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第1章:影武者の目覚め
第6話:初めての采配
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——本陣の帳を揺らす強風が、十兵衛の裾をはためかせた。
彼は、軍議の中心に座っていた。
視線が集中する。数刻後、敵軍が進軍してくるというのだ。
「殿、どうされます?」
側近の一人が問う。だが、その声には疑念が滲んでいた。
“この男は、本当に信長様なのか”と。
……当然だ、と十兵衛は思う。
自分は“ただの百姓”だった。数ヶ月前まで、鍬を握って土を耕していた。
それが今、戦の指揮を求められている。
この場で失敗すれば、信長という名はただの幻になる。
自分も……。
十兵衛は、ふと口を開いた。
「敵は誰だ」
「三河より徳川勢。旧・明智の残党と結託し、京を包囲する構えです」
「兵は?」
「五千。こちらは三千」
軍配の常識で言えば不利。だが——
「野に隠した伏兵を呼べ。夜陰に乗じ、京の裏手・松ヶ谷にまわり込ませよ」
家臣たちがざわついた。
「殿、それでは——!」
「敵が京を包囲したいなら、我らは包囲の外から撃てばよい」
「……!」
十兵衛の声は、静かだった。だが確かに、場を制した。
「迎え撃つのではない。出し抜くのだ」
夜明け。
軍勢は、山間を抜けて裏道を進む。
霧の中、十兵衛は先頭に立ち続けた。
腰には信長の刀。だが、それを抜いたことはなかった。
「……やれるのか、俺に」
ふと馬上で呟くと、隣の秀吉が笑った。
「やれますぜ。あんたはもう、“信長”の顔してますから」
「……どういう顔だ、それは」
「勝ち戦しか知らねえ顔ですよ」
戦は、十兵衛の采配が功を奏した。
伏兵が敵の背後を突き、混乱が生まれる。
その間に本隊が中央を突破し、徳川勢を退けた。
“影武者が勝利に導いた”——その事実は、瞬く間に広がった。
兵たちは、勝鬨の声をあげながら叫んだ。
「信長様、万歳!」
「我らの将は、生きておられるぞ!」
十兵衛は馬上から、それを見下ろしていた。
誰も、自分を疑っていない。
誰も、問いただそうともしない。
彼らは、信じたいのだ。
信長が生きていると。
信長が導いてくれると。
たとえそれが“影”だとしても。
「……ならば、俺は……」
信長として生きることに、意味があるのかもしれない。
そんな思いが、胸の奥に沈み込んでいった。
戦の終わり。
帳に戻った十兵衛は、甲冑を脱ぎ、静かに床に座った。
かつての百姓の姿は、もうどこにもなかった。
彼の中にあったのは、ただ一つ——
「信長を演じていた男」が、「信長として生きる男」に変わる音だった。
彼は、軍議の中心に座っていた。
視線が集中する。数刻後、敵軍が進軍してくるというのだ。
「殿、どうされます?」
側近の一人が問う。だが、その声には疑念が滲んでいた。
“この男は、本当に信長様なのか”と。
……当然だ、と十兵衛は思う。
自分は“ただの百姓”だった。数ヶ月前まで、鍬を握って土を耕していた。
それが今、戦の指揮を求められている。
この場で失敗すれば、信長という名はただの幻になる。
自分も……。
十兵衛は、ふと口を開いた。
「敵は誰だ」
「三河より徳川勢。旧・明智の残党と結託し、京を包囲する構えです」
「兵は?」
「五千。こちらは三千」
軍配の常識で言えば不利。だが——
「野に隠した伏兵を呼べ。夜陰に乗じ、京の裏手・松ヶ谷にまわり込ませよ」
家臣たちがざわついた。
「殿、それでは——!」
「敵が京を包囲したいなら、我らは包囲の外から撃てばよい」
「……!」
十兵衛の声は、静かだった。だが確かに、場を制した。
「迎え撃つのではない。出し抜くのだ」
夜明け。
軍勢は、山間を抜けて裏道を進む。
霧の中、十兵衛は先頭に立ち続けた。
腰には信長の刀。だが、それを抜いたことはなかった。
「……やれるのか、俺に」
ふと馬上で呟くと、隣の秀吉が笑った。
「やれますぜ。あんたはもう、“信長”の顔してますから」
「……どういう顔だ、それは」
「勝ち戦しか知らねえ顔ですよ」
戦は、十兵衛の采配が功を奏した。
伏兵が敵の背後を突き、混乱が生まれる。
その間に本隊が中央を突破し、徳川勢を退けた。
“影武者が勝利に導いた”——その事実は、瞬く間に広がった。
兵たちは、勝鬨の声をあげながら叫んだ。
「信長様、万歳!」
「我らの将は、生きておられるぞ!」
十兵衛は馬上から、それを見下ろしていた。
誰も、自分を疑っていない。
誰も、問いただそうともしない。
彼らは、信じたいのだ。
信長が生きていると。
信長が導いてくれると。
たとえそれが“影”だとしても。
「……ならば、俺は……」
信長として生きることに、意味があるのかもしれない。
そんな思いが、胸の奥に沈み込んでいった。
戦の終わり。
帳に戻った十兵衛は、甲冑を脱ぎ、静かに床に座った。
かつての百姓の姿は、もうどこにもなかった。
彼の中にあったのは、ただ一つ——
「信長を演じていた男」が、「信長として生きる男」に変わる音だった。
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