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第5章:天下を盗る
第29話:歴史の闇
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「信長公の足跡に、矛盾がある。──本能寺以前と以後で、人が変わったようだ」
そう語ったのは、ある若き公家の密談での一言だった。
だが、その声は記録にも記憶にも残らない。翌朝、彼は舟から落ちたということにされた。
あるいは、別の浪人がこう語った。
「かつて安土の厩で働いていた。俺は見たんだ、信長公の“影”と、もう一人の男を……」
彼の話も、飲み屋のざれごととして片付けられた。
翌週、その浪人は切腹に追い込まれた。理由は「主君への暴言」。
──何かが、おかしい。
人々のうっすらとした違和感は、すべて**「信長公の権威」**の名のもとに塗り潰されていった。
「……気づかれてきている」
そう告げたのは、長年仕えてきた重臣・柴田勝家だった。
「殿、噂がございます。“本能寺の信長公は別人”だったと……」
十兵衛は、静かに立ち上がった。
「それがどうした。俺は、戦を収め、民を救い、国を築いた」
「その“実績”の前に、“過去”が意味を成すのか?」
勝家は、押し黙った。
かつては小さき百姓だった男が、いまやすべてを見下ろしている。
「お前も、わかっているはずだ。真実は“正しさ”ではない。勝者のものだと」
その夜、城の書庫に灯がともっていた。
十兵衛は、かつての自分の名が書かれた古い戸籍帳を、静かに燃やした。
「十兵衛……という名は、もうどこにもない」
燃える紙の灰が、夜の風に舞う。
名を失い、過去を消し、偽りが真実となる。
それは、人としての死に等しい選択だった。
翌日、町には奇妙な布令が出される。
「織田信長公の過去に関する、虚偽・流言蜚語はすべて禁ず」
「違反者は、流罪または死罪とする」
その一文に、民は驚いた。
だが同時に思った――
「それほどに、殿は“本物”なのだ」と。
その布令を手にした濃姫が、ぽつりとつぶやく。
「あなたは、過去を殺してしまったのね……」
「それでも、私は……その罪を背負ってでも、あなたと歩む」
十兵衛は、目を閉じた。
かつての自分の笑顔が、風に消えていく気がした。
「あと一歩だ……俺の“物語”を、完全に書き換えるまで」
そう語ったのは、ある若き公家の密談での一言だった。
だが、その声は記録にも記憶にも残らない。翌朝、彼は舟から落ちたということにされた。
あるいは、別の浪人がこう語った。
「かつて安土の厩で働いていた。俺は見たんだ、信長公の“影”と、もう一人の男を……」
彼の話も、飲み屋のざれごととして片付けられた。
翌週、その浪人は切腹に追い込まれた。理由は「主君への暴言」。
──何かが、おかしい。
人々のうっすらとした違和感は、すべて**「信長公の権威」**の名のもとに塗り潰されていった。
「……気づかれてきている」
そう告げたのは、長年仕えてきた重臣・柴田勝家だった。
「殿、噂がございます。“本能寺の信長公は別人”だったと……」
十兵衛は、静かに立ち上がった。
「それがどうした。俺は、戦を収め、民を救い、国を築いた」
「その“実績”の前に、“過去”が意味を成すのか?」
勝家は、押し黙った。
かつては小さき百姓だった男が、いまやすべてを見下ろしている。
「お前も、わかっているはずだ。真実は“正しさ”ではない。勝者のものだと」
その夜、城の書庫に灯がともっていた。
十兵衛は、かつての自分の名が書かれた古い戸籍帳を、静かに燃やした。
「十兵衛……という名は、もうどこにもない」
燃える紙の灰が、夜の風に舞う。
名を失い、過去を消し、偽りが真実となる。
それは、人としての死に等しい選択だった。
翌日、町には奇妙な布令が出される。
「織田信長公の過去に関する、虚偽・流言蜚語はすべて禁ず」
「違反者は、流罪または死罪とする」
その一文に、民は驚いた。
だが同時に思った――
「それほどに、殿は“本物”なのだ」と。
その布令を手にした濃姫が、ぽつりとつぶやく。
「あなたは、過去を殺してしまったのね……」
「それでも、私は……その罪を背負ってでも、あなたと歩む」
十兵衛は、目を閉じた。
かつての自分の笑顔が、風に消えていく気がした。
「あと一歩だ……俺の“物語”を、完全に書き換えるまで」
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