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第3章:偽帝国の拡大
第13話:城に入る
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安土の本丸、黄金の大広間。
ふだんは信長が政治と謁見に使う神聖な場所に、今——「影武者」だった男が入る。
十兵衛は、**初めての“本丸入り”**に足を踏み入れた。
扉が軋む音とともに、家臣たちの視線が殺到する。
——これは試されている。
誰もがそう思った。
本当に「殿」なのか、本当に「戻った」のか——。
「……着座いたす」
低く、しかし芯の通った声が大広間に響く。
その声に、家臣たちの背筋が伸びる。
「信長様……やはりご存命で……」
柴田勝家が深々と頭を下げ、信忠、丹羽長秀、滝川一益らも続く。
十兵衛は、玉座に座った。
——高い。
見下ろす視界に、ふと酔いそうになる。
(これが……“あの男”が見ていた景色か)
偽りの玉座。だが、もう後戻りはできない。
「殿、御前にて緊急の謁見を賜りたしとの申し出がございます」
「誰だ?」
「斎藤道三の娘……濃姫様にございます」
——濃姫。
信長の正室だった女。
十兵衛は、名前だけは知っていたが、会うのは初めてだった。
「通せ」
やがて、音もなく広間の扉が開いた。
現れたのは、気品と威圧を纏った女だった。
艶やかな黒髪。
冷たい瞳の奥に、何かを見透かすような光。
——見られている。心の奥を。
「……久しぶりですわ、信長様」
「……ああ。久しいな、濃姫」
わずかな沈黙が落ちた。
だが十兵衛は、目を逸らさなかった。
「よくぞ戻られました。……本当に、“あなた”なら」
「それは、疑っているということか?」
「ふふ。……いえ、確認したいだけですわ。わたくしの“殿”が、どこまで変わったのかを」
そう言って濃姫は、床に膝をつき、額をつけた。
「——貴方が、わたくしの信長様であることを、信じております」
それが、疑念を含んだ忠誠であることを、十兵衛は理解した。
(なるほど……この女も、試しているのか)
だがそのとき、彼の中にかつての“百姓”の羞恥はなかった。
——いいだろう。誰の目でも、正面から受けよう。
十兵衛は静かに、そして堂々と微笑んだ。
「信じてくれて、嬉しい」
その夜、家臣団の間ではこんな噂がささやかれた。
「殿は、あの本能寺で“死”から生還し、何かが変わった」と——。
恐ろしくも、魅入られるような変貌。
それを見て、誰もが思ったのだ。
——今の“信長”は、本物以上に“信長”らしい。
ふだんは信長が政治と謁見に使う神聖な場所に、今——「影武者」だった男が入る。
十兵衛は、**初めての“本丸入り”**に足を踏み入れた。
扉が軋む音とともに、家臣たちの視線が殺到する。
——これは試されている。
誰もがそう思った。
本当に「殿」なのか、本当に「戻った」のか——。
「……着座いたす」
低く、しかし芯の通った声が大広間に響く。
その声に、家臣たちの背筋が伸びる。
「信長様……やはりご存命で……」
柴田勝家が深々と頭を下げ、信忠、丹羽長秀、滝川一益らも続く。
十兵衛は、玉座に座った。
——高い。
見下ろす視界に、ふと酔いそうになる。
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偽りの玉座。だが、もう後戻りはできない。
「殿、御前にて緊急の謁見を賜りたしとの申し出がございます」
「誰だ?」
「斎藤道三の娘……濃姫様にございます」
——濃姫。
信長の正室だった女。
十兵衛は、名前だけは知っていたが、会うのは初めてだった。
「通せ」
やがて、音もなく広間の扉が開いた。
現れたのは、気品と威圧を纏った女だった。
艶やかな黒髪。
冷たい瞳の奥に、何かを見透かすような光。
——見られている。心の奥を。
「……久しぶりですわ、信長様」
「……ああ。久しいな、濃姫」
わずかな沈黙が落ちた。
だが十兵衛は、目を逸らさなかった。
「よくぞ戻られました。……本当に、“あなた”なら」
「それは、疑っているということか?」
「ふふ。……いえ、確認したいだけですわ。わたくしの“殿”が、どこまで変わったのかを」
そう言って濃姫は、床に膝をつき、額をつけた。
「——貴方が、わたくしの信長様であることを、信じております」
それが、疑念を含んだ忠誠であることを、十兵衛は理解した。
(なるほど……この女も、試しているのか)
だがそのとき、彼の中にかつての“百姓”の羞恥はなかった。
——いいだろう。誰の目でも、正面から受けよう。
十兵衛は静かに、そして堂々と微笑んだ。
「信じてくれて、嬉しい」
その夜、家臣団の間ではこんな噂がささやかれた。
「殿は、あの本能寺で“死”から生還し、何かが変わった」と——。
恐ろしくも、魅入られるような変貌。
それを見て、誰もが思ったのだ。
——今の“信長”は、本物以上に“信長”らしい。
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