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2話
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朝の光がまだ淡く差し込む王都を、カリナは静かに後にした。宮廷の高い石塀が遠ざかり、代わりに街道沿いの野原と木々が目に入る。
冷たい冬の風が頬を撫で、胸の奥の緊張を少しずつほぐしていった。重い荷物を背負いながらも、歩くたびに新しい世界への期待が胸を満たす。
「……寒いわね」
隣で馬車を押す御者が呟いた。
「ええ、でも、この冷たさも清々しい気がします」
カリナは微笑む。声に力はなかったが、微かに温もりを伴っていた。
馬車の中では、宮廷での日々の記憶が頭をよぎる。役立たずと呼ばれた瞬間の王子の冷たい瞳、侍女たちの視線、そして自分が何もできず、期待に応えられなかった悔しさ。
胸の奥で小さな痛みがずっと続いていた。だが同時に、自由という言葉が、初めて心の奥底から温かく湧き上がるのを感じた。
「……カリナ様、あの、旅路は一人で大丈夫ですか?」
御者が心配そうに尋ねた。
「ええ、大丈夫です。もう、誰かに頼るのではなく、自分で歩く時ですから」
彼女の声には、決意が宿っていた。
道中、馬車は凍った小川を越え、雪に覆われた森を抜けていく。木々の間から差し込む光が白い雪を照らし、まるで別世界に迷い込んだようだった。
カリナは荷物を確かめながら、これからの生活のことを考える。薬草の知識、治癒の技術、そして村での人々との生活……。
「こんなところに住むのか……」
小さな独り言が漏れる。
だが、不安よりも胸の奥のワクワク感が勝っていた。王宮では感じられなかった、自分の力を自由に使える場所が、ここにはあるのだ。
馬車が丘を越えた先に、遠く小さな村の屋根が見えた。煙突から立ち上る白い煙が、冬の空気にゆらゆらと揺れる。
村は小さいが、どこか温かみのある佇まいだった。カリナの胸は期待で高鳴る。ここで自分の第二の人生を、静かに始められる――そう思った。
「もうすぐ村ですよ、カリナ様」
御者が声をかける。
「はい……ありがとうございます」
カリナは深く頷き、荷物をしっかり握り締めた。
馬車から降りると、雪解け水の匂いと木々の香りが鼻をくすぐる。歩くたびに足元の雪がきしむ音が、どこか心地よく響いた。村人たちの好奇の視線を感じつつも、カリナは一歩一歩、堂々と歩く。
もう、過去の自分の役割は関係ない。自分の力で、ここから始めるのだ。
「……こんにちは」
村の小さな女の子が駆け寄ってくる。
「こんにちは……寒いね。でも、大丈夫?」
カリナは屈んで微笑む。女の子は少し恥ずかしそうに頷き、家の中へと戻っていった。
その瞬間、カリナは確信した。王宮で役立たずと呼ばれた自分が、ここでは必要とされる存在になるのだと。そして、この村で生きていくことで、自分の価値を静かに示していけるのだと。
馬車が村の中心に到着すると、村長と思しき老女が出迎えた。
「あなたがカリナ様……ですか?よくぞお越しくださいました」
老女の目には、純粋な期待と温かみが宿っていた。
カリナは深く頭を下げる。
「はい……ここで、皆様のためにできることを、精一杯していきたいと思います」
そして彼女は、雪に覆われた村での新しい生活の一歩を踏み出した。過去の悲しみや失望はまだ胸に残るが、それでも歩みを止めることはない。
今日から始まる日々は、王宮では味わえなかった自由と可能性に満ちているのだ。
冷たい冬の風が頬を撫で、胸の奥の緊張を少しずつほぐしていった。重い荷物を背負いながらも、歩くたびに新しい世界への期待が胸を満たす。
「……寒いわね」
隣で馬車を押す御者が呟いた。
「ええ、でも、この冷たさも清々しい気がします」
カリナは微笑む。声に力はなかったが、微かに温もりを伴っていた。
馬車の中では、宮廷での日々の記憶が頭をよぎる。役立たずと呼ばれた瞬間の王子の冷たい瞳、侍女たちの視線、そして自分が何もできず、期待に応えられなかった悔しさ。
胸の奥で小さな痛みがずっと続いていた。だが同時に、自由という言葉が、初めて心の奥底から温かく湧き上がるのを感じた。
「……カリナ様、あの、旅路は一人で大丈夫ですか?」
御者が心配そうに尋ねた。
「ええ、大丈夫です。もう、誰かに頼るのではなく、自分で歩く時ですから」
彼女の声には、決意が宿っていた。
道中、馬車は凍った小川を越え、雪に覆われた森を抜けていく。木々の間から差し込む光が白い雪を照らし、まるで別世界に迷い込んだようだった。
カリナは荷物を確かめながら、これからの生活のことを考える。薬草の知識、治癒の技術、そして村での人々との生活……。
「こんなところに住むのか……」
小さな独り言が漏れる。
だが、不安よりも胸の奥のワクワク感が勝っていた。王宮では感じられなかった、自分の力を自由に使える場所が、ここにはあるのだ。
馬車が丘を越えた先に、遠く小さな村の屋根が見えた。煙突から立ち上る白い煙が、冬の空気にゆらゆらと揺れる。
村は小さいが、どこか温かみのある佇まいだった。カリナの胸は期待で高鳴る。ここで自分の第二の人生を、静かに始められる――そう思った。
「もうすぐ村ですよ、カリナ様」
御者が声をかける。
「はい……ありがとうございます」
カリナは深く頷き、荷物をしっかり握り締めた。
馬車から降りると、雪解け水の匂いと木々の香りが鼻をくすぐる。歩くたびに足元の雪がきしむ音が、どこか心地よく響いた。村人たちの好奇の視線を感じつつも、カリナは一歩一歩、堂々と歩く。
もう、過去の自分の役割は関係ない。自分の力で、ここから始めるのだ。
「……こんにちは」
村の小さな女の子が駆け寄ってくる。
「こんにちは……寒いね。でも、大丈夫?」
カリナは屈んで微笑む。女の子は少し恥ずかしそうに頷き、家の中へと戻っていった。
その瞬間、カリナは確信した。王宮で役立たずと呼ばれた自分が、ここでは必要とされる存在になるのだと。そして、この村で生きていくことで、自分の価値を静かに示していけるのだと。
馬車が村の中心に到着すると、村長と思しき老女が出迎えた。
「あなたがカリナ様……ですか?よくぞお越しくださいました」
老女の目には、純粋な期待と温かみが宿っていた。
カリナは深く頭を下げる。
「はい……ここで、皆様のためにできることを、精一杯していきたいと思います」
そして彼女は、雪に覆われた村での新しい生活の一歩を踏み出した。過去の悲しみや失望はまだ胸に残るが、それでも歩みを止めることはない。
今日から始まる日々は、王宮では味わえなかった自由と可能性に満ちているのだ。
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