婚約破棄された令嬢、商才と魅力で運命を変える

15話

　午前の光が差し込む書斎。エリスは机に向かい、新しい注文書を確認していた。大口の注文が次々と舞い込み、事業は順調そのものだった。

「これで全ての材料調達も問題なく進められるはずね」

　小さく呟きながら、エリスはペンを置く。

　そこへ、カイが少し息を切らして入ってきた。

「エリス様、大変です。ヴァレンティーノ公爵とヴィオラ様が、港での荷物搬入を妨害しようとしているとの情報が……」

　エリスは眉をひそめたが、すぐに落ち着いた声で答える。

「どの程度の妨害かしら？」

「一部の作業員を引き抜き、配送を遅らせようとしているようです。ただし、数は少なく、すぐに対応可能です」

　エリスは深呼吸し、机の上の書類と地図を見渡した。

「わかりました。カイ、すぐに現場を指揮して。私は書類の調整と代替ルートの準備をするわ」

「了解です、エリス様！」



　港に着くと、ヴァレンティーノ公爵とヴィオラの取り巻きが作業員に声をかけ、引き抜きを試みていた。

「こっちの荷物、どうせ今日届かないんでしょ？」

　ヴィオラの冷ややかな声が港に響く。

　しかし、エリスの計画は周到だった。作業員には前もって事情を説明し、報酬の上乗せと信頼関係を築いていたため、誰も引き抜きに応じない。

「私たちはエリス様と一緒に仕事をします」

　作業員の一人が毅然と答えると、周囲から小さなざわめきが起きる。ヴァレンティーノ公爵は驚きの表情を隠せず、ヴィオラは苛立ちを募らせた。

「まさか……誰も言うことを聞かない……？」

　ヴィオラは小声で怒りをこぼす。

　エリスはその様子を遠くから観察し、静かに微笑んだ。

「小さな策略で人を動かそうなんて、甘いわね」



　午後には荷物の搬入も無事に完了し、顧客への配送も予定通り進む。

「よくやったわ、カイ」

　エリスは肩越しに作業を終えた仲間たちを見渡す。

「全て計画通りです、エリス様」

　カイの言葉に、港全体が安堵の空気に包まれた。

　一方、ヴァレンティーノ公爵とヴィオラは、港の端で顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。

「くっ……どうしてこんなことに……」

　公爵は怒りと焦燥で言葉を失い、ヴィオラは怒鳴ることもできず、ただ歯噛みをしていた。

　エリスはその様子を思い浮かべ、心の中で静かに呟く。

「努力した者が勝つの。あなたたちの策略では、私を止められない」



　夜、書斎で一息ついたエリスは、今日の成果を振り返る。
　 • 港での作業が順調に進んだこと
　 • 仲間との信頼が確かなものになったこと
　 • 元婚約者たちの小さな策略が失敗に終わったこと

　すべてが、彼女の成長と実力を証明していた。

「やっと、少しずつ、私の世界が動き始めた」

　微笑みながらも、エリスは次の挑戦を思い描く。