追放された令嬢、辺境の小国で自由に生きる

腐ったバナナ

文字の大きさ
8 / 15

8話

しおりを挟む
 夏の陽光が森の木々を照らし、葉の間からこぼれる光が地面に斑点模様を作っていた。リディアはかごを抱え、城跡の庭先に整えた薬草畑を歩く。

 青々と茂ったハーブの香りが鼻をくすぐり、朝露に濡れた葉がきらりと輝く。今日は、近隣の町から相談に来る旅人がいる日だった。

「おはようございます、リディア様」

 小さな声が背後から聞こえた。振り返ると、城の門前で足を止めた青年の顔が見える。肩に小さなリュックを背負い、少し緊張した様子だ。

「おはよう。今日はどんなご相談ですか?」

 リディアはにこやかに答え、庭の薬草の傍へと導いた。

「実は……」

 青年は息を整えながら言葉を続ける。

「隣町の農家で、家畜の病気が広がって困っているんです。薬や対処法を教えてもらえればと思いまして……」

 リディアは畑のハーブに手を伸ばし、指で葉を触れながら考える。ミントやタイム、カモミールが風に揺れる。過去に独学で学んだ薬草の知識が、今こうして役に立つ瞬間が来るとは思ってもみなかった。

「なるほど……」

 リディアは静かに頷く。

「家畜の症状はどのようなものですか?」

「食欲がなく、元気もないんです。薬を使ってもあまり効かなくて……」

 青年は少し申し訳なさそうに肩を落とす。

 リディアは優しく微笑み、青年の肩に手を置いた。

「大丈夫。村でも似た症状の家畜を手当したことがあります。私の方法であれば、少しずつ回復するはずです」

 二人は城の裏手にある簡素な作業場へ向かい、リディアは薬草の組み合わせや調理法を丁寧に説明する。青年は目を輝かせながらメモを取り、時折頷いた。

「これで、きっと家畜も元気になるはずです」

 リディアは仕上げに、薬草を煎じた液を瓶に入れ、青年に手渡した。

「必ず毎日与えてください。無理に多くは与えないこと」

「ありがとうございます、リディア様! 本当に助かります」

 青年は感謝の言葉を繰り返し、何度も頭を下げた。

 窓の外では、村人たちが穏やかな日常を送っている。子どもたちが駆け回り、農夫たちが畑仕事に励む。リディアは心の中で静かに喜んだ。宮廷で「役立たず」と言われ続けた自分が、今、こうして確かに人々の役に立っている——。

 午後になると、別の旅人が訪れた。今度は町の商人で、近隣の市場で起きた食中毒の問題について相談したいという。リディアは冷静に状況を聞き取り、薬草や保存方法の工夫をアドバイスする。商人は感激し、城の庭先で深く礼をした。

「リディア様がいてくださると、村や町の人々も安心ですね」

 商人は笑顔を見せる。

「こんな遠くの地で、これほど頼りになる方に出会えるとは思いませんでした」

 リディアは微笑みながら答える。

「私も、皆さんに出会えてよかったと思っています」

 日が傾き、夕暮れの光が城跡を赤く染める。リディアは庭に立ち、空を仰いだ。遠くに見える山々が金色に輝き、川のせせらぎが柔らかに聞こえる。

 今日もまた、人々の生活に少しだけ光を灯せた。宮廷での評価や期待は、もう自分の価値を決めるものではない。自分の手で、人々の暮らしを支え、村の絆を深めることこそが、自分の居場所なのだと、静かに確信する。

 その夜、リディアは城跡の石段に腰を下ろし、満天の星空を見上げた。星々が瞬くたびに、彼女の心もまた、希望で静かに満たされていく。

 自由で、自分の意思で選べる生き方——それが何よりも大切な宝物だと感じながら、リディアは深く息を吸い込み、明日への決意を新たにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

続・無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……✩✩旅を選んだ娘とその竜の物語

タマ マコト
ファンタジー
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……の第2部 アストライア王国を離れ、「自分の人生は自分で選ぶ」と決めたエリーナは、契約竜アークヴァンとともに隣国リューンへ旅立つ。肩書きも後ろ盾もほぼゼロ、あるのは竜魔法とちょっと泣き虫な心だけ。異国の街エルダーンで出会った魔導院研究員の青年カイに助けられながら、エリーナは“ただの旅人”として世界に触れ始める。 しかし祭りの夜、竜の紋章が反応してしまい、「王宮を吹き飛ばした竜の主」が異国に現れたという噂が一気に広がる。期待と恐怖と好奇の視線に晒され、エリーナはまた泣きそうになるが、カイの言葉とアークヴァンの存在に支えられながら、小さな干ばつの村の水問題に挑むことを決意。派手な奇跡は起こせない、それでも竜魔法と人の手を合わせて、ひとつの井戸を救い、人々の笑顔を取り戻していく。 「竜の主」としてではなく、「エリーナ」として誰かの役に立ちたい。 そう願う彼女と、彼女に翼を預けた白竜、そして隣で見守る青年カイ。 世界の広さと、自分の弱さと、ほんの少しの恋心に揺れながら── “旅を選んだちょっと泣き虫で、でも諦めの悪い娘とその竜”の物語が、本当の意味で動き出していく。

平民令嬢、異世界で追放されたけど、妖精契約で元貴族を見返します

タマ マコト
ファンタジー
平民令嬢セリア・アルノートは、聖女召喚の儀式に巻き込まれ異世界へと呼ばれる。 しかし魔力ゼロと判定された彼女は、元婚約者にも見捨てられ、理由も告げられぬまま夜の森へ追放された。 行き場を失った境界の森で、セリアは妖精ルゥシェと出会い、「生きたいか」という問いに答えた瞬間、対等な妖精契約を結ぶ。 人間に捨てられた少女は、妖精に選ばれたことで、世界の均衡を揺るがす存在となっていく。

平民に転落した元令嬢、拾ってくれた騎士がまさかの王族でした

タマ マコト
ファンタジー
没落した公爵令嬢アメリアは、婚約者の裏切りによって家も名も失い、雨の夜に倒れたところを一人の騎士カイルに救われる。 身分を隠し「ミリア」と名乗る彼女は、静かな村で小さな幸せを見つけ、少しずつ心を取り戻していく。 だが、優しくも謎めいたカイルには、王族にしか持ちえない気品と秘密があり―― それが、二人の運命を大きく動かす始まりとなるのであった。

役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお
ファンタジー
聖女見習いとして教会に仕えていた少女は、 「役立たず」と嘲笑され、ある日突然、追放された。 理由は単純。 彼女が召喚できるのは――タンスやぬいぐるみなどの非生物だけだったから。 森へ放り出され、夜を前に途方に暮れる中、 彼女は必死に召喚を行う。 呼び出されたのは、一体の熊のぬいぐるみ。 だがその瞬間、彼女のスキルは覚醒する。 【付喪神】――非生物に魂を宿らせる能力。 喋らないが最強の熊、 空を飛び無限引き出し爆撃を行うタンス、 敬語で語る伝説級聖剣、 そして四本足で歩き、すべてを自動化する“マイホーム”。 彼女自身は戦わない。 努力もしない。 頑張らない。 ただ「止まる場所が欲しかった」だけなのに、 気づけば魔物の軍勢は消え、 王城と大聖堂は跡形もなく吹き飛び、 ――しかし人々は、なぜか生きていた。 英雄になることを拒み、 責任を背負うこともせず、 彼女は再び森へ帰る。 自動調理、自動防衛、完璧な保存環境。 便利すぎる家と、喋らない仲間たちに囲まれた、 頑張らないスローライフが、今日も続いていく。 これは、 「世界を救ってしまったのに、何もしない」 追放聖女の物語。 -

処理中です...