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第1章:影武者の目覚め
第1話:拾われた男
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焼け焦げた畦道に、男は一人倒れていた。
全身に煤をまとい、口の端から血を垂らしながら、それでもまだ死に切れていなかった。名前を十兵衛という。名とて村の百姓しか呼ばぬ、取るに足らぬ名だった。
「……生きてるか?」
鉄の匂いをまとった声に、十兵衛は微かに目を開いた。眼前に立つのは、甲冑に身を包んだ男。織田の家紋が、揺れる炎に照らされて鈍く光っていた。
「こいつ……」
武将の後ろにいた侍が、驚いたように声をあげた。
「顔が……殿に、そっくりでございます」
「……ふん」
武将はしゃがみこみ、十兵衛の顎を荒々しくつかんだ。
「生き延びた面、ついてやがる」
その目は、何かを企む商人のようだった。
数日後、十兵衛は“安土”と呼ばれる場所にいた。そこは百姓が踏み込むにはあまりにも煌びやかで、あまりにも異様な空気をまとう地だった。
「お前の名は今日から“信長様”の影だ」
そう告げたのは、無精髭の男だった。羽柴と名乗ったその男は、気さくに笑いながらも、目だけは獣のように研ぎ澄まされていた。
「簡単なこっちゃない。殿の喋り方、歩き方、癖、好きな料理まで……全部、叩き込んでやる」
十兵衛は答えなかった。
生きているのか、死んでいるのか。焼かれた村の幻が、時折まぶたの裏にちらついた。家族の叫び、倒れる母、焼け落ちる家。何もかもが一夜にして灰となり、残ったのは、自分の顔だけだった。
「おい、聞いてるか?」
「……殿とやらの顔は……そんなに俺に似ておるのか」
羽柴は少しだけ目を細めて、肩をすくめた。
「そっくりだよ。だから生きてんだろ、お前は」
その言葉が、十兵衛の胸に突き刺さった。
“似ているから、生かされた”。
“似ているから、何者かになれる”。
その夜、十兵衛は自分の顔を水面に映して見つめた。
よく見れば、確かに整った顔立ちをしている。
だが、その目の奥には何もない。ただ、ぽっかりとした空洞だけが広がっていた。
——ならば、この顔に“何か”を詰めてやろう。
生き延びた意味を、ここに詰めてやる。
「俺は……信長か」
水面に映る自分の顔に、十兵衛はそう呟いた。
誰も答えなかった。
だが、その無言こそが、何よりも肯定のように思えた。
全身に煤をまとい、口の端から血を垂らしながら、それでもまだ死に切れていなかった。名前を十兵衛という。名とて村の百姓しか呼ばぬ、取るに足らぬ名だった。
「……生きてるか?」
鉄の匂いをまとった声に、十兵衛は微かに目を開いた。眼前に立つのは、甲冑に身を包んだ男。織田の家紋が、揺れる炎に照らされて鈍く光っていた。
「こいつ……」
武将の後ろにいた侍が、驚いたように声をあげた。
「顔が……殿に、そっくりでございます」
「……ふん」
武将はしゃがみこみ、十兵衛の顎を荒々しくつかんだ。
「生き延びた面、ついてやがる」
その目は、何かを企む商人のようだった。
数日後、十兵衛は“安土”と呼ばれる場所にいた。そこは百姓が踏み込むにはあまりにも煌びやかで、あまりにも異様な空気をまとう地だった。
「お前の名は今日から“信長様”の影だ」
そう告げたのは、無精髭の男だった。羽柴と名乗ったその男は、気さくに笑いながらも、目だけは獣のように研ぎ澄まされていた。
「簡単なこっちゃない。殿の喋り方、歩き方、癖、好きな料理まで……全部、叩き込んでやる」
十兵衛は答えなかった。
生きているのか、死んでいるのか。焼かれた村の幻が、時折まぶたの裏にちらついた。家族の叫び、倒れる母、焼け落ちる家。何もかもが一夜にして灰となり、残ったのは、自分の顔だけだった。
「おい、聞いてるか?」
「……殿とやらの顔は……そんなに俺に似ておるのか」
羽柴は少しだけ目を細めて、肩をすくめた。
「そっくりだよ。だから生きてんだろ、お前は」
その言葉が、十兵衛の胸に突き刺さった。
“似ているから、生かされた”。
“似ているから、何者かになれる”。
その夜、十兵衛は自分の顔を水面に映して見つめた。
よく見れば、確かに整った顔立ちをしている。
だが、その目の奥には何もない。ただ、ぽっかりとした空洞だけが広がっていた。
——ならば、この顔に“何か”を詰めてやろう。
生き延びた意味を、ここに詰めてやる。
「俺は……信長か」
水面に映る自分の顔に、十兵衛はそう呟いた。
誰も答えなかった。
だが、その無言こそが、何よりも肯定のように思えた。
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