聖女として白龍の生贄になると思ったらなぜか騎士様と契約結婚することになって愛されています

鳥花風星

文字の大きさ
68 / 82

怒り(ケインズ視点)

しおりを挟む
 それは討伐祭が終わって二日が経った午後だった。
 
 ユーズが聖女誘拐事件についての有力な情報を得たから話がしたいと言ってきたため、騎士団本部の執務室で報告作業をしながらユーズを待っていた。

 コンコン

「ユーズだ、入るぞ」
「おう、遅かったな」

 扉が開かれると、ユーズだけではなく白龍ギールの姿もある。

「これはこれは白龍ギール様ではないですか。おい、ユーズ、これは一体どういうことだ?」
 嫌味ったらしくそう言うと、ユーズはギールを見て頷く。

「聖女誘拐事件について君にどうしても伝えなければならないことがある」
 
 そう言ってこちらを見るギールは相変わらず無表情だが、ユーズは部屋に入って来てからずっと辛そうな顔をしている。なんだよ、一体なんだっていうんだよ。じわじわと嫌な汗が出てくる。なんだろう、嫌な予感がするのは気のせいか。

「で、俺に伝えなきゃいけないことってのはどういうことだ」
 ソファに促し腰をかけてそう聞くと、ギールは深く濃い紫の瞳で俺をじっと見つめた。あまりにも澄んだ瞳で吸い込まれそうになる。怖いな。

「ニオ、という聖女を知っているだろう」
 その名前を聞いた瞬間に身体中に電撃が走る。ニオ。忘れもしないその名前。最近ではよく夢に出てくる。苦々しい思い出の夢だ。

「……俺の幼馴染だ。ニオがどうしたんだ。ニオは白龍が騎士を追放してから白龍と一緒に任務に当たっていたが、いつの間にか二人で姿を消したんじゃなかったか」
 俺も聞いた話でしかないから詳しいことはわからないが、当時は聖女と白龍の駆け落ちだのなんだのと騒がれていたものだ。だが、聖女誘拐事件の事で話をしに来たというなら、まさか。

「……まさかニオも聖女誘拐事件に巻き込まれているのか?あいつも誘拐されたのか!?」
 心臓がバクバクと鳴り響いてうるさい。突然姿を消したんだ、あいつももしかしたら誘拐されて聖女の力を奪われて……。 

「いや、違う。むしろ彼女は今回の聖女誘拐事件に関わっている」
「……は?」

 ギールの言葉に耳を疑う。ニオが誘拐事件に関わっている?意味がわからない。

「何言ってんだよ、あいつが関わっているってどういうことだよ。……おい、どういうことだって聞いてんだよ!!」
 思わず立ち上がり机を蹴る。

「ケインズ!落ち着け!お前の気持ちはわかるが、ギールの話を最後まで聞いてほしい。彼女は実行者ではあるが被害者でもある」

 ユーズの言葉に一瞬で頭が冷える。どういうことだ、全く話が読めない。一体あいつに何があった?あいつは今何をしているんだ?

「……悪い、頭に血が上った。詳しく話してくれ」
 そう言うと、ギールは俺を見つめて静かに話し始めた。



「つまり、白龍の寿命が縮まることを嫌がったニオに、ちょうどよくサリ国の人間が近づいてそそのかし誘拐事件を起こしている、と」
 聞いた話を再度確認すると、ギールもユーズも頷いた。なんだよそれ。マジであいつは何をやってんだよ。

「気にくわねぇな、その白龍はその行為が結果どうなるか知ってるんだろ。なのにニオを止めもしねぇのかよ。結局は自分も寿命が縮むのが嫌なだけじゃねえか」
「白龍リオンはニオのことを思って何も言えないと伝えてきた。我々白龍はそもそも生にそこまで執着がない。ニオのことを思って、それだけだ」

 ギールの言葉を聞いて余計に虫唾が走る。なーにがニオのことを思ってだ。

「ふざけんなよ、ニオを本気で大切に思ってるならニオの行動をなんとしてでも止めるべきだろ!あいつがそんなことしてる時点でニオのためでもなんでもねーんだよ!」
 イライラを抑えずに吐き捨てると、ギールは目を細めなるほど、と呟いた。何がなるほどなんだよクソが。

「我々白龍は人の感情というものがよくわからない。よくわからないからこそ、リオンはニオに対する初めての気持ちにどうしていいのかわからないのだ。リオンはニオを思って何も言えないと伝えてきたが、それが果たして正しいものかなんなのか、どうすればよかったのかわからない。自分の気持ちに戸惑い続けている」

 大切に思うからこそ、どうしたらよかったのかわからない。リオンのニオに対する大切に思う気持ちは、他の白龍たちが聖女へ思う大切さとは違う、もっと大きくて複雑で愛おしいものなのだ。

 それはもはや愛なのだろう。その白龍リオンはニオを愛してしまっている。でも愛するというものがどういうものか今まで知らなかった上に人間と白龍という種別を超えた状態に戸惑っているのだ。

 あぁ、なんなんだよ全く。胸が苦しい。この苦しさはなんなんだ。

「近々、白龍使いの騎士団全体で会議が開かれる。そこで今回のことについて、聖女の名前は伏せるが話をしようと思っている。もちろん君の名前も出さないよ。君はニオの幼馴染だ。辛いのであれば今回の事件から君を除外することも可能だ。もし君が望むのであればそれでも構わない」

 ギールは俺を気遣ってくれたんだろうが、むしろそんなの必要ない。

「俺はあいつからもその白龍からもきちんと話を聞かなきゃ気がすまない。手を引く気は毛頭ないね」






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

処理中です...