不幸の手紙に“男に告白される”って書いてあったんだが?

すもも

文字の大きさ
9 / 10

09.優しさに絡め取られるだろう

しおりを挟む
目が覚めてから俺は大いに混乱した。頬に感じる柔らかな枕の感覚、長年愛用しているから俺の形にフィットしてとても使いやすい。視界に写るのは見慣れた天井で、自分の部屋にいるのだと気づいた。けどここまで自力で来た覚えはない。

「あ、磯城君目が覚めたんだね」

笑顔と共に天井を見ていた視界を江藤が遮った。

「うわあああ!」

叫び声を上げながら腹筋を使って上半身を起こす、江藤はぶつからないように頭をどける。自分の体をぺたぺた触るが服は着ているしおかしなことはなにもない、寝ている間に何かされたということはないみたいだ、でもなんで江藤がここにいる!腹巻のやつなにやってんだよ!いい仕事してたと思ったのに詰めが甘い!

「あぁと、なんか、迷惑かけたみたいで悪かったな」

とにかくここから逃げ出すことが先決だ。とにかくここにいるのはよくない、ベッドから降りようとつもりだったのだが、江藤にとんと肩を押されてベッドに逆戻り、突然のことに反応できずただ驚く俺の腹の上に乗られて目が丸くなる。夕闇に照らされた江藤の姿に現実感がわかない。それでも、この体制はよくない。でも江藤は小柄だし体格は俺が勝っているだから少し上に乗られたくらいで身動きできなくなるはずがないのに、体重のかけ方がうまいのか起き上がりたくとも起き上がれない。まずい、この体制は非常にまずい。

「気づかなかったかもしれないけど、僕、すごく不機嫌だったんだよね」

そんな声が出たのかと思うほど低くて、纏う雰囲気も全く違う。嫌な汗が流れる。それでも伏せられる顔はどこか寂し気で、感情が揺れる。江藤には諦めてほしいと思ってはいる、けどこんな顔をさせたいわけじゃない。一瞬言葉が詰まるが、いつもの俺らしく少し笑って見せた。

「あ、はは……そう、なんだ」
「ずっと、新垣君とべたべたしてさ……、」

腹巻の行動には首をかしげる部分は多かったが、江藤には効果抜群だったみたいだ。江藤の大きな瞳が揺らぎ、泣きそうに顔がゆがむ。

「そんなに僕が嫌い?」
「……っ、」

息をのむ。どう反応したらいいのか分からなくて視線を逸らす。

「新垣君と、ほんとに付き合ってるの……?」

江藤の語尾が震える。俺はどうしたらいいのか分からない、もちろん腹巻と付き合っているというのは嘘だ。けど江藤と付き合るかと聞かれれば、俺は首を捻ってしまう。そういう対象として江藤を見たことがないし、これから付き合うというビジョンも見えてこない。俺は大学に行って、かわいい彼女と付き合って、そのまま就職して家庭を築くという願望を持っている。男と付き合う人生設計は俺の中にない。俺はゆっくりと拳を強く握って開いた。

「あの時は、…はらま…春馬と付き合ってないって言ったけど…あの、あと付き合うことになってさ……だから、お前とは、」


付き合えない。その言葉がどうしてもうまく出てこなくて、視線を逸らした。ふたりの間に沈黙が落ちるけれど江藤は俺の上からどいてくれない。

「いやだ……、そんなの、嫌だよ」

ついに決壊して、俺の胸元にぽたぽたと江藤の涙が落ちてくる。

「お、おい……、泣くなよ」

動揺して体を起こす、江藤の力が抜けていたとこの時になってようやく気付いたのと同時に、罪悪感が襲ってくる。嘘をついてしまった。江藤がどれほど俺に対して本気だったのかなんて知らない、少し冗談半分だったと勝手に解釈していた。けど、俺の言葉ひとつでこんなに心が揺さぶられてしまうことになるなんて思わなった。

「……ごめんて、……今のは、その………、嘘だから」

結局自分でネタバレしてしまった。

「……嘘?うそなの?なにが嘘なの?」

うるんだ大きな瞳で見てくる江藤に、俺はバツが悪そうに視線を逸らす。

「腹巻とは、付き合ってないよ。………、」

言うと江藤が動きを止めた。


「……僕が諦めそうにないから、嘘をついて遠ざけようとしたの?」
「ごめん。断り方が最悪だって言うのは謝る。お前の気持ちも考えずに、自分のことばかりだった」
「……そっか、磯城君って最低だね」

言われてぐっと言葉が詰まる。言い返す言葉もない、俺が言いよどんでいるととんと肩を押されて、身構えていなかったせいで再びベッドの上に転がってしまう。

「でもいいよ。正直に言ってくれたからね。そういうところ、いい子でかわいいね」

さっきまで泣いていたくせに今は薄く微笑んでいて、俺は空恐ろしさを感じて体を起こそうとするが動けない。あれ?おかしいな。

「最低なところも、変にから回りして大騒ぎしているところも、全部かわいいよ」

ゆっくりと頭を撫でられて、顔が熱くなる。バカにされているのか、なんなのか、分からない、優しく微笑む江藤から視線が離せなくて心臓が脈打つ。これは恐怖か、なんだ。ゆっくりと頬に手が滑って、硬直する。俺のほうが体が大きいはずなのに、振り払えなくて頭が混乱する。

「…磯城君には優しくしたいんだ。だけどさ、そんな嘘つかれると僕は寂しいなあ」

細められた視線に射抜かれて、あ、とか、う、とかしか言葉が出てこない。頬に滑っていた手がそのまま肩から指先に滑って手を絡まされる。そのままゆっくりと持ち上げられて、視線がかち合う。そのままふと微笑んで指先に優しいキスをされた。俺の心臓が爆発するんじゃないかってくらいどきどきと鳴る。なんだ、これは!?恐怖が限界突破してんのか!!?自分の感情が頭で理解できない。そんな俺の様子を見て江藤はくすりと笑うとようやく体をどかしてベッドから降りた。

「え…な、な、ん……。え?」

体をなんとか起こしたものの、言葉が出てこない。俺はいつからこんなバカになったんだ。

「また、学校でね。磯城君」

呆然とする俺を置いて、江藤は妖艶に微笑んで部屋を出て行った。

「あ、え……、うあああああ!?」

自分の感情が限界突破した俺は枕に顔を押し付けてただ叫んだ。心臓がばくばくと鳴って落ち着かない。少しだけ心を落ち着けて、江藤が出て行ったドアを見つめた。瞬間に江藤の顔を思い出し途端に顔が熱くなって、うめき声をあげる。まだ指先に体温が残っているようにも感じて、ゆっくりと手のひらを握った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。

マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。 いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。 こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。 続編、ゆっくりとですが連載開始します。 「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったら引くほど執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。

祝福を授かりましたが、まるで呪いです。

めっちゃ抹茶
BL
異世界に生まれ変わって出会った、一組の運命の番であるαとΩの話。 ※ご都合主義があります ※オメガバースの知識がある人向け/作中で説明は一切ありません ※主人公が可哀想、ハッピーエンドではありません 主人公目線、あまり悲壮感はありませんがタグをご確認のうえ以上の事を念頭に、大丈夫な方のみお進み下さい。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

前世が悪女の男は誰にも会いたくない

イケのタコ
BL
※注意 BLであり前世が女性です ーーーやってしまった。 『もういい。お前の顔は見たくない』 旦那様から罵声は一度も吐かれる事はなく、静かに拒絶された。 前世は椿という名の悪女だったが普通の男子高校生として生活を送る赤橋 新(あかはし あらた)は、二度とそんのような事ないように、心を改めて清く生きようとしていた しかし、前世からの因縁か、運命か。前世の時に結婚していた男、雪久(ゆきひさ)とどうしても会ってしまう その運命を受け入れれば、待っているの惨めな人生だと確信した赤橋は雪久からどうにか逃げる事に決める 頑張って運命を回避しようとする話です

処理中です...