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第5章:天下を盗る
第27話:処断と涙
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朝霧が安土の城を包んでいた。
中庭には、粛々と人が集められている。武士、足軽、町人、僧侶……その中に、ひときわ異様な重さを纏う者がいた。
林通勝。
信長の譜代家臣。老将として数十年仕えてきた男。
昨日、謀反の企てを企図したとして、城内で捕縛された。
「……今日、裁きを受けるそうです」
小姓の声が震えていた。
「林殿が、まさか……」
人々の中に漂う空気は、恐れと疑念が交じり合っていた。
上段の間――。
十兵衛は、いつも通りの“信長”の装束で正座していた。
その脇には、堀秀政、丹羽長秀、佐々成政。重臣たちが無言のまま控えている。
「……申し上げます」
声とともに、林通勝が引き出されてきた。
縄をかけられたままの姿だったが、目は一点を見据えていた。
「林通勝。貴殿、我に謀反の意を抱き、都への密書を企てし。相違ないか?」
問う十兵衛の声音に、一瞬、戸惑いが走った。
だが林は、はっきりと答えた。
「――相違ない」
「この命を懸けて、あなた様が“信長様”ではないと訴えたかった。それが、わしの忠義であった」
言葉は震えていない。
むしろ、それを聞いた十兵衛の心が震えていた。
(……それほどまでに、俺のことを……)
十兵衛は視線を落とし、拳を膝の上で握った。
外庭。処刑台。
林通勝は、すでに腹を据えていた。
処刑を務めるのは、若き武士・奥村助右衛門。
林が幼少から育てた家臣の子である。
「林殿……何か、言い残すことは」
問われ、林はゆっくりと振り返る。
「……もし、この世に“本物”が戻ってきたなら」
「この“信長様”を、決して責めるな。わしは……この方が導いた未来に、すでに希望を見た」
言い終えると、刀の音が、朝に響いた。
静かな、命の終わりだった。
その夜、十兵衛は酒を口にしていた。
何の祝いでもない。ただ、涙が流れぬよう、酔うために。
「俺は……もう、“信長”であることに、迷いなどないと思っていた」
「だが――」
林の死が、胸の奥で鈍く重く響いていた。
「影武者が影武者を超えるには、“情”すら斬らねばならぬのか」
盃を置いた彼の手は、微かに震えていた。
「……俺が“本物”になるには、どれほどの命を背負えばいい?」
問いに答える者は、誰もいなかった。
中庭には、粛々と人が集められている。武士、足軽、町人、僧侶……その中に、ひときわ異様な重さを纏う者がいた。
林通勝。
信長の譜代家臣。老将として数十年仕えてきた男。
昨日、謀反の企てを企図したとして、城内で捕縛された。
「……今日、裁きを受けるそうです」
小姓の声が震えていた。
「林殿が、まさか……」
人々の中に漂う空気は、恐れと疑念が交じり合っていた。
上段の間――。
十兵衛は、いつも通りの“信長”の装束で正座していた。
その脇には、堀秀政、丹羽長秀、佐々成政。重臣たちが無言のまま控えている。
「……申し上げます」
声とともに、林通勝が引き出されてきた。
縄をかけられたままの姿だったが、目は一点を見据えていた。
「林通勝。貴殿、我に謀反の意を抱き、都への密書を企てし。相違ないか?」
問う十兵衛の声音に、一瞬、戸惑いが走った。
だが林は、はっきりと答えた。
「――相違ない」
「この命を懸けて、あなた様が“信長様”ではないと訴えたかった。それが、わしの忠義であった」
言葉は震えていない。
むしろ、それを聞いた十兵衛の心が震えていた。
(……それほどまでに、俺のことを……)
十兵衛は視線を落とし、拳を膝の上で握った。
外庭。処刑台。
林通勝は、すでに腹を据えていた。
処刑を務めるのは、若き武士・奥村助右衛門。
林が幼少から育てた家臣の子である。
「林殿……何か、言い残すことは」
問われ、林はゆっくりと振り返る。
「……もし、この世に“本物”が戻ってきたなら」
「この“信長様”を、決して責めるな。わしは……この方が導いた未来に、すでに希望を見た」
言い終えると、刀の音が、朝に響いた。
静かな、命の終わりだった。
その夜、十兵衛は酒を口にしていた。
何の祝いでもない。ただ、涙が流れぬよう、酔うために。
「俺は……もう、“信長”であることに、迷いなどないと思っていた」
「だが――」
林の死が、胸の奥で鈍く重く響いていた。
「影武者が影武者を超えるには、“情”すら斬らねばならぬのか」
盃を置いた彼の手は、微かに震えていた。
「……俺が“本物”になるには、どれほどの命を背負えばいい?」
問いに答える者は、誰もいなかった。
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