都市伝説レポート

君山洋太朗

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第120回 家鳴り

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都市伝説レポート 第120回

「家鳴り」

取材・文: 野々宮圭介


誰もが一度は経験したことがあるだろう。深夜、誰もいないはずの部屋から聞こえてくる「パキッ」「ギィッ」という不可解な音。古くからこの現象は「家鳴り」と呼ばれ、民間では「霊の気配」として恐れられてきた。しかし、この一般的に知られる現象の背後に、ある興味深い都市伝説が存在することを、私は最近知ることとなった。

調査のきっかけは、読者から寄せられた一通のメールだった。差出人の山本氏(仮名・28歳)は、一人暮らしのアパートで悩まされていた「家鳴り」について、ある奇妙な体験を報告してきたのである。

「家に『ただいま』と挨拶したら、夜の音が止みました」

この一見シンプルな報告に、私は都市伝説の「匂い」を嗅ぎ取った。早速、山本氏への詳細なインタビューと、類似事例の調査に着手することにした。


山本氏のアパートは、築30年を超える木造の建物だった。玄関を開けると、独特の古い木の香りが鼻をつく。山本氏は大学卒業後、このアパートで一人暮らしを始めて3年になるという。

「最初の頃から夜中に音がしていました。特に真夜中の2時から3時の間が顕著でした。『パキッ』『ギィッ』と、まるで誰かが歩いているような音です」

彼は当初、建物の老朽化による自然な現象だと考えていた。しかし、音があまりにも規則的で、時には何かが落ちるような音まで聞こえるため、次第に不安を覚えるようになったという。

「ある日、友人との会話で『挨拶してみたら?』と冗談で言われたんです。半信半疑でしたが、その日から帰宅時に『ただいま』と言うようにしました」

驚くべきことに、その晩から異音は完全に止んだという。しかし、山本氏はかえって不安になった。

「なぜか寂しくなって、『ありがとう、今日も守ってくれてるんだよね』と言ってみたんです」

すると今度は、優しい木のきしみだけが時折聞こえるようになったという。山本氏は「まるで返事をしているようだった」と語る。


山本氏の体験は孤立した例ではなかった。SNSで同様の体験を募ったところ、驚くほど多くの報告が集まった。

大阪在住の佐藤さん(34歳・女性)は「引っ越し当初から怖い音がしたが、『お邪魔します』と毎日言うようにしたら、穏やかな音に変わった」と証言する。

東京の古いマンションに住む田中さん(45歳・男性)は「リフォーム後に音がひどくなったが、『家を大切にします』と約束したら収まった」と語る。

民俗学に詳しい乙羽教授に見解を求めると、興味深い説明が返ってきた。

「日本には古くから『家の神』や『家を守る精霊』の概念があります。現代の住宅でも、その記憶が形を変えて残っているのかもしれません。また、心理学的には、家に対して好意的な感情を表現することで、住環境への意識が変わり、音への過敏さが緩和される可能性もあります」

一方、建築学の専門家である高橋氏(52歳)は科学的な視点から解説する。

「木材は温度や湿度の変化で膨張・収縮します。特に夜間は気温が下がるため、昼間に温められた木材が冷えて収縮する際に音が出ます。また、住人が『ただいま』と言う習慣を持つことで、建物の状態に意識的になり、些細な変化に気づくようになるのでしょう」


取材を進めるうちに、「家鳴り」の正体が単なる迷信でも、純粋な物理現象でもないことが見えてきた。そこには人間と住居との微妙な関係性が存在するようだ。

「家に挨拶する」という行為は、自分の生活空間に対する敬意や感謝の表明である。それが精神的な安定をもたらし、結果として不気味だった音が「穏やかな存在感」へと変化するのかもしれない。

あるいは、私たちの想像を超えた「何か」が本当にそこに存在し、応答しているのだろうか。

山本氏は最後にこう語った。「今では毎日の挨拶が習慣になっています。科学的な説明があるのかもしれませんが、自分の中では『家と対話している』という感覚があります。それが心地よいんです」

夜の静けさの中で交わされる、人間と住居との目に見えない対話。それは迷信なのか、心理現象なのか、あるいは私たちの理解を超えた「何か」との共生なのか。

答えはそれぞれの家の中に、そして読者の皆さんの心の中にあるのかもしれない。

(了)


*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
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