都市伝説レポート

君山洋太朗

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第180回 失恋橋

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都市伝説レポート 第180回

「失恋橋」

取材・文: 野々宮圭介


「失恋橋って知ってる?一人で渡ると本当に落ちるんだって」

編集部に届いた匿名の便りは、妙にたどたどしい文字で書かれていた。しかし、その内容には筆者の注意を引く要素があった。恋人同士で渡れば永遠に結ばれるが、一人で渡った者は「恋に落ちる」――つまり橋から転落死するという、あまりにも皮肉な言葉遊びめいた都市伝説。

現代怪異録の特集「現代の呪われた場所」の取材で、筆者は東北地方のとある山間部へと向かった。


目的地は、人口三千人ほどの山間の町。町の中心部を流れる清流に架かる「恋橋」――地元では「失恋橋」と呼ばれるこの橋が、今回の調査対象である。

橋は昭和初期に建設された石造りのアーチ橋で、全長約50メートル。川面からの高さは15メートルほど。橋の両端には古い石灯籠が設置され、欄干には細かな装飾が施されている。一見すると、どこにでもある地方の古い橋に見える。

しかし、よく観察すると異様な点に気づく。本来なら腰の高さほどの欄干に、後から設置されたと思われる高さ1.5メートルの金網フェンスが取り付けられているのだ。しかも、その金網は内側に傾斜するように設計されており、明らかに転落防止を意図したものである。


地元の商店主、田中さん(仮名、67歳)は重い口を開いた。

「もともとは縁結びの橋って言われてたんです。恋人同士で手を繋いで渡ると、必ず結ばれるって。でも、いつの頃からか、一人で渡ると不幸になるって噂が立つようになって...」

田中さんによると、昭和50年代後半から平成にかけて、この橋では数件の転落事故が発生しているという。

「みんな一人で橋を渡ってる時に落ちてるんです。しかも、不思議なことに、そういう人たちは必ず失恋したばかりとか、恋の悩みを抱えてたんです」

町役場の担当者は、「平成12年に安全対策として防護柵を設置した」と説明する。しかし、その後も「一人で渡ると恋に落ちる」という噂は消えることがなく、むしろ口コミやインターネットを通じて広がっているという。


この都市伝説について、民俗学の乙羽教授は興味深い分析を提供してくれた。

「『恋に落ちる』という表現は、本来は恋愛感情の高まりを表す慣用句です。しかし、この場合は『橋から落ちる』という物理的な現象と重ね合わせることで、言葉遊びのような構造を持っています。これは現代的な都市伝説の特徴の一つです」

また、乙羽教授は橋という場所の持つ象徴性についても言及した。

「橋は古来より『境界』を象徴する場所です。此岸と彼岸を結ぶ橋は、生と死、現実と非現実を繋ぐ場所として語られてきました。恋愛という感情の境界線上にある人々が、この場所で何らかの『決着』を迎えるというのは、民俗学的には十分に説得力のある設定です」


町役場の記録によると、この橋での転落事故は過去30年間で7件発生している。そのうち5件は単独での転落で、2件は救助されたものの、残り3件は死亡事故となった。

興味深いのは、事故者の年齢層である。20代から30代の若年層が大半を占めており、聞き取り調査では「恋愛関係の悩み」を抱えていたケースが多いという証言が得られた。

ただし、これらの事故がすべて「都市伝説」と関連があるかどうかは判断が難しい。橋の構造上、転落の危険性は客観的に存在するし、失恋などの精神的ストレスが判断力を鈍らせる可能性も否定できない。


現在でも、この橋は密かに「試練の場」として語り継がれている。特に若い世代の間では、SNSを通じて「失恋橋チャレンジ」などと称して、一人で橋を渡る動画を投稿する者もいるという。

地元の観光協会は、この都市伝説について公式には言及を避けているが、「安全のため、夜間の橋の通行は控えるよう呼びかけている」とのことだった。


失恋橋の都市伝説は、現代社会における恋愛観の変化と、古来からの橋という場所の持つ象徴性が複雑に絡み合った現象かもしれない。実際に転落事故が発生している以上、単なる作り話として片付けることはできないが、その背景にある「何か」については、読者の判断に委ねたいと思う。

ただし、筆者が現地で感じた奇妙な違和感――橋の中央部分だけが妙に冷たく、風もないのに立っていると微かに揺れるような感覚――については、記録として残しておく。

愛を試す石造りの審判者は、今日も静かに山間の町を見守り続けている。

(了)


*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
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