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第3章:偽帝国の拡大
第16話:口封じ
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——女が、「信長さま」と呼んだ。
それだけのことが、屋敷中に広まるのに時間はかからなかった。
「本当に殿の幼馴染と名乗ったのか?」
「十兵衛と呼んだらしいぞ」
「まさか、影武者が……」
噂は鋭い刀のように十兵衛を囲みはじめる。
信長の名を装って生きる彼にとって、それは最大の“綻び”だった。
おみよの言葉は、優しさだった。だが、それは同時に“毒”だった。
夕刻。
十兵衛は密かにおみよを城へ呼び寄せた。
「このままでは、そなたの命が危うい」
「……私が悪かったの?」
「違う。ただ、俺が“信長”であるためには、余計な口が要らぬだけだ」
おみよはしばらく黙ってから、ふと笑った。
「じゃあ、殺す?」
「……いや」
十兵衛は静かに首を振った。
「“口封じ”とは、殺すことだけじゃない。生かして、黙らせることもできる」
「どうやって?」
「——俺の“愛妾”になれ」
その言葉に、空気が凍った。
おみよは言葉を失ったまま、しばらく動かなかった。
だがやがて、その瞳に怒りも戸惑いも浮かばず、ただ悲しみだけが広がった。
「……それで、私の命は守られるの?」
「“信長の女”になれば、誰も手出しできぬ。だがそれは、“十兵衛の恋人”ではない」
おみよは首を横に振った。
「それでもいい。……たとえ、あんたの顔が変わっても、心が変わっても……私は、あの時の“あんた”に出会えたから……」
小さく呟いたあと、彼女はそっと近づき、十兵衛の胸元に触れた。
「——私の信長さま」
その言葉が、まるで処刑の号令のように響いた。
数日後、正式に「新たな側室」として迎えられたおみよは、金襖の奥に幽閉された。
人前には一切出ず、「口を閉ざした花」として存在を隠される。
だが、それは殺すよりも残酷な“口封じ”だった。
十兵衛は夜、一度だけ彼女のもとを訪れた。
「生きていてくれて、ありがとう」
おみよは笑った。
「……死ぬよりも辛いこともあるって、知ってた?」
「……ああ」
「でも、あんたはもう……信長さまだからね」
その夜、十兵衛は彼女の部屋から出ると、城の高台で風に当たった。
空に月はなく、ただ闇だけが、静かに彼の影を撫でていた。
(俺は、何を守って、何を捨てたんだろうな……)
胸の奥に、おみよの声が、血のように染みていた。
それだけのことが、屋敷中に広まるのに時間はかからなかった。
「本当に殿の幼馴染と名乗ったのか?」
「十兵衛と呼んだらしいぞ」
「まさか、影武者が……」
噂は鋭い刀のように十兵衛を囲みはじめる。
信長の名を装って生きる彼にとって、それは最大の“綻び”だった。
おみよの言葉は、優しさだった。だが、それは同時に“毒”だった。
夕刻。
十兵衛は密かにおみよを城へ呼び寄せた。
「このままでは、そなたの命が危うい」
「……私が悪かったの?」
「違う。ただ、俺が“信長”であるためには、余計な口が要らぬだけだ」
おみよはしばらく黙ってから、ふと笑った。
「じゃあ、殺す?」
「……いや」
十兵衛は静かに首を振った。
「“口封じ”とは、殺すことだけじゃない。生かして、黙らせることもできる」
「どうやって?」
「——俺の“愛妾”になれ」
その言葉に、空気が凍った。
おみよは言葉を失ったまま、しばらく動かなかった。
だがやがて、その瞳に怒りも戸惑いも浮かばず、ただ悲しみだけが広がった。
「……それで、私の命は守られるの?」
「“信長の女”になれば、誰も手出しできぬ。だがそれは、“十兵衛の恋人”ではない」
おみよは首を横に振った。
「それでもいい。……たとえ、あんたの顔が変わっても、心が変わっても……私は、あの時の“あんた”に出会えたから……」
小さく呟いたあと、彼女はそっと近づき、十兵衛の胸元に触れた。
「——私の信長さま」
その言葉が、まるで処刑の号令のように響いた。
数日後、正式に「新たな側室」として迎えられたおみよは、金襖の奥に幽閉された。
人前には一切出ず、「口を閉ざした花」として存在を隠される。
だが、それは殺すよりも残酷な“口封じ”だった。
十兵衛は夜、一度だけ彼女のもとを訪れた。
「生きていてくれて、ありがとう」
おみよは笑った。
「……死ぬよりも辛いこともあるって、知ってた?」
「……ああ」
「でも、あんたはもう……信長さまだからね」
その夜、十兵衛は彼女の部屋から出ると、城の高台で風に当たった。
空に月はなく、ただ闇だけが、静かに彼の影を撫でていた。
(俺は、何を守って、何を捨てたんだろうな……)
胸の奥に、おみよの声が、血のように染みていた。
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