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第4章:本物との対峙
第20話:名乗れぬ男
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「殿。明日、諸将を集めた評定がございます」
そう進言したのは、古くから仕える老臣・柴田勝家だった。
「おう。わかっておる」
十兵衛はうなずきながら、気配を探るように勝家の顔を見た。
眉一つ動かさぬその表情は、疑っているのか、信じているのか、まるで読めない。
(……どこまで、知られている)
この数日、城内の空気が明らかに変わっていた。
朝には“影武者”として政を行い、
夜には“本物”が病床から命を下す。
二つの信長が同じ屋敷にいる。
誰も言葉にはしない。だが、目線が交わらない。言葉が遠回しになる。
(俺が「本物」になったと思っていたのは……幻だったのか?)
その夜、十兵衛はそっと本物の信長の元を訪れた。
襖の向こうから微かな咳の音が聞こえる。
「信長様……いや、殿」
返事はない。
しばらくして、中からかすれた声が返ってきた。
「——名乗るがよい。お前が何者かを」
十兵衛は、静かに口を開いた。
「俺は……元は百姓。名は、十兵衛」
「よくぞ言うたな。……で、今は?」
「……信長様の、影です」
「まだそう申すか」
襖が、静かに開いた。
そこにいた“本物”は、病に痩せ細りながらも、目だけは鋭かった。
「儂は見ておるぞ。お前がこの国をどう動かし、どう人の心をつかみ、どう信長を超えようとするのかを」
「超える気など——」
「ある。なければ、儂に会いに来ぬ」
十兵衛は言葉を失った。
翌日の評定。
諸将が揃う広間に、信長の姿が二つあった。
一つは上座に座す、堂々たる“信長”。
一つは病を理由に奥の間から声だけを届ける、“信長”。
どちらも家臣たちは頭を下げたが、
その視線は、十兵衛と本物の間をちらりと泳いだ。
(この国は、俺を本物と見ているのか? それとも、ただ従っているだけか?)
答えはまだ出ない。
ただ一つわかっているのは、
——いずれ、“名乗らねばならぬ日”が来る。
そのとき、己が名を「信長」とするのか、「十兵衛」とするのか。
その選択が、全てを決めるのだ。
そう進言したのは、古くから仕える老臣・柴田勝家だった。
「おう。わかっておる」
十兵衛はうなずきながら、気配を探るように勝家の顔を見た。
眉一つ動かさぬその表情は、疑っているのか、信じているのか、まるで読めない。
(……どこまで、知られている)
この数日、城内の空気が明らかに変わっていた。
朝には“影武者”として政を行い、
夜には“本物”が病床から命を下す。
二つの信長が同じ屋敷にいる。
誰も言葉にはしない。だが、目線が交わらない。言葉が遠回しになる。
(俺が「本物」になったと思っていたのは……幻だったのか?)
その夜、十兵衛はそっと本物の信長の元を訪れた。
襖の向こうから微かな咳の音が聞こえる。
「信長様……いや、殿」
返事はない。
しばらくして、中からかすれた声が返ってきた。
「——名乗るがよい。お前が何者かを」
十兵衛は、静かに口を開いた。
「俺は……元は百姓。名は、十兵衛」
「よくぞ言うたな。……で、今は?」
「……信長様の、影です」
「まだそう申すか」
襖が、静かに開いた。
そこにいた“本物”は、病に痩せ細りながらも、目だけは鋭かった。
「儂は見ておるぞ。お前がこの国をどう動かし、どう人の心をつかみ、どう信長を超えようとするのかを」
「超える気など——」
「ある。なければ、儂に会いに来ぬ」
十兵衛は言葉を失った。
翌日の評定。
諸将が揃う広間に、信長の姿が二つあった。
一つは上座に座す、堂々たる“信長”。
一つは病を理由に奥の間から声だけを届ける、“信長”。
どちらも家臣たちは頭を下げたが、
その視線は、十兵衛と本物の間をちらりと泳いだ。
(この国は、俺を本物と見ているのか? それとも、ただ従っているだけか?)
答えはまだ出ない。
ただ一つわかっているのは、
——いずれ、“名乗らねばならぬ日”が来る。
そのとき、己が名を「信長」とするのか、「十兵衛」とするのか。
その選択が、全てを決めるのだ。
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