婚約破棄された令嬢、商才と魅力で運命を変える

腐ったバナナ

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4話

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 朝の光が、まだ冷たい街の小道を照らしていた。
 エリスは胸の奥でざわつく不安を押さえつつ、小さな籠を手に市場へ向かう。昨日の夜にまとめた計画の紙を何度も確認する。紙には、手作り品や地元特産品の販売方法、価格、目標利益などがびっしり書かれていた。

「大丈夫、まずは小さくても……前に進むことが大事」

 小さな声で自分を励ます。まだ心の中には恐怖と羞恥が渦巻いていたが、昨日より少しだけ勇気が湧いていた。

 市場に着くと、色とりどりの屋台や人々のざわめきが広がっている。香辛料の匂いや焼き菓子の香り、子供たちの笑い声……全てがエリスには新鮮で、少し緊張する。しかし、彼女は深呼吸をして、まずは一番小さな手作り品の屋台に声をかけることにした。

「……あの、少しだけ、こちらの商品を置かせてもらえませんか?」

 エリスの声は小さく震えていた。屋台の主人は最初、怪訝そうな顔をしたが、エリスの真剣な眼差しに心を打たれ、頷く。

「わかった、ちょっとなら置いてやろう。君、頑張れよ」

 その一言に、エリスは胸が熱くなるのを感じた。

 午前中、少しずつお客が訪れる。最初は数個しか売れなかったが、エリスは手際よく接客をし、商品説明を丁寧に行った。

「こちらは地元の蜂蜜を使った焼き菓子です。添加物は一切使っていません」

「これ、美味しそうね。では一つください」

 小さな声で笑顔を返すと、客は満足げに頷く。売上が少しずつ積み重なっていくたびに、胸の奥の重みが少しずつ軽くなるのを感じた。

 昼過ぎ、協力者のカイが現れる。

「どうだ、順調か?」

 エリスは少し笑みを見せる。

「ええ、思ったより上手くいってるわ。少しずつでも、前に進めるのが嬉しい」

 カイは頷きながら、商品の補充や価格の計算を手伝う。二人で動くうちに、緊張していたエリスの心も次第に落ち着いてきた。

 午後になると、売上はさらに増え、周囲の人々も興味を示し始める。

「これ、昨日始めたばかりだって?すごいじゃないか」

「小さな努力が形になったんだね」

 その声に、エリスは微かに笑む。まだまだ不安は残る。しかし、昨日の絶望からは確実に一歩を踏み出せたことを実感していた。

 夕暮れ、籠は空になり、手帳には今日の成果と反省点がびっしり書き込まれる。

「明日も、少しずつ……」

 つぶやきながら、エリスは市場を後にする。心には、まだ小さな光しかない。それでも、昨日までの自分にはなかった「自分で道を切り開く感覚」が確かに宿っていた。

 夜、部屋に戻るとアンナがやってきて、そっと微笑む。

「お嬢様、今日は随分と頑張られましたね」

「ええ……まだ始めたばかりだけど、少し自信が持てそうな気がするわ」 

 エリスの声には、ほんの少し希望が混ざっていた。

 窓の外に浮かぶ月を見上げながら、エリスは心の中でそっと誓う。 

「私は……昨日の私じゃない。少しずつでも、私の力で未来を作る」

 そして、夜の静けさの中で、エリスの小さな挑戦は確かに動き始めたのだった。
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