わった。現在、彼女は彼とルームシェアをしていると思っている。  彼女に他の男が寄って来ないようこっそり魔術をかけたり、自分の髪や目の色の髪飾りをつけたりして周りに主張しつつも、再度想いを告げることには消極的なルキウスだったが。 全24話+番外編です。 大事にお世話されるヒロインが書きたくなったので…。 設定に矛盾があるかもしれませんが、そこはあまり突っ込まないでいただけるとありがたいです。 他サイトにも投稿しております。

呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです

シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。 厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。 不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。 けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────…… 「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」 えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!! 「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」 「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」 王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。 ※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。 静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。 ……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか? 枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと 忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称) これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、 ――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

処理中です...