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07.逃げ場ゼロの遊園地だろう
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日曜日がやってきた、ついに決戦の日だ!全力で江藤に諦めさせる!!腹巻と休日に会うことになってもジャージ姿で出向くが、今日は違う。余所行きの服を着て鏡で確認する、うんこれならデートっぽいだろう。打倒江藤だ。鞄を肩に引っ提げて家を出ると、とてもよく晴れている空が俺を迎えた。風が吹くと少し肌寒いが、まだ本格的な冬は少し先だ。ああ、今日が雨だったらよかったのに。
人の行きかう駅前に江藤がちんまりと立っていた。私服姿の江藤はさらに小さく見えるが、それよりも気になるのは、隣に並んでいる人物。真っ黒な服装に金色のネックレスをして口からはタバコらしきものをくわえた、江藤和がいる!!少し身構えてみていたが、江藤和が口からそれを引き抜くとただのチュッパチャップスだったことに気づく。だがそれでも怖い。ヤのつくご職業の方にしか見えない。そんなのを目の前にしても江藤はぽやぽや笑っている。そりゃあ兄弟だ、当然といえば当然だが、通行人が少し距離を取りながら歩いているのを見て、今からあれに近づくのかと思うだけでげんなりしてきた。ああ、帰りたい。立ち止まっていると、肩を叩かれた。
「どうした?ぼーっと突っ立って」
腹巻だ。
「ああ、帰りたいなって思ってさ」
言いつつ腹巻を見上げ、目が点になった。
「お前、そんなことできたの」
「はい?」
何時もは気にしていないが、改めて見ると腹巻は顔が整っている、愛想もいいし背も高い、全力でやる。と言った俺の言葉を実現しようとしたのかなんなのか、女子が求める彼氏ってこういうのを言うんだろうな、なんて思うほどに完璧な装いをしていた。カテゴライズするならば爽やか形イケメンだ。くっそ。
「顔面つぶしていいか?」
「なんで!?俺結構頑張って来たよ!?」
「ありがとうございますー、感謝の気持ちにボディーブロー!」
どすっと腹巻の腹に拳を沈めた。
「だからなんで!?」
腹巻への恨みを晴らしていると、磯城君!と明るい声が聞こえて江藤が駆け寄ってきた。後ろをついて来る江藤兄は咥えているチュッパチャップスがガリッと音を立ててかみ砕いた。怖い。
「私服の磯城君だ」
じっと見つめられて怖い。後ろで腹巻が俺も私服だ。なんて言っているが誰もその言葉を拾わない。
「電車に乗るんだろ、さっさと行こうぜ」
電車通学ではないから、電子マネーは持っていない。切符を買おうと休日の人で込み合う券売機へ並ぼうとしたけれど、江藤が俺の袖を引っ張った。
「大丈夫、買っておいたよ」
「おお、気が利くな」
切符を受け取る。
「新垣君のはこれね」
にこりと江藤が腹巻に渡したのは拳で握りつぶしたのかしわくちゃになっていた。腹巻引いてるじゃねえか、誰だよ江藤がいい人だなんて言ったやつ。無茶苦茶性格悪いぞこいつ。休日の電車内は込み合っていて、座るところがなく立っている人も目立つ。
「遊園地なんて久しぶりだ。なあ、何乗る?」
きゃっきゃと腹巻が笑う。なにお前、渋っていたのに、ほんとは好きだったの?
「絶叫系」
「はは。りょーすけ好きだもんな。小学生の時、乗りすぎて気持ち悪くなったの覚えてる」
「俺が勝手に乗ってんだから休んでればよかっただろ」
「そうなんだけどさ、楽しそうにしてるし、つい乗りたくなっちゃうんだよなー」
からからと腹巻が笑う、昔からこいつはやたらと俺に付いて回ってたな。こいつはバカだし、そのまま公立行けばいいのに高校まで同じにすると言い出した時にはビビった。…待て、よく考えてみると気持ち悪くね?俺の心情を知ってか知らずか腹巻はへらへらしている。
「小学生時代の磯城君かあ、どんな子だったの?」
江藤が会話に入ってきた。
「そうだなー人の弁当は奪うし、掃除もろくにしないし、先生を泣かしたこともあったな、うん。最悪だった」
無邪気な子供のちょっとしたいたずらだ、そんなに性悪だった覚えはない。
「へぇ、変わらないね」
江藤が頷く。お前ほんとに俺のこと好きなの?そんなふうに見てたの?
「あ、でも俺がいじめられた時、仲裁に入ってくれたな。いじめの仕方がなってないって」
「え?それ仲裁なの?」
「りょーすけが凶悪すぎてみんな引いちゃってさー、それ以来いじめが無くなったから仲裁じゃない?」
余計なことをべらべらと、腹巻の背中を思い切りつねってやった。
「痛い痛い!何!」
涙目になる腹巻に少しは胸がすいたが、車内の女子の視線が腹巻を見てきゃっきゃしているのが目に入ったので、足も踏みつけておいた。
駅を降りて少しすると遊園地へと到着する、4人で歩いていると腹巻が「ん?」と首を傾げ凶悪そのものの江藤兄を見た。
「この人、江藤和も一緒なのか?」
気づくのが遅すぎる。
「今気づいたのか?てか、よく名前知ってんな」
「あーたまたま同じ方向なのかと思って、江藤和って学校じゃ有名だろ?知ってるさ」
「和にぃは僕の兄さんなんだよ」
ほへほへした声で江藤が言う。
「えぇ!?マジか!再婚相手の連れ子かなんかっすか?」
バカ野郎!思いっきり腹巻のみぞおちに一撃を食らわせてやった。瞬間に自分は今日こいつと恋人として接しなければならなかったと気づく。これでは俺と腹巻は恋人には見えない。……てか、男同士で恋人に見えんのか?そもそもの前提がおかしい気がしてきた。顔を上げて江藤兄の顔を見ると眉を顰められてた、へらりと笑って見せる。
「すんません。こいつバカなんで」
「だろうな」
みっともなくへこへこと頭を下げ、ずりずりと腹巻を引っ張って2人に声が聞こえない距離まで来る。
「上級生に敬語なんて使ってんの?初めて見たわ、きもくね?」
今は非常事態なんだよ!!妙な軋轢を生んで殺されたくない。
「今回の目的は江藤に俺のことを諦めさせることだ。変なところで江藤兄の怒りを買ってつぶされたくない!」
「あそ……、プラン変更はしないってことでいいのか?」
「当たり前だ!!」
2人して作戦会議?を終えると、くるりと江藤兄弟へと向く。2人揃うとますます怖い。でも、ここは度胸で耐えろ。なんたって俺の人生がかかってるんだからな!!
「チケット売り場はあっちだよ」
嬉々として江藤は俺の右腕を引っ張っり少し前につんのめった、手を振りほどくことは簡単だが簡単じゃない。後方に魔王がいるからだ。そこにぐんと左手を引かれた。へ?
「早く行こうぜ」
腹巻に左手を繋がれた。それは正解か?江藤が右でぷくうと柔らかい頬を膨らませた。正解か?ふたりして早く早く!と引っ張られる。...これはどっちかというと、小さな子供が遊園地が待ちきれなくて親を引っ張っている図に近い!!後ろで江藤兄が笑いをこらえているのかぷるぷると震えていた。弟をどうにかしろよ兄貴!
フリーパスを購入し遊園地に入ると、園の外からも聞こえていた楽し気な声がさらに賑やかになった。
「ねねー磯城君、何乗る?」
わくわくしながら近づいてくる江藤。どれでもいい、というか正直どれも乗りたくない。
「りょーすけっ、ジェットコースター行こうぜ!!」
反対側からきらきらした目で手を引っ張って腹巻が走り出す、突然のことに対応できなかった江藤の手が離れた。てか遊園地大好きか!まぁここは、なんとしてでも江藤に諦めてもらうのが目的だからこれでいいのか?
「園内は走ったらだめだよ!」
言いながら江藤は追いかけてきた。江藤兄は保護者よろしく後ろから歩いてついてきた。コンパスが違うからか歩いても追いつけるスピードらしい。ジェットコースター乗り場の列に並んだ時にはすでに息が上がっていた。こんの体力バカ、スピードが速すぎる。追いついた江藤も息を切らしていた。というか、ジェットコースター乗りすぎて気持ち悪くなった話を車内でしたはずなのに、すぐにジェットコースターにかけていくとか思考回路どうなってんだ。
「集団で来てるんだから、ひとり暴走するな」
江藤兄がサングラス越しに腹巻を見た。腹巻は恐怖という感情を何処かに置いてきてしまったのか、すんませんとへらりと笑った。
「無駄な体力使った」
ようやく息が落ちついた、恨みがましく腹巻を見る。
「一番前だといいな!」
だが吹く風で腹巻は無邪気に笑った。順番が回ってくると一番前の席で腹巻は大喜びだった。バカってうらやましいな。江藤は隣に座りたがったが、腹巻が俺を急かして隣に座らせた、ありがたく隣に収まる。江藤は不機嫌そうな顔をして、その肩を江藤兄が優しく叩いていた。
ジェットコースターはぐんぐんと上昇していく、小さなころから絶叫系は好きだったが今はそんな余裕はなく、今は恐怖を感じていた。江藤兄の圧を後頭部にびしばしと感じる。よせばいいのに俺は後ろをじりじりと振り返ってみた。弟を傷つけやがって。とサングラスをいつの間にか外したのか、その凶悪な目があらわになっていて怖い。ひたすらに怖い。ばっと正面に向き直り、冷や汗が流れる。隣の腹巻は気づかずにわくわくしている、勢いよく落下した。
「ぎゃあああああ!」
後ろから江藤兄が追いかけてくるような錯覚に陥って叫ぶ。後ろから鬼気迫っている!直線、カーブ、回転、どこに差し掛かっても追われている感覚。乗っていたのはほんの数分なのに体感的にもっと乗っていたような気がする、精神力を使い果たしてぐったりする。
「あーおもしろかった!…って大丈夫か?」
腹巻が伸びをして俺を見て、びっくりした声を上げる。
「小さな時は平気に虫が触れたのに、大人になったら苦手になったとか、そういう現象か?」
違うわバカ。お前は後ろの圧に気づかなかったのか。俺がへばったので近くのベンチに座る。
「大丈夫磯城君?」
座った俺を覗き込むようにして江藤が正面で膝を折る。
「平気」
精神的に疲れただけだ。
「何か飲み物買ってくるよ、何がいい?」
「緑茶」
江藤は頷いて立ち上がったがそれを江藤兄が制した。
「俺が行ってくる。神流はそいつのこと見ててやれ、そっちのノッポは俺と来い」
気の使える不良め!!江藤とふたりきりはなりたくない。げんなりしていると隣に座っていた腹巻が俺の肩を引き寄せた。
「いや、恋人の面倒は俺がみます」
場の空気が氷点下まで下がった。今!?タイミング今だった?恋人のふりをする計画を実行すると言ったが、タイミングをちゃんと読め!
「へぇ」
「ほぉ」
江藤兄弟が似たような視線を向けてくる。ブリザードが吹き荒れる。怖い!腹巻もようやく冷気を感じ取ることが出来たのか顔から血の気が引いた。ここで負けるな。
「そ、そうなんだ。付き合ってないと言ったが、その後、その付き合うことになった」
「磯城君は新垣君に〇〇されて××にされて、△△××〇〇てもいいってこと?」
「言葉を選べ!」
家族連れも多い遊園地でなんてことを言ってるんだこいつは!通行人がぎょっとしたような視線を向け、きょとんとした子供を慌てて抱えて母親が走り去っていった。じっと江藤が俺を見てくる。答えなくてはいけないらしい、拷問かなこれ?
「あ、あぁ、そうだな」
苦渋の表情で言い放つと腹巻が引いたように俺を見ていた。素に戻るな!嫌な汗をかくおれに江藤は感情の読めない声で「ふぅん」と目を細めた後、突然黒のオーラをしまった。
「せっかく遊園地に来たから他のも乗ろうか。のんびりできる観覧車なんてどうかな」
「あ、あぁ」
突然の変わり身に拍子抜けしつつ。頷いた。
人の行きかう駅前に江藤がちんまりと立っていた。私服姿の江藤はさらに小さく見えるが、それよりも気になるのは、隣に並んでいる人物。真っ黒な服装に金色のネックレスをして口からはタバコらしきものをくわえた、江藤和がいる!!少し身構えてみていたが、江藤和が口からそれを引き抜くとただのチュッパチャップスだったことに気づく。だがそれでも怖い。ヤのつくご職業の方にしか見えない。そんなのを目の前にしても江藤はぽやぽや笑っている。そりゃあ兄弟だ、当然といえば当然だが、通行人が少し距離を取りながら歩いているのを見て、今からあれに近づくのかと思うだけでげんなりしてきた。ああ、帰りたい。立ち止まっていると、肩を叩かれた。
「どうした?ぼーっと突っ立って」
腹巻だ。
「ああ、帰りたいなって思ってさ」
言いつつ腹巻を見上げ、目が点になった。
「お前、そんなことできたの」
「はい?」
何時もは気にしていないが、改めて見ると腹巻は顔が整っている、愛想もいいし背も高い、全力でやる。と言った俺の言葉を実現しようとしたのかなんなのか、女子が求める彼氏ってこういうのを言うんだろうな、なんて思うほどに完璧な装いをしていた。カテゴライズするならば爽やか形イケメンだ。くっそ。
「顔面つぶしていいか?」
「なんで!?俺結構頑張って来たよ!?」
「ありがとうございますー、感謝の気持ちにボディーブロー!」
どすっと腹巻の腹に拳を沈めた。
「だからなんで!?」
腹巻への恨みを晴らしていると、磯城君!と明るい声が聞こえて江藤が駆け寄ってきた。後ろをついて来る江藤兄は咥えているチュッパチャップスがガリッと音を立ててかみ砕いた。怖い。
「私服の磯城君だ」
じっと見つめられて怖い。後ろで腹巻が俺も私服だ。なんて言っているが誰もその言葉を拾わない。
「電車に乗るんだろ、さっさと行こうぜ」
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「大丈夫、買っておいたよ」
「おお、気が利くな」
切符を受け取る。
「新垣君のはこれね」
にこりと江藤が腹巻に渡したのは拳で握りつぶしたのかしわくちゃになっていた。腹巻引いてるじゃねえか、誰だよ江藤がいい人だなんて言ったやつ。無茶苦茶性格悪いぞこいつ。休日の電車内は込み合っていて、座るところがなく立っている人も目立つ。
「遊園地なんて久しぶりだ。なあ、何乗る?」
きゃっきゃと腹巻が笑う。なにお前、渋っていたのに、ほんとは好きだったの?
「絶叫系」
「はは。りょーすけ好きだもんな。小学生の時、乗りすぎて気持ち悪くなったの覚えてる」
「俺が勝手に乗ってんだから休んでればよかっただろ」
「そうなんだけどさ、楽しそうにしてるし、つい乗りたくなっちゃうんだよなー」
からからと腹巻が笑う、昔からこいつはやたらと俺に付いて回ってたな。こいつはバカだし、そのまま公立行けばいいのに高校まで同じにすると言い出した時にはビビった。…待て、よく考えてみると気持ち悪くね?俺の心情を知ってか知らずか腹巻はへらへらしている。
「小学生時代の磯城君かあ、どんな子だったの?」
江藤が会話に入ってきた。
「そうだなー人の弁当は奪うし、掃除もろくにしないし、先生を泣かしたこともあったな、うん。最悪だった」
無邪気な子供のちょっとしたいたずらだ、そんなに性悪だった覚えはない。
「へぇ、変わらないね」
江藤が頷く。お前ほんとに俺のこと好きなの?そんなふうに見てたの?
「あ、でも俺がいじめられた時、仲裁に入ってくれたな。いじめの仕方がなってないって」
「え?それ仲裁なの?」
「りょーすけが凶悪すぎてみんな引いちゃってさー、それ以来いじめが無くなったから仲裁じゃない?」
余計なことをべらべらと、腹巻の背中を思い切りつねってやった。
「痛い痛い!何!」
涙目になる腹巻に少しは胸がすいたが、車内の女子の視線が腹巻を見てきゃっきゃしているのが目に入ったので、足も踏みつけておいた。
駅を降りて少しすると遊園地へと到着する、4人で歩いていると腹巻が「ん?」と首を傾げ凶悪そのものの江藤兄を見た。
「この人、江藤和も一緒なのか?」
気づくのが遅すぎる。
「今気づいたのか?てか、よく名前知ってんな」
「あーたまたま同じ方向なのかと思って、江藤和って学校じゃ有名だろ?知ってるさ」
「和にぃは僕の兄さんなんだよ」
ほへほへした声で江藤が言う。
「えぇ!?マジか!再婚相手の連れ子かなんかっすか?」
バカ野郎!思いっきり腹巻のみぞおちに一撃を食らわせてやった。瞬間に自分は今日こいつと恋人として接しなければならなかったと気づく。これでは俺と腹巻は恋人には見えない。……てか、男同士で恋人に見えんのか?そもそもの前提がおかしい気がしてきた。顔を上げて江藤兄の顔を見ると眉を顰められてた、へらりと笑って見せる。
「すんません。こいつバカなんで」
「だろうな」
みっともなくへこへこと頭を下げ、ずりずりと腹巻を引っ張って2人に声が聞こえない距離まで来る。
「上級生に敬語なんて使ってんの?初めて見たわ、きもくね?」
今は非常事態なんだよ!!妙な軋轢を生んで殺されたくない。
「今回の目的は江藤に俺のことを諦めさせることだ。変なところで江藤兄の怒りを買ってつぶされたくない!」
「あそ……、プラン変更はしないってことでいいのか?」
「当たり前だ!!」
2人して作戦会議?を終えると、くるりと江藤兄弟へと向く。2人揃うとますます怖い。でも、ここは度胸で耐えろ。なんたって俺の人生がかかってるんだからな!!
「チケット売り場はあっちだよ」
嬉々として江藤は俺の右腕を引っ張っり少し前につんのめった、手を振りほどくことは簡単だが簡単じゃない。後方に魔王がいるからだ。そこにぐんと左手を引かれた。へ?
「早く行こうぜ」
腹巻に左手を繋がれた。それは正解か?江藤が右でぷくうと柔らかい頬を膨らませた。正解か?ふたりして早く早く!と引っ張られる。...これはどっちかというと、小さな子供が遊園地が待ちきれなくて親を引っ張っている図に近い!!後ろで江藤兄が笑いをこらえているのかぷるぷると震えていた。弟をどうにかしろよ兄貴!
フリーパスを購入し遊園地に入ると、園の外からも聞こえていた楽し気な声がさらに賑やかになった。
「ねねー磯城君、何乗る?」
わくわくしながら近づいてくる江藤。どれでもいい、というか正直どれも乗りたくない。
「りょーすけっ、ジェットコースター行こうぜ!!」
反対側からきらきらした目で手を引っ張って腹巻が走り出す、突然のことに対応できなかった江藤の手が離れた。てか遊園地大好きか!まぁここは、なんとしてでも江藤に諦めてもらうのが目的だからこれでいいのか?
「園内は走ったらだめだよ!」
言いながら江藤は追いかけてきた。江藤兄は保護者よろしく後ろから歩いてついてきた。コンパスが違うからか歩いても追いつけるスピードらしい。ジェットコースター乗り場の列に並んだ時にはすでに息が上がっていた。こんの体力バカ、スピードが速すぎる。追いついた江藤も息を切らしていた。というか、ジェットコースター乗りすぎて気持ち悪くなった話を車内でしたはずなのに、すぐにジェットコースターにかけていくとか思考回路どうなってんだ。
「集団で来てるんだから、ひとり暴走するな」
江藤兄がサングラス越しに腹巻を見た。腹巻は恐怖という感情を何処かに置いてきてしまったのか、すんませんとへらりと笑った。
「無駄な体力使った」
ようやく息が落ちついた、恨みがましく腹巻を見る。
「一番前だといいな!」
だが吹く風で腹巻は無邪気に笑った。順番が回ってくると一番前の席で腹巻は大喜びだった。バカってうらやましいな。江藤は隣に座りたがったが、腹巻が俺を急かして隣に座らせた、ありがたく隣に収まる。江藤は不機嫌そうな顔をして、その肩を江藤兄が優しく叩いていた。
ジェットコースターはぐんぐんと上昇していく、小さなころから絶叫系は好きだったが今はそんな余裕はなく、今は恐怖を感じていた。江藤兄の圧を後頭部にびしばしと感じる。よせばいいのに俺は後ろをじりじりと振り返ってみた。弟を傷つけやがって。とサングラスをいつの間にか外したのか、その凶悪な目があらわになっていて怖い。ひたすらに怖い。ばっと正面に向き直り、冷や汗が流れる。隣の腹巻は気づかずにわくわくしている、勢いよく落下した。
「ぎゃあああああ!」
後ろから江藤兄が追いかけてくるような錯覚に陥って叫ぶ。後ろから鬼気迫っている!直線、カーブ、回転、どこに差し掛かっても追われている感覚。乗っていたのはほんの数分なのに体感的にもっと乗っていたような気がする、精神力を使い果たしてぐったりする。
「あーおもしろかった!…って大丈夫か?」
腹巻が伸びをして俺を見て、びっくりした声を上げる。
「小さな時は平気に虫が触れたのに、大人になったら苦手になったとか、そういう現象か?」
違うわバカ。お前は後ろの圧に気づかなかったのか。俺がへばったので近くのベンチに座る。
「大丈夫磯城君?」
座った俺を覗き込むようにして江藤が正面で膝を折る。
「平気」
精神的に疲れただけだ。
「何か飲み物買ってくるよ、何がいい?」
「緑茶」
江藤は頷いて立ち上がったがそれを江藤兄が制した。
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気の使える不良め!!江藤とふたりきりはなりたくない。げんなりしていると隣に座っていた腹巻が俺の肩を引き寄せた。
「いや、恋人の面倒は俺がみます」
場の空気が氷点下まで下がった。今!?タイミング今だった?恋人のふりをする計画を実行すると言ったが、タイミングをちゃんと読め!
「へぇ」
「ほぉ」
江藤兄弟が似たような視線を向けてくる。ブリザードが吹き荒れる。怖い!腹巻もようやく冷気を感じ取ることが出来たのか顔から血の気が引いた。ここで負けるな。
「そ、そうなんだ。付き合ってないと言ったが、その後、その付き合うことになった」
「磯城君は新垣君に〇〇されて××にされて、△△××〇〇てもいいってこと?」
「言葉を選べ!」
家族連れも多い遊園地でなんてことを言ってるんだこいつは!通行人がぎょっとしたような視線を向け、きょとんとした子供を慌てて抱えて母親が走り去っていった。じっと江藤が俺を見てくる。答えなくてはいけないらしい、拷問かなこれ?
「あ、あぁ、そうだな」
苦渋の表情で言い放つと腹巻が引いたように俺を見ていた。素に戻るな!嫌な汗をかくおれに江藤は感情の読めない声で「ふぅん」と目を細めた後、突然黒のオーラをしまった。
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