最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜

腐ったバナナ

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10話

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 外交交渉での劇的な勝利は、宰相ノアと、彼の妻である私の地位を揺るぎないものにした。王国は財政難を回避し、その功績はすべてノアと、私、エステルの知性によるものだと公にされた。

 アラン王子は、交渉を主導しながら王国の危機を見過ごしたとして、全ての権限を剥奪され、実質的な失脚状態にあった。

 ノアの私邸に戻った夜、私はノアの書斎で正式な書類に目を通していた。それは、私を王国の皇后として推戴するための準備文書だった。

「宰相殿下。これは……契約結婚の妻に与えられる地位ではありません」

「契約は、無期限に延長したでしょう」

 ノアはそう言い、私の頬を優しく撫でた。彼の視線は、もはや冷徹な政治家のものではなく、独占欲に燃える一人の男のものだった。

「エステル。私が貴方を望んだのは、最初は道具としてだ。しかし、貴方が私の予測を超える知性と、アラン王子を断罪する冷たい決意を見せたとき、私の感情は変わった」

 彼は私の手を握り、力強く言った。

「貴方は私のものだ。貴方を私の傍から奪うことは、誰にも許されない。そのためには、王国の最高位が必要だ。貴方を皇后にする」

 私はノアの純粋なまでの執着に、安堵を覚えた。彼の愛は、曖昧な感情ではなく、「権力」という名の絶対的な保証だった。

 数日後、王宮の大広間で、交渉勝利の祝賀会が開かれた。

 この会は、失脚したアラン王子と、勝利を収めたノアの立場を決定的に示す場となった。

 ノアは私を伴って会場に入った。私は、ノアの用意した豪華なドレスに身を包み、堂々と彼と並び立った。以前の私のような、愛に怯える純粋な娘ではない。権力と知性に裏打ちされた、氷の美貌を持った女性として、私はそこにいた。

 祝賀会の中盤、ノアは王と高官たちの前で、マイクを握った。

「本日、私は皆様に、公的な報告をいたします」

 ノアはそう言うと、私の手を取り、集まった人々の前で、私を抱き寄せた。

「私の妻、エステル・ド・ヴァレンス公爵令嬢は、単なる宰相の妻ではありません。彼女こそが、外交の危機から王国を救った、真の功労者である」

 ノアの言葉に、会場は静まり返った。

「そして、私は、彼女への感謝を、公的な場で示さねばならない。私は、エステルを、私の愛と権力の象徴として、王国の皇后に推戴いたします」

 ノアはそう高らかに宣言し、人々の前で私の唇に熱烈なキスを落とした。

 これは、契約結婚の妻への態度ではない。それは、愛する女性への、公衆の面前での熱烈な愛の証明だった。周囲の高官たちは、ノアの絶対的な寵愛を理解し、私に向かって祝福の言葉を述べ始めた。

 祝賀会の隅で、アラン王子は一人、その光景を見ていた。

 彼の傍には、もはや誰もいない。裏切ったユリアは投獄され、支持者たちはノアの権力に靡いた。そして、愛を信じていたはずのエステルは、自分を捨てて、ノアの最高の地位と愛を掴み取っていた。

 アランは、ノアにキスされる私の姿を見て、激しい嫉妬に苛まれた。

(あの女は、私のものだったはずだ!私が愛し、私が所有していたはずなのに!)

 アランは、その場に立っているのがやっとだった。

 その時、私はノアの腕の中から離れ、アランの元へゆっくりと歩み寄った。

「殿下。お祝いの言葉は、ございませんか?」

 私の瞳は、以前のような冷たい憎悪ではなく、成功者の静かな嘲笑を湛えていた。

 アランは、震える声で私に訴えた。

「エステル!君の愛が、ノアの権力に負けたのか!私を愛してさえいれば、こんなことには……」

 私は首を振った。

「いいえ、殿下。わたくしの愛は、貴方のような未熟で独りよがりな男には値しないと知っただけです。そして、わたくしは今、裏切りのない、絶対的な愛を手に入れました」

 私の言葉が、アランの最後のプライドを粉砕した。

 彼は、自分が捨てた女性が、自分を破滅させ、より強く、より賢い男に熱烈に愛されているという事実を突きつけられたのだ。

 アランは、その場で膝から崩れ落ちた。

「ああ……私が、全てを間違えていた」

 彼はそう呟き、顔を覆った。アランは、エステルを裏切ったこと、そして彼女の真の価値を見抜けなかったことを、今、この輝かしい祝賀会の場で、骨の髄まで後悔した。

 私は、崩れ落ちる元婚約者の姿を、一瞥しただけでノアの元へ戻った。

 私の復讐は、これで完了した。そして、この新しい愛は、永遠に続く。
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