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04.今日閉じ込められるだろう
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夜中になって至極簡単な作戦を実行することにした。ポストから見えない位置に座ってとにかく待ち続けるという地味なもの。毎朝早い俺が見れないということは、眠っている間に入れられているか、新聞配達のアルバイトをして手紙を混ぜている。今日の画鋲は危なかった。これからあんな事が続くと思うとぞっとする。なんとしても犯人を捕まえてやる!!家の壁を背にしてレジャーシートの上に座りポストを覗き込んで睨む。かちこちと部屋から持ってきた置時計の音がやけに大きく聞こえる、スマホでは灯りが漏れてばれてしまうことを考慮した結果だが、この音は妙に眠気を誘った。
時間は経つ、経つ、経つ。現時刻は0時。まだこない。
長期戦は覚悟している。
かちこち、かちこち、さらに時間は経つ。
…くそ、眠い。
頭ががくっ落ちて目が覚めた、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。慌てて飛び出しポストへ向かい開いたが、中身はまだ入っていなかった。ほっとしつつ家の角へと戻り街灯の明かりで時計を見る。深夜の2時30分。盛大に時間の浪費をしている気持ちがよぎったが、これは必要なことだ。今度こそ寝まいと目を見開いて、レジャーシートの上に戻って胡坐をかいた。それにしても眠い、そもそも俺は朝が早いだけあって夜も早い。早寝早起きの鏡のような男だ。夜更かしは向いていない。
自転車のかすかなブレーキ音ではっと目が覚めた。また寝ていたのか、自身に舌打ちしながらもあの小さな音で起きられたことを褒める。ポストを開ける音がして俺は駆け出した。相手は驚いた様子を見せ後退したが、逃げられないようにその手を掴む。
「捕まえたっ!!」
この太くてごつごつした筋肉質の腕は女の感触ではない。捕まえることに必死で、相手が何者であるかなんて見ている余裕はなかった。ようやく相手を見る。俺より高い身長、腹巻よりもでかい。腕を触っただけでもわかる筋肉。一重の鋭い目つき、人相の悪い凶悪面。……これが、腹巻に告白した……?
「え、えぇええぇっ!冗談だろ!」
相手は煩そうに顔をしかめた、俺が言えた義理ではないがその顔怖すぎる。え、てか。この顔忘れるとかマジで無いだろ!?え、えぇ!?
「人の腕をいきなり掴んで、随分な挨拶だな」
重低音の無茶苦茶渋声で言われた。……えぇ?なんでこういう人が腹巻に告白?
「あの、なんで腹巻なんかを好きになったんすか?」
「はぁ?」
声と表情に圧倒されて身がすくんだ。
「なんだ腹巻って。別に腹巻なんか好きじゃないけど」
おっとしまった、いつも腹巻って呼んでるからそのまま呼んでしまった。会話としたらおかしい。
「ほら、新垣春馬。あいつとつるんでる俺に嫉妬して不幸の手紙、そうこれ!これを俺のポストに入れてたんだろ」
そいつが手に持っていたのは紛れもなく毎朝入れられていた不幸の手紙!!犯人を見つけたぞ!やっぱり朝刊に混ぜて毎日入れていたのか!
「………お前、バカだろ」
俺はバカじゃない。
「それお前の周りをうろちょろしてるノッポのガキだろ。なんで俺があんなのを好きになる必要がある。言っておくが、俺はそいつにも、てめぇにも興味が無い!!むしろ、てめぇは地球から消滅すればいいとすら思っている」
なんで!?俺いつの間にそんなに怨まれてんの!?なんかした!?
「でも、俺はなんとしてでもやらなければならないことがある」
「意味がわかんねぇんだけど」
使命感を帯びた口調で言われて混乱する、相対性理論のほうがよっぽど分かりやすい。
「他の男にも目を向けろ」
そう言って俺の胸に不幸の手紙と新聞を押し付けると、そいつは自転車に乗って行ってしまった。他の男。気分が悪くなる言葉だ。意味も分からない。手紙を開いてみると昨日とおなじみの呪詛が並びたてられていた。顔とやっているこの姑息さがアンバランスすぎる。手紙の犯人の顔は分かったが、いまいち分からない。腹巻が好きで嫉妬しているってのも間違っていたみたいだし。というか誰だよあいつ、犯人と直接対面したくせに重要なことを何も聞き出せなかった。手紙を裏返す。
お前は今日閉じ込められるだろう
……なして?だいたい閉じ込められるような場所には行かないし、閉所恐怖症でもない。昨日とは違いいまひとつパンチに欠ける不幸に俺は首を傾げた。
******
次の日も屋上にひとりやってきて、寝転んで空を見上げると薄い雲がのんびりと流れてた。あのあと結局部屋に戻っても中途半端な時間に寝る気もおきず起きていた。そのせいでやたらと眠い。次第に瞼が重くなり目を閉じればすぐに意識を手放した。
寒さを感じて目を覚ます。起き上がって自分の部屋でないことに少し動揺したが、そういえば学校へと来ていたのだと思い出す。屋上は夕焼けに照らされていて、自分があり得ないほど寝ていたことに驚く。カラスののんびりした声が頭上で聞こえた。
「腹巻のやつも俺を起こさなかったのか」
ひとりごちる。あいつは俺が屋上で寝ていると決まって蹴り起こすのに。まぁ、腹巻の事などどうでもいい。立ち上がって帰ろうとしたところでなにかに躓いて前のめりになった、なんとか踏みとどまり足元を見る。
「何だ?」
「……あれ?僕…どうしたんだっけ?」
「え、江藤!?」
目をこすりながらそいつは起き上がった、声はいつも以上に眠たげでぽやぽやしている。
「なんでお前が?」
腹巻ならまだ分かるけど、江藤とは親しくない。この間階段で会って初めて顔が一致したくらいなのに、なんで江藤がここに居るんだ?
「えぇと。磯城君が帰るのを見なかったなって屋上に来たら、気持ち良さそうに寝てたから、起こすのも悪いかなって思って、まだ時間は少しあったし僕もちょっと寝ようって思ってたらぐっすりと眠ってた」
「なんだそれは」
がくりとする。その時起こしてくれればよかったのに。一緒になってぐっすり寝こけてたってアホか。
「まぁいいや、とりあえず帰るぞ」
俺は立ち上がってドアへと向かう。その後ろをとことこ江藤がついてくる。ドアノブに手をかけて回すと、途中で止まった。
「ん?」
もう一度、回したが途中で止まる。あれ?首をひねりガチャガチャガチャガチャと乱暴に何度もまわす。なんだこれは!!
「磯城君っ!!きっとそれ、見回りの先生が鍵を閉めたんだと思うよ」
イライラしている俺を見かねてか、後ろから江藤が焦った声をかけてきた。……マジか、手紙の言葉を思い出す。
「お前は今日閉じ込められるだろう」
暑くもないのに汗が溢れる。なんだ、なんなんだやつは!!あいつは超能力者か!?エスパーなのかっ!?なんでこんなにどんぴしゃで当たるんだよ!怖すぎる!!
「あぁぁぁぁぁ」
唸りながらその場にうずくまる。
「磯城君?大丈夫っ!?」
心配そうに覗き込んでくる江藤を尻目に、あの凶悪面を思い出す、見た目のわりに地味なことしやがって!
「大丈夫だよ、磯城君。スマホがあるよ!助けが呼べるよ」
「そうだよな!」
俺はその励ましに乗る、そうだそうだ!今の文明には携帯電話があるじゃないか!人間の英知に万歳!!俺は嬉々として携帯に手を伸ばす。電話したところであの腹巻が助けに来てくれるかどうかは怪しいが。希望があるだけまだいいだろう。携帯を開き、硬直した。充電0%、繰り返す点滅。
「ふざけるなぁ!!」
思わず投げ、江藤が驚いたようにキャッチした。
「どーしたの!?」
「充電切れだ。お前のは?」
「僕は鞄一式教室に置いたままだから」
なんてことだ。
「大丈夫だよ磯城君。真冬じゃないんだし、凍えることはないよ」
………そこまでポジティブになれねぇよ。でも現状なにも出来ない。ここから飛び降りようにも下はアスファルト。頭をぶつけたら終わり。人は10m以上あるところから飛び降りないと死ねないというけど、リスクをおかしてまで飛び降りるよりも、ここで明日を待ったほうがまだマシだ。俺はため息をついて壁を背もたれにして座る。はぁ…とんだ不幸だ。隣に江藤は体育座りした。
「何もお前まで一緒になって閉じ込められることはなかったんじゃないか?」
さっさと帰れば俺に巻き込まれてこんなことにならなかったはずだ。
「うん、でも磯城君と一緒に帰ってみたかったんだ」
小学生か。
「家族は?心配するんじゃねーの?」
一瞬江藤の肩がびくりとした気がした。なんだ?江藤の家族っていうのなら、なんかこいつと似たようなぽやぽやした一族がいそうなものだが、厳しい家なのか?
「大丈夫だよ。ほら、僕、掃除とか色々やってて遅くなることあるし」
それなら納得。その後は沈黙だった。大体江藤と俺とじゃ性格も違うし、何を話したらいいかよく分からない。びゅうと冷たい風が吹き、くしゃみが漏れた。
「寒い?磯城君」
「そりゃあな、屋外だし」
答えると、江藤はもそもそとブレザーを脱ぎ始め、俺の肩にぱさりとかけた。体温が残っていて温かい。
「へ?」
「僕は寒くないから、磯城君羽織っていいよ。少しは暖かいでしょう」
「あ、あぁ、ありがとな」
にこりと微笑む江藤、いいやつだ。だがこんな対応されたことなくて戸惑う。
「ねぇ、磯城君。聞きたいことがあるんだけど」
江藤はこちらに視線を向けることなく口を開いた、俺は隣に視線を向けると江藤は顔を上げた。
「新垣君とは付き合ってるの?」
はい????質問の意味が分からずに目を丸くする。腹巻と付き合う?何処に?何に?ん???俺が頭上にクエスチョンマークを浮かべていることに気づいたのかさらに言葉を重ねた。
「この間教室でキスしてたよね」
「はあっ!?気色悪!なんで?なんでそうなった!」
鳥肌が立ち自分の体を抱きしめた。身に覚えがない、その思考もない、考えただけで身の毛がよだつ。
「見たんだよ!磯城君が珍しく放課後のホームルームに来た日。誰もいなくなった教室でふたりがキスしてるの!」
眉を吊り上げながら言われても身に覚えがない。放課後のホームルームだけ出た日がそういえばあった。放課後の教室に行けと脅しがあった日。他の生徒が教室から出ていくなかで腹巻とふたり残った。それから?何もなくて結局家に帰った。それだけだ。何かあったか?何もない。そんなことあってたまるか!江藤は俺の目をじっと見てきた、その視線は必死なものが伝わってきて次第に瞳が揺れ始めた。それを正面から受け止めていると、江藤は数秒経ったあとにひとつ息を吐いて自分から視線を逸らした。少しだけ手が震えている。
「何かの見間違いだって。腹巻とそんなことになる可能性はない!」
その反応に少しだけ焦って、俺は少しだけ早口になった。
「分かった。磯城君を信じるよ。もし嘘だったら新垣君を消すから」
……ん?なんか今物騒なことが聞こえたような。腹巻を消す、とかなんとか。はは、そんな物騒なこと江藤が言うわけないか、きっと聞き間違えだ。
「磯城君は付き合ってる人いないんだよね?」
「あ…あぁ」
俺は江藤と何を話しているんだ?俺に恋人が居ないのを聞いてこいつはどうするつもりだ?軽くパニックだ。動揺していると、江藤は急に頬を染めて、目をぎゅっと閉じたかと思うとぱちりと開き、意を決したように俺を見据えた。
「僕と付き合ってください!」
「は」
固まった。
「磯城君のことが好きなんだ」
なに、それ。なにが起こってんの?
「え…と、はは、友達になりたいって意味?」
江藤なりの特殊な言い回しなのかもしれないな。うん。そう聞くと、江藤は男にしては柔らかそうな頬を膨らませた。
「違うよ、恋人になりたいの」
時間は経つ、経つ、経つ。現時刻は0時。まだこない。
長期戦は覚悟している。
かちこち、かちこち、さらに時間は経つ。
…くそ、眠い。
頭ががくっ落ちて目が覚めた、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。慌てて飛び出しポストへ向かい開いたが、中身はまだ入っていなかった。ほっとしつつ家の角へと戻り街灯の明かりで時計を見る。深夜の2時30分。盛大に時間の浪費をしている気持ちがよぎったが、これは必要なことだ。今度こそ寝まいと目を見開いて、レジャーシートの上に戻って胡坐をかいた。それにしても眠い、そもそも俺は朝が早いだけあって夜も早い。早寝早起きの鏡のような男だ。夜更かしは向いていない。
自転車のかすかなブレーキ音ではっと目が覚めた。また寝ていたのか、自身に舌打ちしながらもあの小さな音で起きられたことを褒める。ポストを開ける音がして俺は駆け出した。相手は驚いた様子を見せ後退したが、逃げられないようにその手を掴む。
「捕まえたっ!!」
この太くてごつごつした筋肉質の腕は女の感触ではない。捕まえることに必死で、相手が何者であるかなんて見ている余裕はなかった。ようやく相手を見る。俺より高い身長、腹巻よりもでかい。腕を触っただけでもわかる筋肉。一重の鋭い目つき、人相の悪い凶悪面。……これが、腹巻に告白した……?
「え、えぇええぇっ!冗談だろ!」
相手は煩そうに顔をしかめた、俺が言えた義理ではないがその顔怖すぎる。え、てか。この顔忘れるとかマジで無いだろ!?え、えぇ!?
「人の腕をいきなり掴んで、随分な挨拶だな」
重低音の無茶苦茶渋声で言われた。……えぇ?なんでこういう人が腹巻に告白?
「あの、なんで腹巻なんかを好きになったんすか?」
「はぁ?」
声と表情に圧倒されて身がすくんだ。
「なんだ腹巻って。別に腹巻なんか好きじゃないけど」
おっとしまった、いつも腹巻って呼んでるからそのまま呼んでしまった。会話としたらおかしい。
「ほら、新垣春馬。あいつとつるんでる俺に嫉妬して不幸の手紙、そうこれ!これを俺のポストに入れてたんだろ」
そいつが手に持っていたのは紛れもなく毎朝入れられていた不幸の手紙!!犯人を見つけたぞ!やっぱり朝刊に混ぜて毎日入れていたのか!
「………お前、バカだろ」
俺はバカじゃない。
「それお前の周りをうろちょろしてるノッポのガキだろ。なんで俺があんなのを好きになる必要がある。言っておくが、俺はそいつにも、てめぇにも興味が無い!!むしろ、てめぇは地球から消滅すればいいとすら思っている」
なんで!?俺いつの間にそんなに怨まれてんの!?なんかした!?
「でも、俺はなんとしてでもやらなければならないことがある」
「意味がわかんねぇんだけど」
使命感を帯びた口調で言われて混乱する、相対性理論のほうがよっぽど分かりやすい。
「他の男にも目を向けろ」
そう言って俺の胸に不幸の手紙と新聞を押し付けると、そいつは自転車に乗って行ってしまった。他の男。気分が悪くなる言葉だ。意味も分からない。手紙を開いてみると昨日とおなじみの呪詛が並びたてられていた。顔とやっているこの姑息さがアンバランスすぎる。手紙の犯人の顔は分かったが、いまいち分からない。腹巻が好きで嫉妬しているってのも間違っていたみたいだし。というか誰だよあいつ、犯人と直接対面したくせに重要なことを何も聞き出せなかった。手紙を裏返す。
お前は今日閉じ込められるだろう
……なして?だいたい閉じ込められるような場所には行かないし、閉所恐怖症でもない。昨日とは違いいまひとつパンチに欠ける不幸に俺は首を傾げた。
******
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「腹巻のやつも俺を起こさなかったのか」
ひとりごちる。あいつは俺が屋上で寝ていると決まって蹴り起こすのに。まぁ、腹巻の事などどうでもいい。立ち上がって帰ろうとしたところでなにかに躓いて前のめりになった、なんとか踏みとどまり足元を見る。
「何だ?」
「……あれ?僕…どうしたんだっけ?」
「え、江藤!?」
目をこすりながらそいつは起き上がった、声はいつも以上に眠たげでぽやぽやしている。
「なんでお前が?」
腹巻ならまだ分かるけど、江藤とは親しくない。この間階段で会って初めて顔が一致したくらいなのに、なんで江藤がここに居るんだ?
「えぇと。磯城君が帰るのを見なかったなって屋上に来たら、気持ち良さそうに寝てたから、起こすのも悪いかなって思って、まだ時間は少しあったし僕もちょっと寝ようって思ってたらぐっすりと眠ってた」
「なんだそれは」
がくりとする。その時起こしてくれればよかったのに。一緒になってぐっすり寝こけてたってアホか。
「まぁいいや、とりあえず帰るぞ」
俺は立ち上がってドアへと向かう。その後ろをとことこ江藤がついてくる。ドアノブに手をかけて回すと、途中で止まった。
「ん?」
もう一度、回したが途中で止まる。あれ?首をひねりガチャガチャガチャガチャと乱暴に何度もまわす。なんだこれは!!
「磯城君っ!!きっとそれ、見回りの先生が鍵を閉めたんだと思うよ」
イライラしている俺を見かねてか、後ろから江藤が焦った声をかけてきた。……マジか、手紙の言葉を思い出す。
「お前は今日閉じ込められるだろう」
暑くもないのに汗が溢れる。なんだ、なんなんだやつは!!あいつは超能力者か!?エスパーなのかっ!?なんでこんなにどんぴしゃで当たるんだよ!怖すぎる!!
「あぁぁぁぁぁ」
唸りながらその場にうずくまる。
「磯城君?大丈夫っ!?」
心配そうに覗き込んでくる江藤を尻目に、あの凶悪面を思い出す、見た目のわりに地味なことしやがって!
「大丈夫だよ、磯城君。スマホがあるよ!助けが呼べるよ」
「そうだよな!」
俺はその励ましに乗る、そうだそうだ!今の文明には携帯電話があるじゃないか!人間の英知に万歳!!俺は嬉々として携帯に手を伸ばす。電話したところであの腹巻が助けに来てくれるかどうかは怪しいが。希望があるだけまだいいだろう。携帯を開き、硬直した。充電0%、繰り返す点滅。
「ふざけるなぁ!!」
思わず投げ、江藤が驚いたようにキャッチした。
「どーしたの!?」
「充電切れだ。お前のは?」
「僕は鞄一式教室に置いたままだから」
なんてことだ。
「大丈夫だよ磯城君。真冬じゃないんだし、凍えることはないよ」
………そこまでポジティブになれねぇよ。でも現状なにも出来ない。ここから飛び降りようにも下はアスファルト。頭をぶつけたら終わり。人は10m以上あるところから飛び降りないと死ねないというけど、リスクをおかしてまで飛び降りるよりも、ここで明日を待ったほうがまだマシだ。俺はため息をついて壁を背もたれにして座る。はぁ…とんだ不幸だ。隣に江藤は体育座りした。
「何もお前まで一緒になって閉じ込められることはなかったんじゃないか?」
さっさと帰れば俺に巻き込まれてこんなことにならなかったはずだ。
「うん、でも磯城君と一緒に帰ってみたかったんだ」
小学生か。
「家族は?心配するんじゃねーの?」
一瞬江藤の肩がびくりとした気がした。なんだ?江藤の家族っていうのなら、なんかこいつと似たようなぽやぽやした一族がいそうなものだが、厳しい家なのか?
「大丈夫だよ。ほら、僕、掃除とか色々やってて遅くなることあるし」
それなら納得。その後は沈黙だった。大体江藤と俺とじゃ性格も違うし、何を話したらいいかよく分からない。びゅうと冷たい風が吹き、くしゃみが漏れた。
「寒い?磯城君」
「そりゃあな、屋外だし」
答えると、江藤はもそもそとブレザーを脱ぎ始め、俺の肩にぱさりとかけた。体温が残っていて温かい。
「へ?」
「僕は寒くないから、磯城君羽織っていいよ。少しは暖かいでしょう」
「あ、あぁ、ありがとな」
にこりと微笑む江藤、いいやつだ。だがこんな対応されたことなくて戸惑う。
「ねぇ、磯城君。聞きたいことがあるんだけど」
江藤はこちらに視線を向けることなく口を開いた、俺は隣に視線を向けると江藤は顔を上げた。
「新垣君とは付き合ってるの?」
はい????質問の意味が分からずに目を丸くする。腹巻と付き合う?何処に?何に?ん???俺が頭上にクエスチョンマークを浮かべていることに気づいたのかさらに言葉を重ねた。
「この間教室でキスしてたよね」
「はあっ!?気色悪!なんで?なんでそうなった!」
鳥肌が立ち自分の体を抱きしめた。身に覚えがない、その思考もない、考えただけで身の毛がよだつ。
「見たんだよ!磯城君が珍しく放課後のホームルームに来た日。誰もいなくなった教室でふたりがキスしてるの!」
眉を吊り上げながら言われても身に覚えがない。放課後のホームルームだけ出た日がそういえばあった。放課後の教室に行けと脅しがあった日。他の生徒が教室から出ていくなかで腹巻とふたり残った。それから?何もなくて結局家に帰った。それだけだ。何かあったか?何もない。そんなことあってたまるか!江藤は俺の目をじっと見てきた、その視線は必死なものが伝わってきて次第に瞳が揺れ始めた。それを正面から受け止めていると、江藤は数秒経ったあとにひとつ息を吐いて自分から視線を逸らした。少しだけ手が震えている。
「何かの見間違いだって。腹巻とそんなことになる可能性はない!」
その反応に少しだけ焦って、俺は少しだけ早口になった。
「分かった。磯城君を信じるよ。もし嘘だったら新垣君を消すから」
……ん?なんか今物騒なことが聞こえたような。腹巻を消す、とかなんとか。はは、そんな物騒なこと江藤が言うわけないか、きっと聞き間違えだ。
「磯城君は付き合ってる人いないんだよね?」
「あ…あぁ」
俺は江藤と何を話しているんだ?俺に恋人が居ないのを聞いてこいつはどうするつもりだ?軽くパニックだ。動揺していると、江藤は急に頬を染めて、目をぎゅっと閉じたかと思うとぱちりと開き、意を決したように俺を見据えた。
「僕と付き合ってください!」
「は」
固まった。
「磯城君のことが好きなんだ」
なに、それ。なにが起こってんの?
「え…と、はは、友達になりたいって意味?」
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