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第148回 昭和二十年の預言者たち
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都市伝説レポート 第148回
「昭和二十年の預言者たち」
取材・文: 野々宮圭介
今回の調査テーマは「戦時下の預言」——昭和二十年の敗戦を事前に言い当てたとされる人物たちの真相である。
きっかけは一通の読者投稿だった。八十代の男性からの手紙には、こう記されていた。「私の祖父は戦争末期、近所の変わり者から『八月十五日の正午に天皇陛下の声で戦争が終わると聞かされた』と言っていました。当時そんなことを言える人がいたのでしょうか」
私は黒縁眼鏡を押し上げながら、その手紙を何度も読み返した。編集者としての勘が、この話に何かしらの真実が潜んでいることを告げていた。
調査は大本教の聖地、亀岡から始まった。秋の午後、参道を歩く私の足音が石畳に響く。出口王仁三郎——大本教の教祖として知られる人物だが、戦時下に数々の預言を残したとされている。
「王仁三郎さんの預言については、記録が残っているものもあれば、口伝でしか伝わっていないものもあります」
大本教の史料館で対応してくれた職員の言葉は慎重だった。私はメモ帳に「記録の曖昧さ」と書き込む。
「ただ、昭和十九年頃から『来年は大変な年になる』『八月が山場』といった発言があったのは確かです。信者の日記にも残っています」
私は次に法華宗の本門寺を訪ねた。田中智学の足跡を追うためである。ここでも似たような証言を得た——戦争の終結時期について、驚くほど具体的な発言があったというのだ。
最も印象的だったのは、神奈川県在住の佐藤ミツエさん(仮名・87歳)の証言だった。彼女は戦時中、疎開先で「日月神示」の信奉者だった祖母と暮らしていた。
「祖母は昭和二十年の春頃から、『もうすぐ終わる、八月に終わる』って繰り返し言ってました。それも『天子様の声で皆に知らされる』って。当時は非国民扱いされるような発言でしたから、家の中でひそひそと」
佐藤さんの手は茶碗を持ちながら小刻みに震えていた。
「八月十五日の正午、本当に玉音放送があったときは鳥肌が立ちました。おばあちゃんは『やっぱりそうだった』って涙を流して。でも、どうして分かったんでしょうね」
私は民俗学者の乙羽教授にも話を聞いた。教授は大学の研究室で、古い資料を手に語った。
「戦時下の預言現象は興味深い研究対象です。ただし、記録の多くは戦後に編纂されたもので、後付けの可能性は常に付きまといます。しかし、複数の独立した証言が一致する点は無視できません」
私は調査資料を整理しながら、いくつかの可能性を考えた。
第一に、純粋な偶然の一致。戦争という異常事態において、終戦を予想すること自体はそれほど困難ではなかったかもしれない。
第二に、情報収集能力。宗教指導者たちが独自のネットワークを持ち、軍部内部の情報を何らかの形で入手していた可能性。
第三に、記憶の変容。戦後の記憶が美化され、曖昧だった預言が次第に具体性を帯びていった可能性。
そして第四に——何らかの超常的な能力の存在である。
編集者として合理的であろうとする私だが、長年の調査経験が教えてくれることがある。世の中には理屈では説明できない現象が確実に存在するということだった。
昭和二十年の預言者たちの真相は、今も謎に包まれている。記録の多くは断片的で、証言者も高齢化している。客観的な検証は困難を極める。
しかし、私が各地で聞いた証言には、作り話では説明できない生々しさがあった。恐怖と混乱の時代に、未来を見通そうとした人々の切なる願いが、何らかの形で現実と繋がっていたのかもしれない。
真相はいまだ闇の中にある。だが、それでいいのかもしれない。都市伝説の魅力は、その曖昧さにこそ宿るのだから。
この報告を読まれる皆様には、その判断を委ねたい。信じるか信じないかは、あなた次第である。
(了)
*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
「昭和二十年の預言者たち」
取材・文: 野々宮圭介
今回の調査テーマは「戦時下の預言」——昭和二十年の敗戦を事前に言い当てたとされる人物たちの真相である。
きっかけは一通の読者投稿だった。八十代の男性からの手紙には、こう記されていた。「私の祖父は戦争末期、近所の変わり者から『八月十五日の正午に天皇陛下の声で戦争が終わると聞かされた』と言っていました。当時そんなことを言える人がいたのでしょうか」
私は黒縁眼鏡を押し上げながら、その手紙を何度も読み返した。編集者としての勘が、この話に何かしらの真実が潜んでいることを告げていた。
調査は大本教の聖地、亀岡から始まった。秋の午後、参道を歩く私の足音が石畳に響く。出口王仁三郎——大本教の教祖として知られる人物だが、戦時下に数々の預言を残したとされている。
「王仁三郎さんの預言については、記録が残っているものもあれば、口伝でしか伝わっていないものもあります」
大本教の史料館で対応してくれた職員の言葉は慎重だった。私はメモ帳に「記録の曖昧さ」と書き込む。
「ただ、昭和十九年頃から『来年は大変な年になる』『八月が山場』といった発言があったのは確かです。信者の日記にも残っています」
私は次に法華宗の本門寺を訪ねた。田中智学の足跡を追うためである。ここでも似たような証言を得た——戦争の終結時期について、驚くほど具体的な発言があったというのだ。
最も印象的だったのは、神奈川県在住の佐藤ミツエさん(仮名・87歳)の証言だった。彼女は戦時中、疎開先で「日月神示」の信奉者だった祖母と暮らしていた。
「祖母は昭和二十年の春頃から、『もうすぐ終わる、八月に終わる』って繰り返し言ってました。それも『天子様の声で皆に知らされる』って。当時は非国民扱いされるような発言でしたから、家の中でひそひそと」
佐藤さんの手は茶碗を持ちながら小刻みに震えていた。
「八月十五日の正午、本当に玉音放送があったときは鳥肌が立ちました。おばあちゃんは『やっぱりそうだった』って涙を流して。でも、どうして分かったんでしょうね」
私は民俗学者の乙羽教授にも話を聞いた。教授は大学の研究室で、古い資料を手に語った。
「戦時下の預言現象は興味深い研究対象です。ただし、記録の多くは戦後に編纂されたもので、後付けの可能性は常に付きまといます。しかし、複数の独立した証言が一致する点は無視できません」
私は調査資料を整理しながら、いくつかの可能性を考えた。
第一に、純粋な偶然の一致。戦争という異常事態において、終戦を予想すること自体はそれほど困難ではなかったかもしれない。
第二に、情報収集能力。宗教指導者たちが独自のネットワークを持ち、軍部内部の情報を何らかの形で入手していた可能性。
第三に、記憶の変容。戦後の記憶が美化され、曖昧だった預言が次第に具体性を帯びていった可能性。
そして第四に——何らかの超常的な能力の存在である。
編集者として合理的であろうとする私だが、長年の調査経験が教えてくれることがある。世の中には理屈では説明できない現象が確実に存在するということだった。
昭和二十年の預言者たちの真相は、今も謎に包まれている。記録の多くは断片的で、証言者も高齢化している。客観的な検証は困難を極める。
しかし、私が各地で聞いた証言には、作り話では説明できない生々しさがあった。恐怖と混乱の時代に、未来を見通そうとした人々の切なる願いが、何らかの形で現実と繋がっていたのかもしれない。
真相はいまだ闇の中にある。だが、それでいいのかもしれない。都市伝説の魅力は、その曖昧さにこそ宿るのだから。
この報告を読まれる皆様には、その判断を委ねたい。信じるか信じないかは、あなた次第である。
(了)
*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
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