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第3章:偽帝国の拡大
第14話:実弟・信行
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安土城の南門に、一騎の影が現れた。
赤地に金の襷模様、織田家の血を引く者の証。
「……弟君、信行様にございます」
その名を聞いた途端、大広間に重い空気が流れた。
織田信行(のぶゆき)。
信長の実弟にして、かつて尾張で「兄殺し未遂」を起こした男。
赦されたはずが、今また現れた理由とは——。
「……通せ」
十兵衛は平然と命じたが、胸の内は揺れていた。
(弟がいたのか……)
信長の過去を急いで記憶から引き出す。
名、性格、逸話、口調、立ち居振る舞い。
「兄として」会話が破綻しないように、すべてを探る。
広間に現れた信行は、思ったより若々しく、眼光は鋭かった。
「兄者……」
言葉が、刺のように投げられる。
「本当に、兄者なのか?」
唐突な問いに、家臣たちが息を呑む。
「なぜ、そんな言葉を吐く?」
十兵衛は低く問い返す。
信行は一歩前に出た。
「兄者はあの本能寺で死んだと思っていた。だが生きていたという。……ならば、問おう」
「あの日、母上の死を告げたのは誰だった?」
鋭い。試す気だ。
記憶の中を駆け巡る。だが、そんな細部は——知らない。
しかし十兵衛は、あえて静かに笑んだ。
「母上に手向けた香は、私が選んだ。白檀だったな?」
信行が、わずかに目を細める。
——“外した”。
しかし、決定的ではない。
「記憶が曖昧になっているだけか……。だが兄者、何かが……違う」
「何がだ?」
「……“目”だ」
信行が真っ直ぐに十兵衛を射抜いた。
「兄者の目は、もっと……燃えるように傲慢だった。今の兄者は……どこか、違う」
十兵衛の喉元に、冷たい刃のような言葉が突き立った。
(——それでも、黙ってはいけない)
「人は、死を見て変わる。……あの夜、俺は“生まれ変わった”」
「生まれ変わった?」
「そうだ。“織田信長”としてな。弟よ、信じぬなら……その場で刃を交えるか?」
睨み合い。静寂。
だが、信行は刀を抜かなかった。
「……兄者。俺はもう争いたくない。今の兄者が“信長”なら……それで構わぬ」
深く頭を下げた信行の背は、やけに小さく見えた。
だが十兵衛は、わかっていた。
——この弟は、いつか再び牙を剥く。
その夜、濃姫がささやいた。
「弟君、演技がお上手ね」
「……あれは演技ではない。疑っている」
「ええ。でも、“疑っている”だけの者は、殺せないでしょう?」
「……殺さねばならぬ時が来る」
「そのとき、あなたは“兄”として殺すの? それとも、“影”として?」
その問いに、十兵衛は答えなかった。
赤地に金の襷模様、織田家の血を引く者の証。
「……弟君、信行様にございます」
その名を聞いた途端、大広間に重い空気が流れた。
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赦されたはずが、今また現れた理由とは——。
「……通せ」
十兵衛は平然と命じたが、胸の内は揺れていた。
(弟がいたのか……)
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名、性格、逸話、口調、立ち居振る舞い。
「兄として」会話が破綻しないように、すべてを探る。
広間に現れた信行は、思ったより若々しく、眼光は鋭かった。
「兄者……」
言葉が、刺のように投げられる。
「本当に、兄者なのか?」
唐突な問いに、家臣たちが息を呑む。
「なぜ、そんな言葉を吐く?」
十兵衛は低く問い返す。
信行は一歩前に出た。
「兄者はあの本能寺で死んだと思っていた。だが生きていたという。……ならば、問おう」
「あの日、母上の死を告げたのは誰だった?」
鋭い。試す気だ。
記憶の中を駆け巡る。だが、そんな細部は——知らない。
しかし十兵衛は、あえて静かに笑んだ。
「母上に手向けた香は、私が選んだ。白檀だったな?」
信行が、わずかに目を細める。
——“外した”。
しかし、決定的ではない。
「記憶が曖昧になっているだけか……。だが兄者、何かが……違う」
「何がだ?」
「……“目”だ」
信行が真っ直ぐに十兵衛を射抜いた。
「兄者の目は、もっと……燃えるように傲慢だった。今の兄者は……どこか、違う」
十兵衛の喉元に、冷たい刃のような言葉が突き立った。
(——それでも、黙ってはいけない)
「人は、死を見て変わる。……あの夜、俺は“生まれ変わった”」
「生まれ変わった?」
「そうだ。“織田信長”としてな。弟よ、信じぬなら……その場で刃を交えるか?」
睨み合い。静寂。
だが、信行は刀を抜かなかった。
「……兄者。俺はもう争いたくない。今の兄者が“信長”なら……それで構わぬ」
深く頭を下げた信行の背は、やけに小さく見えた。
だが十兵衛は、わかっていた。
——この弟は、いつか再び牙を剥く。
その夜、濃姫がささやいた。
「弟君、演技がお上手ね」
「……あれは演技ではない。疑っている」
「ええ。でも、“疑っている”だけの者は、殺せないでしょう?」
「……殺さねばならぬ時が来る」
「そのとき、あなたは“兄”として殺すの? それとも、“影”として?」
その問いに、十兵衛は答えなかった。
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