4 / 20
4話
しおりを挟む
ギルバートによる冷徹な報復の後、ユミリアを公然と侮辱する者はいなくなった。しかし、彼女の周囲には漆黒の騎士団長という名の絶対的な壁が築かれ、静かな追放を望むユミリアの計画はますます困難になっていた。
ある日の夕方、ユミリアは、ギルバートの護衛の下、騎士団の機密文書が保管されている書庫の前を通りかかった。
ギルバートは、書類の山に囲まれた部屋で、深刻な顔つきで地図を広げていた。
「騎士団長。何かお困りのようですね」
ユミリアは、気まぐれに声をかけた。彼の冷酷さに戸惑いつつも、前世で彼に処刑されたことに囚われすぎず、一人の人間として接しようとしていた。
ギルバートは一瞬警戒の色を見せたが、すぐに冷静な顔に戻り、地図を指差した。
「国境沿いの魔獣被害が急増している。兵力を割きたいが、内陸の輸送ルートの警備が手薄になり、治安の悪化が懸念される。どちらを優先すべきか、判断を迷っている」
それは、王太子アルベルトが解決できず、騎士団に丸投げした難題だった。
ユミリアは地図を覗き込み、前世で悪女の傍らで磨いた内政の知識を働かせた。
「これは……輸送ルートの警備を優先するべきです」
「理由を述べよ」
ギルバートの視線が鋭くなる。
「魔獣被害は、一時的に辺境の領主に任せ、騎士団は内陸の治安維持に全力を注ぐべきです。輸送ルートが不安定になると、物価高騰と飢餓を引き起こし、民衆の不満が爆発します。それは、王権の弱体化に直結する。魔獣被害は局部的な問題ですが、治安の悪化は国家全体を揺るがす」
ユミリアの分析は、王族の視点に立った、極めて合理的で冷徹な判断だった。
ギルバートの感情のない金色の瞳に、驚愕と満足の色が浮かんだ。
「その通りだ。貴殿は、領主として並外れた見識を持っている。なぜ、王太子殿下は貴殿の助言を求めない?」
「私は追放を望む悪女ですから」
ユミリアは自嘲気味に微笑んだ。
「それに、王太子殿下は、私に優しく、愛らしい令嬢こそが妃に相応しいとお考えです」
その翌日、ギルバートはユミリアの助言を騎士団会議で採用し、輸送ルートの警備を強化。結果として、王国の物流は安定し、王太子アルベルトの失政が間一髪で回避された。
この出来事により、ギルバートのユミリアに対する執着は、愛情だけでなく「彼女の能力を国家に必要とする」という支配欲へと変わった。
彼は、ユミリアに語りかける。
「貴殿の知識と判断力は、王太子殿下が選んだ者たちよりも遥かに優秀だ。貴殿は、脇役として追放されるべき存在ではない。貴殿の居場所は、王国の中心だ」
「そして、その中心で、貴殿の力を独占するのは、私だ」
ギルバートは、ユミリアを抱きしめるのではなく、国家の至宝を扱うように慎重にその才能を囲い込み始めた。ユミリアは、静かな追放を望む自分と、国家の中枢に引き上げようとする騎士団長との間で、板挟みになっていく。
その頃、王宮では――。
アルベルトは、自分が解決できなかった問題が、騎士団長の進言で解決したことを知る。そして、騎士団長が進言の元を明かさないことを不審に思う。
「まさか、ユミリアが関わっているのか?いや、彼女はただ私に夢中で、嫉妬深いだけの女だったはずだ……」
アルベルトは、自分を捨てたユミリアの隠された能力が、自分の失政を救っているという事実に気づき、激しい後悔を覚え始めた。彼の物語(王国)は、ユミリアの離脱により、崩壊の危機に瀕していた。
ある日の夕方、ユミリアは、ギルバートの護衛の下、騎士団の機密文書が保管されている書庫の前を通りかかった。
ギルバートは、書類の山に囲まれた部屋で、深刻な顔つきで地図を広げていた。
「騎士団長。何かお困りのようですね」
ユミリアは、気まぐれに声をかけた。彼の冷酷さに戸惑いつつも、前世で彼に処刑されたことに囚われすぎず、一人の人間として接しようとしていた。
ギルバートは一瞬警戒の色を見せたが、すぐに冷静な顔に戻り、地図を指差した。
「国境沿いの魔獣被害が急増している。兵力を割きたいが、内陸の輸送ルートの警備が手薄になり、治安の悪化が懸念される。どちらを優先すべきか、判断を迷っている」
それは、王太子アルベルトが解決できず、騎士団に丸投げした難題だった。
ユミリアは地図を覗き込み、前世で悪女の傍らで磨いた内政の知識を働かせた。
「これは……輸送ルートの警備を優先するべきです」
「理由を述べよ」
ギルバートの視線が鋭くなる。
「魔獣被害は、一時的に辺境の領主に任せ、騎士団は内陸の治安維持に全力を注ぐべきです。輸送ルートが不安定になると、物価高騰と飢餓を引き起こし、民衆の不満が爆発します。それは、王権の弱体化に直結する。魔獣被害は局部的な問題ですが、治安の悪化は国家全体を揺るがす」
ユミリアの分析は、王族の視点に立った、極めて合理的で冷徹な判断だった。
ギルバートの感情のない金色の瞳に、驚愕と満足の色が浮かんだ。
「その通りだ。貴殿は、領主として並外れた見識を持っている。なぜ、王太子殿下は貴殿の助言を求めない?」
「私は追放を望む悪女ですから」
ユミリアは自嘲気味に微笑んだ。
「それに、王太子殿下は、私に優しく、愛らしい令嬢こそが妃に相応しいとお考えです」
その翌日、ギルバートはユミリアの助言を騎士団会議で採用し、輸送ルートの警備を強化。結果として、王国の物流は安定し、王太子アルベルトの失政が間一髪で回避された。
この出来事により、ギルバートのユミリアに対する執着は、愛情だけでなく「彼女の能力を国家に必要とする」という支配欲へと変わった。
彼は、ユミリアに語りかける。
「貴殿の知識と判断力は、王太子殿下が選んだ者たちよりも遥かに優秀だ。貴殿は、脇役として追放されるべき存在ではない。貴殿の居場所は、王国の中心だ」
「そして、その中心で、貴殿の力を独占するのは、私だ」
ギルバートは、ユミリアを抱きしめるのではなく、国家の至宝を扱うように慎重にその才能を囲い込み始めた。ユミリアは、静かな追放を望む自分と、国家の中枢に引き上げようとする騎士団長との間で、板挟みになっていく。
その頃、王宮では――。
アルベルトは、自分が解決できなかった問題が、騎士団長の進言で解決したことを知る。そして、騎士団長が進言の元を明かさないことを不審に思う。
「まさか、ユミリアが関わっているのか?いや、彼女はただ私に夢中で、嫉妬深いだけの女だったはずだ……」
アルベルトは、自分を捨てたユミリアの隠された能力が、自分の失政を救っているという事実に気づき、激しい後悔を覚え始めた。彼の物語(王国)は、ユミリアの離脱により、崩壊の危機に瀕していた。
11
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
令嬢から成り下がったメイドの分際で、侯爵様と目が合ってしまって
あおとあい
恋愛
彼はメイドの私に手を差し出した。「私と、踊っていただけませんか?」
かつては伯爵令嬢として、誰もが羨む生活を送っていたエルナ。
しかし、いわれなき罪で家は没落し、今は嫌な貴族の下で働く「身分落ち」のメイド。
二度と表舞台に立つことなどないはずだった。
あの日の豪華絢爛な舞踏会で、彼と目が合うまでは。
アルフォンス・ベルンハルト侯爵。
冷徹な「戦場の英雄」として国中の注目を集める、今もっともホットで、もっとも手が届かない男。
退屈そうに会場を見渡していた彼の視線が、影に徹していた私を捉えて。
彼は真っ直ぐに歩み寄り、埃まみれの私に手を差し出した。
「私と、踊っていただけませんか?」
メイドの分際で、英雄のパートナー!?
前代未聞のスキャンダルから始まる逆転劇。
※毎日17時更新
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。
もう、あなたには何も感じません
たくわん
恋愛
没落貴族令嬢クラリッサは、幼馴染の侯爵子息ロベルトから婚約破棄を告げられた。理由は「家が落ちぶれた」から。社交界で嘲笑され、屈辱に打ちひしがれる彼女だったが――。
君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました
水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。
求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。
そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。
しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。
ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが……
◆なろうにも掲載しています
大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました
ミズメ
恋愛
感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。
これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。
とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?
重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。
○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる